18話:超異世界流!ポーションができるまで

「お…ゃん!おね…ちゃ…!お姉ちゃん!」

遠くの方から聞こえきた弟くんの声が、だんだんはっきりしてくる。

「ん…う、うーん…なん…や?」

「起きた!!僕が悪かったよぉ!ごめんよぉぉ!」

いきなり弟くんが飛びついてくる。うーんこれはお姉ちゃんっ子。

私は弟くんの肩を借りて起き上がる。頭がガンガンと痛む。

死んでなかったのはいい事だが、痛みが凄まじくてそれこそ死にそうだ。


────────

【サリア・コール】

HP:1/49

────────


「うう…マジでギリギリだ…これじゃスライムでも私を倒せ…スライムにこんだけ痛めつけられたんだった…うっ!」

体にも痛みが走る。

「いいから喋らないで!!ささ、ゆっくり歩いて…早く都市内に戻らなくちゃ…」

辺りを見ると、もう夜になっていた。随分と気絶していたらしい。

私達は敵の一体にも出会わないように祈りながら門へ。そしてるいさのぱんやへと向かった。





「ルイサさん!!お姉ちゃんのことを助けて!!」

「アレル…そんな大袈裟なこと言わないでくれ…。」

るいさのぱんやの扉を、弟くんが勢いよく開ける。

「ん…ふぁぁなにぃ…ってちょっと待って今行く!」

椅子の上で寝ていたルイサさんは飛び起きると、もこもこ着る毛布を脱ぎ捨ててこっちへ走ってくる。

「お姉ちゃんが…お姉ちゃんがスライムメタルにやられて残りHP1なんだよ!!」

HP1にしては私元気だけどね…体中痛いけど。


「カネと戦ったのあんたらだったの…って大丈夫!?ちょと待って今薬を…ってああぁ薬はあんたらから貰う材料で作るんやった…早く材料を!」

ルイサさんは弟くんから魔導袋をひったくり、中身を取り出していく。

「ルイサさんってこんなじゃなかったよね…あとカネって?」

「今夜はあんたらが材料を持ってくる言うてたから覚醒してたんや。」

「あー、眠才を持っていると夜だけ眠気に襲われず覚醒できるんだっけ。」

覚醒って印象ものすごく変わるな。こんな感じなんだ。

ってか覚醒すると関西弁になるってマジ!?あの神方言まで再現してたのか…?

「覚醒しても眠いもんは眠いんやけどね…。カネっていうのはこいつやで。」

いや、エセ関西弁かもしれない。ほら、ネットをすみかにする人たちがたまに使う…。

あの神転生ものが好きなんだろ?って事はネットでラノベー読み漁るうちにエセ関西弁マスターしてたりして…っていかんいかん。どうでも良い事考え出すと連鎖して止まらなくなるの私の悪い癖だよな。


ルイサさんが「カネのやつ来ぃへんかな…」なんて言っていると、扉からヤバいスライムさんが出てきた…!?

そして、ルイサさんの肩に飛び乗る。

「うわでた!」

ヤバいスライムさんが形を変え、トゲを弟くんの方へと向ける。

「こいつ僕のこと威嚇してるよ…。」

弟くんが私の後ろに隠れる。怪我人を盾にするなよ…。


「こいつのことは攻撃しちゃあかんで。すっごい恨むんやから…せや、カネのこと鑑定してみぃ。大丈夫、ちゃんと見せるように言うとくから…。」

私は恐る恐るヤバいスライム…いやカネさんを、鑑定してみる。


────────

【カネ】【金のスライムメタル】

LV896

HP:4782/4782

MP:2112/2112

攻撃:1987(通常時)

防御:1896(通常時)

速度:2217

魔力:2061

自己スキル

【体操作10】【瞬飛15】【分体脳19】【体変質17】【体変式光砲32】『以下非公開』

耐性スキル

『非公開』

────────


「HP1だけ残して生かすなんちゅうのは完全にカネの気まぐれやで。今度からは気をいつけな。」

こんなん私どころかこの都市の住人全員生かすか殺すかこいつ次第じゃねえか…。

「…。」

「…すっごいね。」

「何このステータス!非公開とか何よ?」

取り敢えず圧倒的なステータスと、さっきの戦いで使ってたやつは見せてええやろって?

わかったわかった!もうお前が強いのはわかったからさ!


「カネとウチの関係は…まあ腐れ縁というかペットというか…。」

「え!?こんな強いスライムメタルをペットに!?」

ルイサさん流石っす!

「あ、ペットなのはウチの方やで。」

ルイサさんは平然と言い放つ…え。

「闇深そう…。」

「そないなこと言わんといてや!とにかく今から調合するからその辺の物に触らんといてな。1ダメージでも入ったらあんた死んでまうんやから…。」


そう言うとルイサさんは隣の部屋に向かう。

私達も続いて部屋に入ると、パン焼き窯に溶鉱炉、金床に大釜が所狭しと並べられた部屋に出迎えられる。

まあ食パンから魔道具までなんでも売ってるってことはつまり、裏側はこうなってるってことなんだろうなあ…。


「そこのお姉ちゃん?は休んでてな。えーっと…アレル?はちょっと手伝ぉて。」

「は、はい!」

「あ、ちなみに私サリアっていいます…。」

ルイサは氷漬けのスライム達を魔導袋から取り出すと、慣れた手つきで大釜に放り込んでいく。

それに加えて粉や何かの干物なんかを天秤ではかり、放り込む。

「よし、ほなアレルはそのままかき混ぜといてな。」

「このまま混ぜていれば完成するの?」

「まあ、これだけでもええんやけど…ほなら私の薬やあれへん。ちょっとだけ手ぇ加えるからちゃんと聞いとき。」

ルイサさんは複雑な溝が掘られた石板を取り出す。

そしてニヤリと笑うと、早口で話し始める。


「これが調合板。それぞれの深い穴に液を入れて傾けると、浅い溝をつたって液が流れてタイミングよく混ぜれるっちゅうシロモノや…いろんな色のラベルつきの瓶を大鍋に沈めておいたから赤は三分後、青は十分後。黄は三の粉を入れてから取り出して赤を左の穴に入れて青が右の穴で黄は真ん中、赤と青を結ぶミゾニニノコナヲハイチ、ゼンタイニウエカラサンノコナヲカケテキガマザルヨリシタカラノフトイミゾニハアミヲセッチシテ……」


…無理だ。これ…とても日本語とは思えない…。

何がちょっとだけ手を加えるだ。

「なるほど…一応ルイサさんが書いてくれた本も確認するね。ほら、こっちの方が僕にあってるからさ…」

そう言うと弟くんは魔導袋から本を取り出し、真剣な目つきで勢いよく読み始める。

これは…弟くんもわからなかったんだろうなあ…。

でも、この本も長文で米粒みたいな文字なのよね。

これじゃあどちらにせよ訳わからないだろ…。

と、思っていた時だった。


「よし、覚えたよ。これなら僕にも作れそうだ。」

まじすかーーーー!!!

いや、よく考えたらうちの弟くんどっかで読んだだけの本の内容を完璧に覚えていて解説までできる、頭脳レベルがおかしなやつだったわー。

つまり今頭脳レベルがおかしい二人がポーション作ってるって事だねー。

…やばくね?

そんな状況何だからあんだけ複雑だった工程も数分で終わりやがった。すっげえ!


「準備完了っと。あとは傾けて上の穴に溜まってる液を流せば良いのかな」

「せや、角度は45度な。」

彫られた溝をつたい、溝に巻かれた粉と合流し、あみだくじのように他の液と混ざったかと思えば再び分かれていく。

途中でカネに加熱される。針のように変えた体の先端が赤く輝いているのを見るに、ピンポイント加熱ってやつだろう。

水分が一気に飛んだ後、別の溝から遅れて流れて来た液が合流し、結晶を巻き込んで再び流れ出す。

そして一番下には空き瓶が待ち構えていて…。回収された!


「できた!」

「やったー!…せっかくだし鑑定してみよー。」

だってあのルイサさんが作ったポーションだよ?超高級品だよこんなの!

きっと名前からしてもすごいのが…


────────

【プチローポーション】

────────


「え?」

私の思考が一瞬止まる。

え…これ食塩水じゃん。薬というよりもはや調味料の低級品…え、なんで…?

その私の顔をまじまじと見つめていたルイサさんは突然笑い出した。

「アハ!そうそうその顔!その顔が見たかったんや!まあ騙されたと思って飲んでみぃ?」

私は半信半疑のまま、ポーションを口へと運ぶ。

と、飲み干した瞬間だった。私の体がぽかぽかと温められたかと思うと、HPが勢いよく回復していく。

そしてあっという間に全回復…ってちょっと待って限界突破した!!

まだ増える…まだ増える…!?

え、えちょっと待って!?これ本当にプチローポーション!?

凄い人が本気で作ると低級品でもとんでもないものができるってやつ…!?


その私の様子を見て、ルイサさんは再び笑い、こう言った。

「どう?凄いやろ。種明かしするとこれはプチローポーションであって、プチローポーションやないんや。」

「…え?」

何言ってんだ?

「最初に作ったのは確かにプチローポーションやで?やけどその後に一つずつ中の材料を…例えばカメノシナとかヨヤノシナとかを置き換えていくんや。ほんでも元はプチローポーションやからアレンジしたプチローポーションって認識されるんや。素材が全部変わってもな…不思議だと思わへん?」

「え、じゃあそれってつまり…」

「つまり鑑定は騙せるってことや!覚えとくとええことあるかもよ?」

そう言ってルイサさんは微笑んだ。


「あとはこいつを依頼された量ができるまで繰り返すんや。次はもっとええレシピを使うがね。」

それからルイサさんは鉢に生えていた薬草を引っこ抜き、取り出したナイフで切り始める。

「なるほど、ちゃんとしたやつは干物じゃなくて取り立ての薬草なんだね。」

「そう。これをナイフで…ん、ナイフ…ナイフ!」

突然、ガタッという音を立ててルイサさんがナイフを置く。


「どうしたんです?」

「ほら!あんたらの注文リストに武器用ナイフあったやん!すまんあれ作るの忘れとったわ!…在庫とかどこぞにあったかいな…?」

「それボルタスさんが勝手に注文したやつで僕は別にいらな…」

そう言う弟くんの声も聞こえていないのか、ルイサさんは戸棚を文字通りひっくり返して探し…最終的にさっき薬草を切ってたナイフを差し出した。


「これ!これどうや?私の使い古しやけど…大丈夫!これもウチが作ったやつや!品質は保証するで!!」

これで弟くんの武器が決まるってまじか…。

そんなんこんなで残りのアイテム達の量産は、夜を徹して行われた。



あとがき

本来HP1なんて立つのはおろか話すこともできないけど、カネの光線は生命エネルギそのものにダメージを与えてるよ。

肉体は壊れてないから強い意志(ここ重要)さえ持っていれば普通に動けるよ。

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