第39話:籠城

 ロアマは城門を固く閉じて籠城していた。

 教会とイスタリア帝国が総動員すれば、5万や6万の兵力は直ぐに集まるはずなのだが、たかだが1000ほどの兵力を相手に弱気すぎる。


 とは言っても、堅牢なロアマに大兵力で籠城されると、1000程度の兵力では無理に攻める事はできない。


 盗賊王スキルを使えば遠距離にいる敵を即死させられるが、敵にも遠距離で力を発揮する弓士スキルや弓師スキルを天与されている者がいて、うかつに近づけない。


 城門に近づけば一斉に必殺の矢が放たれるのは分かっている。

 ならばその間にやれる事をする。

 それが敵の致命傷になるならロアマから出てくるだろうから、そこを叩けばいい。


「敵が怯えて籠城してくれるのなら良い機会だ、ロアマ以外の街や村を圧政から解放しに行くが、お前たちにもついて来てもらう」


 僕は傭兵たちを従えてロアマを離れた。

 敵がこのまま籠城してくれても良いし、地方貴族がロアマを捨てて自分の領地に逃げ出しても構わない。


 ロアマの戦力が減れば、長大な城壁を守り兵力が不足して隙が生まれる。

 堅牢なロアマから逃げ出した貴族を先に滅ぼしても良い。

 逃げないのなら、主のいない地方の領地から占領しても良い。


 実際には、聖職者や領主がロアマに逃げ込んだ、ロアマ近郊の街や村を巡って解放と占領を宣言した。


 思っていた以上に熱烈な歓迎を受けたが、徐々に負担も増えていった。

 次の収穫まで食糧がもたず、大半の村人が餓死しそうな村が数多くあった。


 聖職者や領主の中には、武力を使って支配下の街や村から根こそぎ食糧を奪って逃げた者が多かったのだ。


 こんな時のために、フロスティア帝国に拠点を置く傭兵団に大量の食糧を運んできてもらったが、それにも限界がある。


 しかたがないので、指揮下にある5隊500人前後の傭兵隊をフロスティア帝国に派遣して、食糧を輸送させる事にした。


 同時に、錬金術師たちと商会から食糧を買った。

 かなり吹っ掛けられたが、人々を餓死させる訳には行かないので言い値で払った。

 とはいえ、代金は全部盗賊王スキルで造れる水晶とアルミニウムだ。


 ただ、同じ水晶ばかりでは値崩れしてしまうので、砂金石、オパール、黒曜石、紫水晶、黄水晶、紅水晶、煙水晶、緑水晶など、相手が望む物を望むだけ売った。

 相手が持っている得意先によって高く売れる水晶が違っているからだ。


 錬金術師と商会によったら、2大帝国以外の国や組織と取引している者がいて、船を使っているので大量に売れる。

 そんな人達には、帰りに大量の食糧を運んできてくれと依頼した。


 他にも、ロアマ近郊の漁村や港を解放して支配下に置いた。

 漁村なら農村と違ってその日の内に食料、魚や海草を手に入れられる。

 これまでに手に入れた金銀財宝を使って大量の魚介類を購入した。


 日持ちがしない魚は傭兵団の食料にしたり近くの農村の食料にしたりした。

 干したり塩漬けしたりする事で長期保存ができる魚介類は、非常用の食料として保管するとともに、少し離れた場所にある農村の食料にした。


 多くのスキを見せて敵軍を誘ったのだが、全く攻撃して来ない。

 地方領主の中にはロアマから逃げ出した者も多いのに、教会もイスタリア帝室も全く慌てない。


 このままではロアマ以外は全て僕に奪われるのが分かっていない。

 とても危険な状態なのだが、全く分かっていない。


 それを教えてやる義理はないので、教会のイスタリア帝国の支配下にあった街や村を着々と解放支配していく。


 ただ、ウィリアム兄上が率いているフロスティア帝国遠征軍5万も、山岳都市バルドネッキアを攻め落とせないでいた。


 イスタリア帝国が派遣した1万の軍勢が死に物狂いで抵抗しているのもあるが、フロスティア帝国遠征軍のやる気がなくっているのも大きい。


 僕が自分で名誉を回復すると宣言したうえに、既に広大な領地を独力で切り取っているので、戦っても得られる物は少ないと判断したのだろう。


 金も領地も得られないのに命懸けで戦う貴族はいない。

 少なくとも父上の意向に逆らってイスタリア帝国侵攻に加わった貴族にはいない。


 もっと高次元の考えができる貴族は、侵攻軍には加わらず、領地開拓や特産品の開発に力を入れている。


「ところでフィリップ殿下、殿下を狙う刺客がいる事を御存じですか?」


 ムスラム人を相手に手広く商売をしている商会の会長が聞いて来た。

 ムスラム人が支配下に置いている南大陸から大量の穀物を輸入したくて、相談を持ち掛けている商人だ。


「ああ、知っているよ。

 僕が多くの傭兵団を雇ってしまったから、裏社会の連中を雇っているのだろう?」


「はい、その通りなのですが、刺客を雇っているのが教会やイスタリア帝国人だけでないのも御存じですか?」


「ああ、知っているよ。

 イスタリア帝国に領地を手に入れようとしているフロスティア帝国貴族が、大金を使って腕利きの刺客を雇っているのだろう?」


「さすがフィリップ殿下、良く調べておられますね。

 なら、刺客がどのようなスキルを持っているかもご存じですか?」


「いや、それは知らない、知っているなら教えてくれ、礼は弾む」


「雇った貴族の名前もお教えいたしましょうか?」


「ああ、頼む、他のルートからも名前が伝わっているが、確認を取りたい。

 教えてくれるのなら、お前が欲しがっていた真珠を代金に含めても良いぞ」

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