31話:超異世界流!戦車ができるまで(3)

動き出した…と言っていたな。

あれは嘘だ。

いやーぜんっぜん動かないね。うんともすんとも言わない。

正確に言うなら車輪が空回りしまくってるって感じ?

そのまま地面を削ってめり込んじゃってもう…こりゃダメだ。


「…ちょっと押してみる?」

「せやな。うちはこっち側から…んん!ん!ダメや。びくともせえへん。」

「そりゃ金属の塊だか…ら!だーめだこりゃ。」

「原因は重量か…。せや!確かあれがあった。」

ルイサさんはそう言いながら、畳んで置かれていた着る毛布を弄る…と、こんなんどこに入るんだよと突っ込みたくなるような大きな魔石が出てくる。


────────

【飛翔石】

分類:加工魔石

魔力を流すことで、重さの値がマイナスになる加工魔石。

重石をつけないと魔力の保つ限り飛翔を続ける。

────────


「本当は魔力消費が激しすぎて扱いづらいシロモノなんやが…リトル君のエンジンに直結させてる魔力発生装置使えばいけるやろ…?」

「なるほど、じゃあこれを繋いで…ちょちょちょマズいマズいマズい!ええ!!」

私が飛翔石を強引に外付けした瞬間、ハマったのが解消されたのかリトル君は急加速。半ば暴走するかのように前進を始める。


「うわああああ!ごめん!!」

弟くんてめえ!さては加速のレバー倒したままだな!?

しかもあいつそのまま運転席から降りてる!

つまりブレーキかけれる人が誰もいない!

「終わった!!」


リトル君は広場の端の塀に激突。塀を破壊しながら更に進んでやっと止まる。

「…。」

「…。」

「ごめん…お姉ちゃん…ルイサ…。」


なんか…あれだ。とりあえず魔力エンジンの馬力がやっぱりおかしいってことは分かった。

あと…リトル君大破しましたね。合掌。

「ああもう失敗や失敗!クレーン持ってくるで!」

夜のルースーに、ルイサの叫び声が響く。


と、いうことでリトル君は一瞬で工場に戻されましたとさ。

「かなりひしゃげとる…。せやさかいもっと強度をどうにかせえへんと…って事でウチは装甲を厚くすんがええと思う。」

「なるほど、じゃあ素材を同じとして計算すると…あ、うん。大体飛翔石の限界くらいの重が増えるね、振り出しに戻った。」

弟くんはそう言って計算用紙を見せてくる…お前そんな特技もあったのか。


「ってなると改良するべきは…なーんだろ、あ、車輪か?」

「まあこれだけ普通の馬車のやつだからね…。でも元々結構頑丈な車輪だけどどうするの?」

…確かに…いやちょっと待て。

「1つ思い出したよ。多分これで行けるんじゃないかなー?





「って事で完成!リトル君の…完全体!」

私が指差す先にある鋼鉄の塊こそリトル君!その完全体!

強化された何もかもを防ぎ切る(と思う)装甲に、それを支えるキャタピラ!

そうそうさっき思い出した解決策こそこれなんです!

思えば戦車を想像する時、全部についてるよね!これ!

イメージするやつ大体そうって事は、それが最善の解決策ってやつだ。


────────

【履帯】

履板と呼ばれる金属板を円形に繋ぎ合わせ、転輪に取り付けた装置のこと。

これにより道路では無い不整地でも移動が可能となる。

無限軌道やクローラーとも呼ばれるが、軍事用語では主に履帯と呼ばれる。

────────


あ、履帯って言うんだった…とにかく。

「作るのがまーた大変なんよねー…これ。」

「せやな…。」

見るたびに思う。

これ本当によく作れたな。と。


「だって知らなかったもん!履帯の作り方なんか何にも!」

ルイサさんがいれば新兵器が作れる!なーんてほざいた私を殴りたい!

ルイサさんに何か作ってもらいたいなら、それを紹介できるほどの知識が必要なんだよ!

それに比べて私は!インパクト重視で戦車って言ったけどどうなってるのか知らない!

ってか普通こーゆのってさ!前世の知識を生かして〜とか、異世界のレベルが低すぎて活躍できる!とかそう言うのじゃん!何で知らん分やぬ突っ込んだんだよ私…。

…いや、現実はご都合主義異世界じゃないことは百も承知ですよ?異世界にいるってことは事実だから調子狂うけどさ。


「ほんで結局鑑定っちゅうもんを使っとったな!うちも

私が使うと僅かにでも現実世界の者の情報が手に入り、それを頼りに作り方を推理するのだ!

そうやってできたのがこの履帯を支える車輪…転輪っていうらしい。

ちなみにこれひとつひとつ形が微妙に違う。

手作りなのがこの辺から見て取れるねー。

「そういえばこの辺はアレルが加工してたね。」

「まさかあんたらも使えるとは思っとらんかったから…ありがたい話やな。」


履帯に転輪

重力操作を金属加工に応用…?とかいう原理がまるで理解できない機械を使っているもんだから、私は横でただみていることしかできない。

とその時!疲れ様子で休憩するルイサさんの横を履帯がふよふよと飛び、形を変えていったんだ!

見ると加工の装置を弟くんが操っていた…操っていた!?

「し、か、も、完全に使いこなしてたんだよこいつ!」

「重力操作って言うから身構えたけど意外と簡単だったよ。」

「お前…"このレベルのものは理解できそうにない"とか言ってたじゃん…。」

「よく見たら横に操作マニュアルがあったからさ。」

「……。」

いやさ、幾ら記憶力がえげつない本の虫だったとしてもさ、ちょっと読んだだけでマスターするのは…すごい通り越しておかしくない?


まあとにかく完成したなら何でもいいんだけどさ。

後は厚さを更に増やした鋼鉄の箱を上に乗せ、溶接する。

魔力発生装置に魔力エンジン、そしてそもそもが鋼鉄でできているが故にクレーンがまともに動かないほどのものすごい重さになっている。

しかし履帯はその全てをしっかりと支えてくれたぜやったー!

主砲こそないが確かにこの見た目は私の記憶の隅に残る戦車のそれだしこれで正解だ…と思う。

これでリトル君も完全体になったってわけだ…って事で!


「じゃあ…エンジン始動!」

試運転と行きましょうぜぇ!魅せてくださいよリトル君!

私が叫ぶと同時に4度の炸裂音が鳴り響き、リトル君のエンジンが動き出す。

今度はハマったりしない。履帯はしっかりと土を捉え、軋みながらも耐えている。

そして…そのまま…リトル君は…進んだ!

つまりこれで完成…ってああああああ!


…うん。

えー。なにが起きたのか説明しましょう。

おそらく石かなんかに引っかかったんだろう、一瞬で砕け散ったんですね。履帯が。

繋ぎ目のとこを起点に、一気にバラバラになる。


「あ…。」

「これは…一番悪い結果やな…想定していた中で。」

私たちは全員、そのまま黙りこんでしまう。

そりゃそうだ。

原因不明だがエンジンの方からも煙が出てるし、転輪もぐちゃぐちゃに歪んでいる。

さっきぶっ壊れた時のとは訳が違う。


修理して作り直そうにも、どこをどうすれば良いのか分からない。ってか多分一から作り直した方が早い…はあ。

「どうして…。強度の問題?…まさかアレルが勝手にやったから!?」

「ちゃうな。小さすぎてまともに加工できひんのや。装置の、技術の限界やな…。」


空気が…空気が重苦しい…!

私はこーゆーの、あんま耐えれない性格だ。

こんな空気の中に長くいると、いろんな嫌な記憶がよみがえって来る気がして…ね?

あれだよね。失敗は発明の母…でしょ?分かってるんだけどさ。

失敗が続いたり酷いのにぶち当たったりしちゃあ…はぁ。


と、その時ルイサは沈黙を破るように車体を強く叩く。

鐘を叩くような音が響き渡る。中が空洞の構造だから…?

「ルイサ…?」

「今度こそ壊れず、沈まず、前へと進める車両を作ってみせるで!ここまで来るとウチの興味とか意地やな!」


次に振り返ったルイサの顔からは暗い表情は消え、生き生きとしていた。

何ならさっきよりもやる気に燃えてるとまで感じる。

切り替え凄い…凄くない!?

こーゆーところでなんか差みたいなのを感じて、私もまだまだなぁなんて思ってしまうんよね。肝心なところで感情に振りまわされるというか。

自分は色々そーゆーのをもっと客観的に見てて何処か冷静な感じでありたいって思ってるんだけど…難しいね。

ルイサさんは言葉を続ける。

「ただな。」


「ただ?」

「時間切れや。今日は昼も夜も丸ごと寝…ぇ。すぅ。」

ルイサさんは着る毛布を羽織り、包まるようにしてパタリと倒れ、眠りにつく。

ふと空を見ると、かなり明るくなってきていることに気づく。朝だ。

と、同時に思い出したかのように私を眠気が襲う。

眠才とか関係なく普通に徹夜だ。寝不足だ。

まあ、そういうことなら話は早いな。


「…んじゃおやすみー。アレルも早く寝ろよ?」

私はそう言うと寝る支度を整え、ルイサがくるまってる着る毛布にそのまま潜り込む。

「お姉ちゃん!?」

ふっふっふ…最初見た時からやってみたかったんだよ…。あ、変な意味じゃないよ?

ハンマーだの魔道具だの、もこもこの隙間に何でも入る代物だ。私の身体だって受け止めてくれる。

え?距離感バグってる?大丈夫大丈夫誰も気にしない。

それにこの毛布寝心地が良すぎる…こりゃ離れたくもなくなるわ…うん。

って事で…おやすみ。

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