11話:はじめてのしょうばい(2)

「やりたくないけど…。」

そう言って私はポーションを取り出す。

それを火にかけ、煮詰める。

「どうするのさ。うちの店の前まで行列伸びてるよ…?」

「いいか弟よ、恥という概念を捨てるぞ。作戦はこうだ…」

弟に思念を送りながら、私は煮詰めたポーションを肉にかける。


そして列に向けってかけだして、呼びかける。

「はいどーーーーもこんにちはーー!!」

こんなことしたら向こうの店の人にとっ捕まるんじゃと一瞬思ったけど、向こうさんかなり忙しそうだし大丈夫そうねー。

「いやーみなさん!お肉食べたいのに列が長い…お肉に手が届かない…!そう思ってませんか!?それがね!あるんですよここにも!お肉!」

大袈裟に身振り手振りをし、大声で演説をキメる。

ちょっと恥ずかしいけど恥を捨てたからノーダメージやったね!

『持ってきて!』

弟くんに思考共有を送る。


弟くんが持ってきた皿の上にはサイコロ状に切ったステーキがたくさん載っている。

「はいじゃあこちらのお肉ね!タダであげるから、みんな食べて買いにきてくださいねー!」

作戦の都合上、一回お肉を食ってもらわないといけないわけよ。

だからいわゆる試食のノリで食ってもらおうってわけだ。

まあ逆にいうと一口食ってもらえればあとはどうとでもなるんだけどねー。

「ってことでささ!どうぞどうぞ!」

ってことでまずはサイコロステーキをみんなに配りー…


「いや、要らないです。」

「流石にそれは…。」

「おいおい正気か?」


うお。すごい拒否ってくるじゃん…。

でもそう簡単には引き下がらないよー?

「そんなこと言わないでここの端っこくらい…」

「やめろ!近づけるな!」

「おいお前!しつこいぞ!!」

うっわ武器取り出してきたよ!

え!?そんな嫌なの!?

良いじゃん…一人ぐらい食ってくれても…。

なんか食わない理由でもあるんか…?


『やっぱこんな怪しいのみんな食べないよ!』

『一口だけ…一口だけでも食べてくれれば…』

私はもう一度周囲を見渡す。

列に並んでる人…他の店の人…もう肉を買った人…あこれだ!

「こんにちはーーーーー!」

私はもう肉を買った人の前に行く。

おじさんと若者…師匠と弟子…てきな?弟子の槍が微妙にこっち向いてて怖い。

「え!?なんすかあんた!」

「いやーーーーーーあなたそれ!お肉でしょ!ここにも良いのがあるんですよぉ!!ということで食べたらそこの店に来てね!じゃ!」

肉を彼らの皿の上に一気に乗せる。

「お、おい嬢ちゃん何するんだ…!」

「それじゃ!」


はいここで撤退!!!

今回は何か言われる前に店まで戻る。

そしてこっそり様子を伺う。


「せっかくの肉が台無しだぜ…。」

「あいつら何だったんですかね…まあ、まだこの変な肉を取り除けば食えるっすよ。」

「いいのか?…俺はやめとくよ気持ち悪い。」

「えー?先輩もお肉食べたがってたのにそんな…何これしょっぱ!!」

弟子が隣の店の肉を食うやいなや、顔を顰めて吐き出す。

当たり前だ。一番ポーション…タレでも呼ぶか…が多いところを載せたんだ。

そりゃ隣の店の肉にもタレは染み込んでるよねー。

『やっぱダメじゃん!!』

『これでいいんだよ。』


「ここのソースを取ればちゃんと…ちゃんと…あれ?何かが。…足りない…何かが…」

弟子の様子が変化していくのがここからでも分かるねー。

「お?どうしたんだそんなに…」

「すみません!!ちょっと行ってきます先輩!!」

『ほら来た。』


「あ、あんた!そ、その肉を!そのソースを売ってくれ!!」

「はいはい待ってましたー。えっと『【何か買っていくかい?】』」

私が肉を手渡すと、ひったくるように肉を取って食べ始める。

良い食いっぷりだ。こういうのでも広告効果を出せるのかねー?


「お、おい…あいつすごい食いっぷりだぞ…?」

「あいつらが売ってる肉って…そんなに良いのか…?」

列に並んでる皆さんの声が聞こえてくるねー。

『よし、今度は受け取ってくれるはずだよ。』

『了解…全くよくこんなの思いついたね…。』

まあ元々一口食べさせるだけで良いんだから、ここまで来ちゃえば勝ち確ってやつだ。





「凄い!!30000G!!あの肉がこんな大金になるなんて思いもしなかったよ!!」

そろそろ日が暮れようとしている。夕日と雲が地平線で重なる。

私達はテントをたたみ、後片付けをしてからさっきの通気口のところまで来ていた。

売り上げを半分に分け、それぞれが【貯金】する。2人のお金ってことにはしてるけど。

「そんなことないよ。やっちゃダメなことしてやっと稼いだだけだもん…知識が豊富なおまえなら、私が何をかけていたか分かるでしょ?」

わたしは通気口を塞ぐ土を蹴破りながら、そう言う。


鑑定は使用者が欲する情報に応じて表示するものを変えるという。

もう一度ポーションを鑑定してみると、とあるものが混ぜられていることがわかった。


ーーーーーーーー

【カノメシナ】

マーシ半島からオース国北部にかけて栽培されている一年草。

体の痛みを和らげる効果や多幸感、自然治癒力の向上などの効果があるとされる。

栽培難易度は低いため、低級のポーションの原料となることも多い。

ただし依存性があり、ポーションに混ぜられる限界を超えて混ぜる、そのまま摂取することは規制の対象となる。

ーーーーーーーー


勘のいい人なら分かるでしょ?つまるところアレだ。

客達は美味しいから何度も肉を買ったわけではない。

依存性がなけりゃ、そんな事するわけがない。

煮詰めるってことはわざわざ濃度を濃くしたってわけだ。

そんなもんかけて売ってちゃあ日本の法でもここの法でも道徳的にも全部アウトなんだよ!


「確かにいいことじゃ無いよ。分かってるよ。でも金を集めるには手段選んでちゃいられないって…お姉ちゃんが言っていた言葉じゃなかったの?」

「確かにそうだよ…そうなんだけど…でも…!」

あれは父ちゃんの言葉なんだ!そして続きがあるんだ!


(ただ、自分を偽ってまで手段を講じるのは良くないな。後でしっぺ返しを受ける…なんて事を言うつもりはないが、少なくとも気分悪いだろ?)


この続きの部分の考えがあったからこそ、私は父ちゃんをここで嫌いになることはなかった。むしろここは尊敬していた点でさえあるかもしれない。

じゃあ私はこの続きの部分の考えを持ってたかって話だ。

持ってないんだよ!通気口塞ぐのは正当化できた!でも危険物売ることを…どう正当化するって言うんだ!?

「タバコより安全」とか、「元々医療用だ」とか、色々偽ってみたが自分の心は納得しなかった!

でも私は実行した!実行したんだ!

実行したことによって私が父ちゃんに敵わないと証明されたんだ!


父ちゃんに敵わないからこそ、私は私が嫌いになるから、父ちゃんを嫌うことにしたんだ。

…こんなこと、かなりのお姉ちゃんっ子の弟くんに言うわけにはいかないけどね。

お姉ちゃんの中身が実は私ってバレたらどうなることやら…。

だから今は心を鎮めよう。


「まあそれもそうかもしれないね…だけどもうちょっと…できるなら良い物を小細工なしで売りたかったな…。」

もうこんなマイナス思考はあの時やめることにしたんだけどな…。

猪の時とかたまに出てきちゃうんだよな…切り替えないと。

「なんかお姉ちゃんのこんな姿初めて見たよ…。まるで別人みt…」

ん?まあ実際中身は別人なんだけ…


「ってちょっと待って!?」

突然、弟くんが慌てた様子で大声を出す。

「え何!?」

突然でびっくりするよ!

「もう日が沈んじゃってるよ!最悪街に入れない!!」

「え、じゃあ私達野宿…」

「それはマズいよ!!まだ間に合うかもだから急ごう!!」

弟くんが駆け出す。えちょっとまって…!


〜あとがき〜

マーシ半島ってのは地球上でいうマレーシアです。

つまりカメノシナの栽培場所はインドネシアあたりってことですね。

低級ポーションは傷の回復速度が遅いものの、カメノシナの効果は即効性があるため、冒険者たちは傷の回復よりも痛みを消すことを優先していることになります。

いやー冒険者って…過酷っすね先輩!!

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