26話:魔力エンジンとの出会い

「えちょっと待って!!??これ凄くない!?!?!?」

凄くない!?ねえ!?

私の出した声が大きすぎたのか、クルメさんが薄目を開ける。

「ねえこれ!!」

「ん…そんな…に見る?…ふぁ…ほらこれ。」

ルイサさんはエンジンについている蓋のようなものを開き、何かを装填する。


エンジンの仕組みとかあんま知らないけど、そう簡単に作れるものなわけがない。

そしてより、物品なのにも関わらずものすごいオーラというか、威圧感を感じるんだ!

「凄い…これって動かし方はどんな感じですか?」

「簡単…。ここに魔力…流す…んしょ。」

ルイサさんが剥き出しで取り付けられた魔石に触れる。


パン!!パァン!!

「うわ!!」

「何何!?」

「きどー…おん。」

なにかの破裂音が8回すると同時にピストンが、軸が、静かにゆっくりと動き出す。

次第にそれは激しく、そして速く動くようになる。

思ってた数倍は力強い。これ車に積まれてるレベルだぞ!?


────────

【魔力エンジン】

分類:機関

魔力を流すことで、半永久的に回転するエネルギーを発生させられる装置。

現状試作品含め1基しか完成していないため、実用化には至っていない。

起動後は音がとても小さく、排気ガスを出さない上に冷却の必要がないという利点を持つ。

────────

【アメニス試製エンジン】

分類:機関

ルイサ・アメニスの開発した魔力エンジンの試作品。

完成する前にルイサが問題点に気付いたため何度も分解組み立てが繰り返され、ようやく完成した。

この世界では蒸気機関の発達が著しく遅いことから、これが世界初のエンジンと言える。

────────


「確かに面白いがこれ、どうするんだ?回ってるだけって…。」

「それ…私も思っ…て…。」

「うーん、風車の補助とか?」


私とのひどい温度差に困惑している周囲をよそに、私の脳は多方面から知識をかき集めて高速回転していた。

そしてその思考は一つに収束する。

世界初のエンジン!つまりこの世界のどこを探してもこれしか無いってことだ!

そういうことだな!?"これ"で今なら天下取れるってことだな!?


「エミリさん!やっぱり領主様呼んできてくれませんか!?」

「え?ああ良いが…。」

「どうしたの?急に考えが変わって…。」

「そりゃあもちろんエンジンを広めて一儲けするんだ!その為には権力者に布教するのが一番だからね!」

「え…?でもなんでこんな機械で…?」

んーー…なんでわからないかなー…?まあわからないのも無理ないけどさ…。

だってみなさん、異世界にエンジンですよ!?蒸気機関の存在しないこの異世界に、エンジンですよ!?現代世界の基礎そのものと言える機関ですよ!?!?何でみんな今ここで起こっていることの凄さが理解できないんだ!!

「絶対こいつの価値は上がる!分かるんだ!もう決まってるんだ!ルイサさん私と組もう!これさえあれば本当になんでも…」


私がそう言って詰め寄ったその時、工場の大扉を激しく叩く音が聞こえた。

次第にその音は大きくなり、ついには大扉の鍵を破壊して二人の大男が入ってくる。

「よし、確かに奴等が依頼にあった逃亡奴隷か。」

「依頼主様も馬車で待機している。すぐに捕獲するぞ。」

大男達は互いに頷きあうと、そのままずかずかと入ってくる。


「え、僕たちが奴隷…?まさかアルアドから追って…。」

「いかにも。しかも会長からの直々の依頼だぞ。お前ら何やったんだいったい…。」

そう言うと二人は横に逸れて道を開け、奥からもう一人が歩いてくる。

「なに、少しばかり奴らの逃げ方に、目に余るものがあったんだよ。奴隷1人の逃亡は、他の奴隷の逃亡を招きかねん。見せしめとしても裁かねばならぬからな。」

会長を名乗るデブは、そう言って巨大な葉巻を咥えた。

おいマジかよ!ものすごい悪人面のデブ出てきたぞおい!!

いや…まあ人を見た目で判断しちゃいけないって言うけどさ…。


と、私達を庇うようにクルメさんが立ち塞がった。

「ちょっとっ!奴隷とかなんとか知らないけど、ルースーには奴隷制はないのっ!他領のルールも知らずあなた達のその行動にこそ、目に余るってやつっ!」

が、デブは全く動じない。


葉巻を投げ捨てると、ポケットから魔石を取り出してクルメさんに向ける。

「ふぅ〜〜ん。これはこれは。」

「なっ!?」

クルメさんの表情が一瞬こわばる。

『分かった無断鑑定だ!!』

弟くんは何が起きたのかを理解したのか、思考共有で叫ぶ。

『え!?じゃあ戦線布告ってこと!?』

『うん!』

『じゃあ向こうが仕掛けてきたんだ!なら1発殴って…』

『無理だよ!あの大男を突破できない!』


デブが下衆しか見せない糞笑顔を浮かべると、口を開く。

「名前、見せてもらったぞ?いや〜〜興味深い。実に興味深い。まさか苗字が…」

「え…な、何を…やめて!」

デブの言葉に対し、クルメさんが明らかに狼狽している。

「やめて?何を?"事実"を言うことをか?自分が親ががわざわざ苗字を消して追放した捨て子って事実をか?あ〜〜〜うっかり言っちゃったな〜〜!事実!隠してきたのに!ざんね〜〜ん!やっと見つけた居場所も、こんなに簡単に消えるんだ!…おっと、泣くんじゃねえぞ〜?それに"っ"はどうした〜?安易なキャラ付けで無理にやってる"っ"だろ?印象に残って捨てられないようにするための、涙ぐましい努力ってやつか〜?いや〜感動感動!」


……ああ、やっぱデブ呼びで正解だったわ。

精神攻撃なんかクズしかやらねえよ。こっちにまでダメージが入る。

私の中でふつふつと湧く怒りをよそに、そのままデブは流れるように暴言を並べる。

「それでできた友達がぁ?じゅ〜じぃん?捨て子と獣人、運命にハナッから奴隷と刻まれた二人が、奴隷制の無い楽園で傷を舐め合うって訳だ!あ?甘えるんじゃねえ!奴隷ってのは本人に問題があるから奴隷なんだ!楽園とやらも制度上は奴隷制を禁じてるが、肝心の住民はどうだ?制度だから仕方なく歓迎を装ってるだけだ!お前自身が証明してるじゃないか!捨て子って隠さなきゃいけないんだからなあ!バレたらオトモダチみたいに裏からの反応が変わるからなあ!」


ああ、駄目だ。こりゃ。

思想が偏ってる上に何言ってるかわからねえ。

かくなる上は…。

『…殴るか。』

『え、お姉ちゃんだからそれは無理が…。』

静止しようとする弟くんを無視し、私はデブ目掛け駆け出す。

大男は即座に割って入ろうとする。流石はボディガード…

…だけどプロじゃない。そもそも本気度が違う!!


私は自分を第一に生きたいと思っている。

人助けなんて向いてないし、やる気も無い。

だから殴る行為に意味がある気はしない。

ただまあ…なんかやってみたかったんだよね。

あと…なんか本気になれたんだよね。

よくわからないけどさ。

そんな事を考えながら、私は拳をデブに直撃させた。



〜あとがき〜

駄目だったー!!(昨日の続き)

おのれ試験!!だが今度こそ!!

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