12話:はじまりのまち

12話:はじまりのまち


「…そしてここがルースー。ポーションの名産地でそれを他の都市と貿易して栄えてるんだ!因みにここだけ奴隷制が無いのは都市の成り立ちが…」

「ハアハア…つまり私達が隠れるには絶好の場所なんだね…もういいよ着いたから…ゼエゼエ…。」

弟くんが昔何かの本で読んだらしい、もしかすると鑑定より詳しいんじゃねえか?って知識をずーーーーーっと披露している。

私はやっと到着したと悟り、足を止める。疲れた。


あれから【ルースー】とか言う都市の、南門まで来た。

そこに長い行列ができており、私達はその最後尾に並んでいる。

門の巨大な扉は閉ざされており、それの端の通用門みたいなやつで検問を行なっている。

で、その検問に並ぶのが、この列というわけだ。


「…にしても相当長い列だねー。」

「もう夜暗いのにね。でも門が開いてるのが時間制でよかった。」

「こっちも日が暮れたら入れないとか言われたらどうしようかと思ったよ。もうすぐ冬だしテントも限界があるよねー。」

にしても!待ち時間はやっぱ暇だ!!


なんて思っていると、弟くんが思考共有の方で話しかけてきた。

『…あんま人に聞かれたくないから、これで話すけどさ。』

『ん?なーに?』

『えっと…。鑑定の入手方法。知ってる?』

あああったなそんなん。

『あー。鑑定知ってたら手に入るよ…だっけ?』

『そう。それで、…それで…。』

そこで弟くんは黙ってしまう。

『ん?どうした?』

さては悩んでるな?何だ?恋か?

よし、とにかくここは私がお姉ちゃんとして、悩みに答えてあげよう。ほんとの弟いないけど。

『アレルー。私お前のお姉ちゃんだよ?言ってごらんよ。』

弟くんはようやっと口を開く。あ、思考共有かこれ。

『…何でお姉ちゃんはさ、鑑定について知ってるの?』

『え?えっと…』


その時、一瞬何かが起こった。


「こんにちは。【情報室】に記録をする為、鑑定石を使用いたします。」

私たちは列の一番前、検問のとこまでに来ていた。

「「え??」」

弟くんと同時に声が出る。

いつの間に!?時間飛んだの!?

おかしいでしょ?明らかに数十人以上まだ前にいたよ⁉︎


「鑑定石を使用します。一歩前に出てください。」

門番の声が聞こえる。考えている暇はなさそうだ。

「あ…はい。」

私は門番に近づく。

ったくもう。謎が多いよこの世界。


おそらく20歳前後の青年…まあ門番が、そう言って魔石をかざす。

はいはい、どうぞどうぞー。

本能が鑑定石が使われたと警告を発し、門番の体が一瞬光って見える。

鑑定だけであらゆるプライバシーが無に帰すからね。そんくらいの警告はなくっちゃ。


────────

【鑑定石】

分類:魔石

鑑定と同じ効果を持つ魔石。

知能の高い魔物の、魔石を用いて作られた。

許可を取らずに使用すると、確実にバレる上に宣戦布告とみなされる。

精度がバラバラなので、ランクもバラバラ。

────────

【情報室】

分類:魔道具

国内のあらゆる情報を記録、管理する魔道具。

あまりに巨大故に1つの部屋のようになってしまうことが多い。

定期的に各都市が交流をし、アップデートを行なっている。

指名手配犯などはこれを参照することで見極めるのだ。

────────


「はい!記録できました。ありがとうございます!」

あ、もう良いの?

『結局服は全くもって気づかれないね。』

『本当だね。加護様様だよ。』

思考共有で会話している間も、門番は魔石を持ち替えたりして何か作業をしている。

そして、私たちにこう話しかけてきた。


「ありがとうございます。それでは所属紋を提示して、滞在期間と目的を答えてください。」

所属紋…?何それ。すぐに知らない言葉が出てくるよ…。

あ、今回はサリアさんの記憶がすぐに出て来た。弟に聞かないで済んだよ。


えーっと…【所属紋】。自分の家族や国籍、職業に所属しているギルド等の情報が記入された紋章…だって。

右手首の甲に紋は現れ、隠すこともできる…。

紋の追加には紋をつける側、…と。


あれだね。地球でいうパスポートとか免許証とか、そーゆーのだね。

で、私達は手の甲を門番の方へ向け、例のごとく直感でだけど所属紋を表示させる。

と、手首に黄色く光る紋章のようなものが現れる。

鑑定した感じ【所属紋:商人ギルドエリウルス】だってさ…あ、私何種類か紋章持ってるみたい。

門番は辞書みたいに分厚い紋章がいっぱい描かれた本を取り出して、私の腕に表示されているやつと照らし合わせてるね。


要するにどんな意味の紋章か分からないから、辞書で調べてると。

…鑑定石使えば良いんじゃ…?辞書より効率良さそうだけど…?

…あそっかやたらめったら鑑定すると失礼どころか宣戦布告扱いされるんだった。

で、どうやら紋は【所属紋:商人ギルドエリウルス】【所属紋:オース王国()】【所属紋:コール家(3級)】【所属紋:一般商人】の4種類があるらしい。弟くんのも同じね。意味は…まあ名前のままだよな。


あとは滞在期間を3日にしたり、そのほかいろいろ手続きをしたら入れてもらえた。

《条件を満たしました。スキル【領収書】を獲得しました。》

こんなのも手に入った。また鑑定の亜種かー。


────────

〜領収書〜

【都市ルースー南門】

時間:990 11/23 17:35

内容↓

基本料金×2…1600G

許可証料金×2…2000G

滞在料金×6…1200G

手数料×1…150G


合計4950G

お預かり4950G

お釣り0G

────────


〜〜〜〜〜〜〜〜

【滞在許可証】

人歩歴990年11月23日から、3日間有効。

対象は都市ルースー(通常エリア)。

発行者:アラン・クーパー(1級門番)

〜〜〜〜〜〜〜〜


「これだけで5000G…相場なんか知らんが安定して稼ぐ手段の無い私たちには痛い出費だよ…。」

ここは昨日の街とは違い、道がツルツルに磨かれたレンガで舗装されていて、街灯もついている。

裸足でも痛くないのはいいね!だけどやっぱり靴は欲しいね!


「えっと…まずどこ行く?」

弟くんが話しかけてくる。あー、そりゃあ…

「まずは服屋でしょー。私達いまだに裸足だし、なんかちょっと臭いし!」

「じゃあ多分この大通り沿いにあると思うよ。」

まあ路地とか探しながら街の中央らへんにでも行くかー。


にしても夜だけど店は空いてるし、あちこちで呼び込みの声が聞こえてくる。

「夜なのに活気のある街だね。魔石かな?で街灯までついてる。」

「歴史もあるし、かなり発展してる街みたいだよ。」

「お。焼き鳥みたいなの売ってる!ちょっと食べてみたい。」

「僕たちには安定して稼ぐ手段が無いって言ってたのお姉ちゃんじゃん!」


武器屋…道具屋…本当にザ、異世界って感じだ。

あ、防具屋と別に服屋がある。

「ここどう?」

「良いんじゃない?僕たちが鎧着てもしょうがないからね…ってすごい!セット売りでセール品だって!」

小さめサイズだったから売れ残っちゃったのかな?私達には丁度良いや。

「すごい。足から頭までこれで良いじゃん。丁度残り2セットだとさ。」

「この魔石は装飾品じゃなくて暖房石なんだって。これから寒くなるから僕らに必要なのはこういうのだと思うんだ。」

「内側にいくつも隠しポケット…憧れる…。」

「お姉ちゃんってそういうの好きだったんだ…。」


「さて、こちらの商品今ならなんと1セット8790G!…うっわ。」

「衣食住に金を惜しんだら後悔するよ。お姉ちゃん。」

「じゃあ…これにする?」

衝動買いでは…無いよね。たぶん。


────────

【暖房付き冒険服(補助職用)】

分類:防具

防御力増加+18

HP増加+3

速度増加+2

────────

補助職の冒険者向けに作られた冒険服の既製品。

工場が閉鎖してしまったため、生産数は少ない。

直接の戦闘は想定されていないので能力は低め。

暖房石と大量の小物入れが特徴。

────────


「後はどうしよっか?」

「まあ必須なのは宿見つけだよね。あと明日はこの街のエリウルスには行った方がいいでしょ。」

エリウルス…まーた知らない単語出てきて…あ、そういや所属紋にそんな名前のあったか?

またサリアさんの記憶が出てきたから、それ見よ。


…。

…へー。

まず、この世界にはいかにも異世界にがちな冒険者ギルドっての意外にも色々な種類のギルドがあるそうでして。

その中の商業ギルドってのに商業ギルドエリウルスってのが含まれるんだなー。

で、これは大体の商人が加盟してる世界最大の商人ギルド!凄い!

商品の適正価格を決めたり、商人向けの依頼を貼ったり、商品やお金を預かったり、他のギルドへ依頼するのを手伝ってくれたり…まあ他にも色々やってるね。


「まあ明日行こうよ。今日は宿探そ。」

「おっけー。流石に10Gで泊まらせてはくれないよね…。」

「何の話?」

「こっちの話さ。」

某ゲームの話だよ。

宿屋はテキトーなのを見つけた。後は手続きして寝るだけさ。


「こんにちは。一泊一部屋6000Gになります。」

『これ高いの?』

『そこそこってとこかな?あ、食事までついてるじゃん!』

ならまあ良かった。私たちの所持金これでほとんど底をつくけど。

「それでは、こちらの契約書にサインを…。」

『お姉ちゃんお願い。』

『あいあいさー。』


サインを私が引き受けたんだが…これどうやって書いたら良いんだ?

この異世界は何故かは知らんが文字含めて言語に日本語が使われている。

じゃあ…カタカナかな?

と、そんな感じで

「あれ…?お姉ちゃん…?なんで右手で書いてるの?」

「え。」

私は急いでサリアさんの記憶を漁る。

…えちょっと待って左利きやんサリアさん…。

あ…これどう誤魔化そう…。


「あ、後これ書き方間違ってるよ?…ねえお姉ちゃんどうしちゃったの?」

「あ、そうなの…?」

サリアさんの記憶を探っとけばよかった。

にしてもこれちょっとまずいかもしれないな。

「店主さん、これ書式違いますよね…あれ?店主さん?」

宿屋の主人の目が少しぶれ、頭がフラフラと揺れている。


「疲れてるんじゃない?あっそうだ私も疲れてるんだよ!やっぱアレルが書いてくれないかな?」

ま、まあとにかく今はここを切り抜けないと…。

「話逸らさないでよ!ねえ、最近思ってたんだけどさ、お姉ちゃんって本当は別の…」

「はいストップ!この書類でボクは良いと思うから、とっとと部屋向かってね!」

突然主人が強引に私達を部屋まで押して行こうとする。

明らかにさっきまでと話し方が違う。なんかこう、オーラも違う。

「えっえっちょっと待ってください!」

よくわからんけど今は行くしかないよ。そのまま部屋まで案内される。

「はいじゃあこの部屋っぽいかな。何か話したいならこの中で…ね!」

そう言って店主は部屋の扉を閉めた。


…理解が追いつかない。

でもさっき弟くんが言いかけていたことを考えるに一つほぼ確かなことがある。

ついにこの体の中の人が私ってバレたかもしれない。



〜あとがき〜


言語について。

この世界の少なくとも主人公が今いる国の言語はデフォルトで日本語。

異世界語を翻訳してるんじゃなくて、もともと日本語なのである。

識字率は都市部では高く、農村部や流浪者はまあまあ低い。

都市部に定住するにはクソむずい書類を提出する必要があるからね。しょうがないね。

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