2章:エンジンと、大砲と、内戦と、

戦いの準備の章

24話:報酬を受け取って大金持ちになろう!

『…絶対に手離しちゃ駄目だよ!!』

すでにお姉ちゃんの姿は見えなくなっていた。

思考共有の範囲外だ。連絡できない。

「まずいですね…サリアさんの安否もそうですが、おそらく奴が次行くのは都市ルースー…。」

本当にまずい。お姉ちゃんを助けるにしてもまずはここからでないと!!

どうする!?僕も穴から出るか?いや、分かってるはずだ。僕にはほとんど垂直のこれは登れない。


万策尽きた僕が頭を抱えていたその時だった。

「大丈夫っ!まだ私がいるよっ!」

重苦しい空気をぶち壊すように、ハキハキとした声が響く。

僕が振り返ると、そこには紀章をドヤ顔で構えるクルメの姿があった。

[第二大隊直属第一特別小隊]の文字が見える。

本の知識を思い出した僕にはすぐ分かった、あれは都市ルースーの軍のものだ。


「"特別"…小隊…?」

「そ、特別。特別だからお願いしたら条件付きで自由行動させてもらえたんだっ!条件は普段は本来の戦い方と身分を隠すってのと、都市に何かあったらこれを使って帰って都市を守るって事っ!」

クルメは紀章を裏返し、裏で展開されている魔法陣を見せつける。

「これは…転移陣!?え、あれって魔力は…?」

魔力の流れていない魔法陣はただのイラスト。特に転移陣はずっと魔力を流して起動しておかないと、転移先の地点を記録し続ける事ができない。

「ずっと流してたに決まってるでしょ?大丈夫っ!私は特別だから起動しながら魔法を使う事だってできるっ!」

「凄い…ですね…。」


クルメはパーティの全員が入るように、転移陣を拡大させながら続ける。

「都市に行けばアレが使えるから、あんな龍一撃だよっ!」

「一撃…?あの龍を…?」

「もちろんっ!だって私の本来の戦い方は…」





視点:商人さん


「…で、クルメさんがスナイパーだったってこと!?マジ!?」

「マジだよっ!この銃ってやつはポラペス共和国製の超貴重品で、私の長杖でもあるんだっ!」

まじか…銃が魔法杖ねえ…。

『ところでポラペス共和国って何?』

『本もあまりないし僕も詳しいことはわからないけど、大陸を挟んで遠く西の果てにある国らしいよ。』

弟くんから送られてくるイメージの地図を見るに、地球でいうスペインと、ポルトガルと、フランスの一部にまたがる国らしい。

なるほど、ヨーロッパの方が文明も進んでいるんだな。日本に鉄砲を伝えたのも、確かポルトガルだ。


「それにしても…同じパーティメンバーの私にすら教えてくれないとは…。」

「ごめんってばセルスーっ。」

クルメさんがセルスさんの背中をバシバシと叩いてる。

セルスさんはさっき一人でボルタスさんの巨体を背負って病院まで行ってきたばかりらしいし、やめてさしあげろ。


私たちは今、ボス分配会議とやらに参加している。

本来ボスの討伐とは、数十ものパーティが挑む一大事業。

一番最後に倒したパーティが全てを独占するのは不公平。ということで偵察や与えたダメージなど、それらを総合的に判断して報酬を分配するわけだ。

っていっても戦ったパーティは私たちだけ!仮に人数で均等に分けるなら三分の一が姉弟のもの!!

ぐへへ、笑いが止まりませんなあ!


と、思っていました。

おそらく軍のものと見られる鎧を身につけた女性が、小箱を持って入ってくる。

「軍の代表及びボス分配会議の司会進行役として来ました。中隊長のパオラと申します。」

「「「「「よろしくお願いします。」」」」」

「さて、円滑に分配を行うため、冒険者ギルドが一括で換金を行った結果、300万Gとなりました。」

パオラさんはそう言って装飾の施された小箱を開く。

中身は…さんびゃくまんごーるど!?

『すごい…大白金貨なんて初めて見たよ…あれ一枚10万Gだよ?』

すごい。もうなんか、輝いてる。


「この換金の手数料として、一割がギルドに入ります。」

ん?んまあ…うん。

「次に税金です。ルースーに一割。」

世知辛いなあ…。

「そしてルースーに一割。」

…え!?


「ちょっと待って!?今ルースー2回出た!2回出たよ?!」

そう抗議する私に視線すら送らず、パオラさんは説明する。

「前者は都市ルースー。後者はルースー領です。どちらも法で定められています。」

ええ!?まじかあ…。

「それから都市への被害です。本来ボスはボス部屋の中で倒すものの為、復興支援金の一部はここから出します。家屋半焼数軒で120万G。さらに!」

ま、まだあるの!?もうその辺で勘弁…。

「今回の討伐には、軍が動員される事態となりました。止めを刺したのも軍です。よって軍も討伐に参加したとして扱います。」

すごい…嫌な予感…。

「あなた達の与えた合計が413ダメージ。軍は記録機を装備していないため引き算で計算すると、軍の与えた合計は449ダメージ。その他に偵察、軍の出動にかかるコスト、シールドの起動などを総合的に考慮した結果、報酬比は軍6対あなた達4となりました。


『まじか…結局いくら残った?』

『多分1人6万G…。まあ…お肉売った時よりは稼げたけど…。』

いやまあね?少なくとも"万"はある訳だ。これっぽっちのなどと言うのはさすがに失礼だろう。

でもいろんな理由つけてそこまで持ってくのはないって…ん?

ちょっと待て、記録機ってなんだ?


ーーーーーーーー

【戦闘記録機】ランクD

分類:魔道具

冒険者ギルドに所属するパーティに一つずつ支給される魔道具。

パーティメンバーの誰が何にどれだけダメージを与えたか、どのような行動で戦闘をサポートしたかが記録され、それぞれの総合的な貢献率も算出することができる。

共同で敵を撃破した時に、戦利品の分配で争いが発生しないように導入された。

ーーーーーーーー


え、じゃあこれって…。

「ふーん。パオラさーん、この計算随分と無理があるところがありますねぇ?」

「どうなさいました?質問ですか?」

「いやあ、あの龍に与えたダメージ量、記録機じゃまともな数値が測れてないよなあって思いましてね。」

「というと?」

「龍への決定打となった攻撃は龍が落下したときの衝撃によるダメージ!龍の鱗を剥がしたのは私だし、狙撃したのはクルメさん。ついでに私に武器を届けたのもアレルだ。私達のダメージと言っても良いのにも関わらず、計算されないのはおかしいですよねえ?」

言ってることは割と真っ当…だと思う。だが、パオラさんは割と正面から拒否してくる。


「計算を行なっているのは軍…つまり都市そのものであり、ミスはありません。今回の会は実質的に分配の報告を行う場であり、意義は認められません。」

「その計算方法がおかしいって言ってるんですよ。大体軍が当事者になっている状況で、第三者が計算を行なってないってのも交渉として破綻してるとは思いませんかねー?」

『お姉ちゃん!やめとこうよ!』

『いやここで引き下がっちゃ駄目だよ。これは私達が持ってる権利だし。』

弟くんからの思考共有を軽くあしらい、パオラさんと口論を続けようとした、その時だった。


「なるほど…落下ダメージか。パオラには規則と判例に従うように言っておいたが…確かにそこはグレーゾーンだったな。」

入口の方から、聞き覚えのある声が聞こえる。これは確か…。

「エミリさん?」

「先ほどはすまなかった。どうやらお前が龍を操っていたわけではないということが証明されたようだ。」

エミリさんは報告書のような紙を手に持ち、私たちに頭を下げる。

「いえ、そんな頭下げるなんて…。」

弟くんが慌てて頭を上げさせようとしている。


「さて、確かにお前たちの主張はごもっともなのかもしれない。が、今回はイレギュラーでな。報酬の分配手続きは実はすでに終わってしまっているんだ。すまない。」

「えぇー…。」

そりゃないって…。

「そう言うな。お前たちはこの都市を救った英雄。そこで"素材取り"の時に希少部位を融通するようにしよう。」

「素材取り…?」

「そうだ。聞くところによると、お前達の友人にルイサという職人がいるらしいじゃないか。彼女に最上位素材を使った、良い武器を作ってもらうといい。」

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