25話:素材取りタイム!
「えぇ…やる…の?いまから…。」
私達はルイサさんに希少部位を融通してもらえる事を伝えに行った。
…が、ルイサさんはあんまり乗り気ではなかった。むしろ嫌そうだ。
まあ確かに今は昼だし、普段は昼も夜も寝ている眠才にとっては酷な話だよねー。
「ほらっ!ルイサ前々からあの素材欲しがってたでしょっ!きーなーさーいーよっ!ほらっ!」
友達であるが故許されるのか、クルメさんは割と強引にルイサさんを背負って店から引っ張り出そうとする。
「じゃあ、私はリーダーのお見舞いに行ってきますね。」
その間にセルスさんは棚から幾つかのポーションと、それから造花を取って、カウンターの上にお金を置く。
なんと言うか…この常に寝てる店主に対して、みんな慣れてるんだなって感じ。他に店にいた常連さんも同じようにお金を置いていっている。
「了解っ!私はルイサを頑張って連れて行くからそっちはよろしくっ!」
「んんー…。」
そうして私達は素材取りの会場へと向かった。
広場には例の龍が大まかに解体されており、それを囲むように人だかりができていた。
人だかりの正体は都市中から集った技術者達であり、自分がどの部位を入手するか"競り"をしている…が、まるで何言ってるのかわからない。
多分スピーディに取引をするために簡略化されてるんだけど…多分言語が違うんだろーなー。
ルイサさんは普段から"競り"が体に染み付いてるのか、引き寄せられるようにそこへ向かおうとする…のをクルメさんが止める。
「今回私達のはこっちっ!」
そうして向かった先には、私達用に素材が分けて置かれていた。
えっと…翼の先端と…何これ、爪?鱗?
元々龍の素材の知識なんかある訳がない上に、真っ黒なもんで何もわからない。
が、それを見た瞬間それまでほとんど寝ながら歩いていたルイサさんの目が一瞬見開かれる。
彼女には価値がわかったらしい。さすが。
そしてもこもこの着る毛布の中から道具を取り出すと、慣れた手つきで解体を始める。
「やっぱり。実物見せれば意地でも取りに行くと思ったんだっ!」
「性格…完全に把握してるんですね…。」
とはいえやはり昼に作業をするのは限界があるようで、ルイサさんは少し考えた後毛布の中から取り出した合具のうちの一つ、ハンマーを渡してくる。
「んー…これおねがぃ…。」
「え、私も手伝え…って事?」
「そ…。じゃあ…ふぁ…。」
そしてのまま突っ伏すようにして眠ってしまう…ってええー。
「ええ…んで、なんで私なんだ…。」
「一番近くにいたからじゃない?お姉ちゃん頑張れ!」
「これ真っ黒でどうなってるのかもよくわからないのに…?」
「片手で形を確認してもう片方の手で叩くとか…?頑張れ!」
「お姉ちゃんにはそんな細かい作業できないよ…痛っ!!」
元々の私も恐らくサリアさんも不器用であるが故に指にハンマーを打ち付けながらも、なんとか一枚一枚鱗を加工していく。
その間クルメさんはルイサさんを起こそうと頑張っていたようだが、昨日覚醒したのもあってかまるで効果は無さそうだ。
流石眠才…てか手伝ってよ、せめて弟くんだけでも!
「おーい!お前達の滞在期間、特別に無期限に延長してもらえたぞー?」
と、そのまま作業を続けていると聞き覚えのある声がした。エミリさんも来たようだ。
遠くから走ってきて、許可証らしき紙を渡してくる。
「ありがとうございます!こんな事やらせちゃって…。」
「ありがとうございます!僕達行く当てなかったから助かりました!」
滞在期間を申請した時は3日としたのだが、考えてみればその3日ってのは申請した日も含まれているわけだ。つまりエミリさんの助けがなければ、私たちは既にこの街を追い出されている。
「お前達は都市を救った英雄だからな、これくらいわけないさ…そうだ!領主様に報告しに行こう。きっとすぐに礼を言いに飛んでくるぞ。」
「いやいやいやいや!!そんな滅相もないですよ!!」
「遠慮する事はない。領主様…つまり父上はフットワークの軽いお方だ。自身が出向くことを望む。」
「そんな大事にしないでくださいよ!そんなわざわざお礼を言わせるために呼びつけるなんて…。」
「そうか?さっきお前の主張してた報酬の増額も、特例で認めてくれるやも知れぬぞ。」
「そう言う問題じゃないです!」
流石にこれはリスク高いよー!!
最悪一発で首飛ばされてもおかしくないよーそういう権力者の前だと!!
「ふむ…まあ、お前が良いならそれでいいが…。ところで随分と大変そうだな。」
そう言いながらエミリさんは私の手元に視線を移す。傷だらけだよまったく…。
「なぜか初心者の私がやってるからねー…。」
「工場は使わないのか?てっきりそこで解体を行うと思って、工場のすぐ隣の広場を会場にしたのだが…。」
「工場…?」
横を見ると、確かに煉瓦造りの巨大な建物がある。確かに普通の家とは構造が違うねこれ。
「ここは都市が運営する名産であるポーションや軍が使う武器などを生産する工場なのだが…一年ほど前アメニス殿がその一画を借りたいと申し出てきてな。今はこの建物だけアメニス殿が使用しているんだ。」
「え…私知らなかったっ…。ルイサあいつなにやってるのっ…?」
「さあな、私も直接関わったわけではないので詳しくは知らんが確か魔道具を作ってる…だったっけか。見たことのない、全く新しい構造のやつだ。」
「!!」
その言葉を聞くと同時に、私は隣の工場から、その中のものから、私は"何か"を感じ取った。
"何か"ってのは具体的に説明できるものじゃない。多分運が良かったとか、そういう類だと思う。
ただ、あそこでそれと出逢っていなければ、私の旅もこの世界の歴史もまるで違ったものになっていたんだろうね。
工場に入ると私の目に飛び込んできたのは、1つの魔道具だった。
数多くの失敗作の中に鎮座するそれに私は見覚えがある。地球で。
この異世界に来る前、地球で見たことがある。同じものを。
見たことがあるってことはそれ即ち、現代でも通用するレベルのすごいやつって事なんだ…!
それが私と魔導エンジンの、最初の出会いだった。
〜あとがき〜
すみません、色々と立て込んでました。(2日間休載)
まあ次回からはまた毎日動けるんじゃないかって希望的観測。
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