第28話:救世主

 僕は一切の情けをかけずに聖職者服を着ている者を捕らえた。

 最初は皆殺しにする気だったが、気が変わった。

 教会の惨状が想像を超えていたので、僕が殺してはいけないと思ったのだ。


「大丈夫だ、手足は潰しているから抵抗できない。

 君たちが家族を人質に取られて抵抗できなかったのと同じだ。

 思う存分復讐すればいい」


 教会には、サラと同じように難癖をつけられて集められた女の子がいた。

 いや、中には美少年もいたから、聖職者の堕落を神が許せないのも当然だった。


 多くの子供が身体を傷つけられ心を壊されていた。

 彼らに復讐の機会を与えるべきだと考えた。

 人殺しをする事になるが、その方が生きる力を取り戻せると思った。


「違うの、私たちは被害者なの、無理矢理連れてこられたの」

「そうよ、私たちも被害者なの、この連中に嬲り者にされた被害者なの!」

「助けようとしたの、私は子供を助けようとしたの、だから殺さないで!」


「お前たちも死ね、子供たちの怯える姿を見れば、聖職者たちだけでなく、お前たちも子供を傷つけていたくらい馬鹿でも分かる!」


 僕はそう言って売春婦たちの手足を潰した。

 子供たちが、反撃される事なく自分たちの手で復讐できるようにした。


 売春婦たちの中に、本当に子供たちのために動いていた者がいるのなら、殺される事などない。


 僕がこれまでにやった事はもちろん、これから起きる事もサラには見せられない。

 だから、サラには嘘をついて他に目を向けさせた。


「サラ、この教会は、結構な広さを持つ大司祭領の拠点だった。

 その領内全てで悪辣非道を繰り返していたようで、村々が疲弊している。

 聖職者を皆殺しにしたから、もう大丈夫だと教えてあげないと、手元にある食糧も食べられずに苦しみ続ける、今から一緒に村々を回ってくれ」


「分かったわ、ヘルメース神の教えも広めないといけないし、直ぐに行こう!」


 サラを騙して地獄絵図の教会から引き離した。

 ただ、教会から離れる前に牧場にいた家畜を全てヘルメースの庭に送った。


 その家畜の中に、サラの家が飼っていた家畜がいたので、罪のない領民から奪った家畜なのは明らかだった。


 大司祭領の村々は、見るも無残な状態だった。

 餓死寸前にまで痩せ細った人々がほとんどだった。


 でっぷりと太った連中もいたが、そいつらは教会の手先になって同じ村の人たちから何もかも奪っていた。


 だから、僕たちが教会にいる聖職者を皆殺しにしたと言ったら、慌てて逃げ出そうとしたが、膝を叩き潰して逃げられなくしてやった。


 サラがいるので、殺さなかったし、村人にも渡さなかった。

 逃げられないように家に閉じ込めて生かしておいた。


「今から教会の連中に奪われた1部を返してやる。

 使われてしまったお金、喰われたり売られたりした家畜や穀物は返せない。

 だから文句を言うな、分かったな」


 物凄く厳しい言い方をしたのは、サラに嫌な思いをさせたくなかったからだ。

 ここまでの地獄に落とされた人々の心が、すさむのはしかたがない。


 それは分かっているが、自分の物ではない金や家畜を手に入れようと、嘘をつき媚び諂う人の姿をサラには見せたくなかった。

 だから強圧的にでて、被害者だった人たちが罪に走らないようにした。


「順番に並んでください、公平に分けますから、争わずに並んでください」


 サラが牛や馬に運ばせてきた穀物を中心に、チーズやバターを配る。

 僕が半殺しにした大司祭の部屋には、領内の村々に関する資料があった。

 それを見れば、教会にあったモノをどれくらい配ればいいか分かった。


 最初に配り過ぎて、後で配る物が無くなる事もない。

 配る量が少な過ぎて残った金や食糧を見て、サラがもう1度廻ろうと言いださないように、結構真剣に計算した。


「救世主様、私が奪われたお金と穀物はこんな少なくありません。

 聖職者の連中が売り払ったとはいえ、もっとあるはずです、全部返してください」


「黙れ、文句を言うなら何も渡さん!

 命懸けで聖職者を皆殺しにして、お前たちが飢え死にしないように、金と食糧を運んできてやったのに、嘘を言って他人よりも多く手に入れようとする奴は許せない!

 そんなに金や穀物が欲しいのなら、自分で教会を襲え!」


 僕はそう言ってサラに迫った男を蹴り飛ばした。

 比較的肉付きがいいので、教会の手先にはなれなかったが、上手く立ち回って少しは食糧が手元に残るようにしていたのだろう。


 こういう小狡い奴が1番嫌いなので、蹴りにも力が入ってしまう。

 ギャッと短い悲鳴をあげて転がって行ったが、起き上がる気配がない。


「何やっているの、被害者を足蹴にするなんて可哀想だよ!」


「サラは人が良過ぎるし、人を見る目も無さ過ぎる。

 いや、分かっているのに厳しくできないのだろうけど、ここは厳しくしないと駄目だぞ!

 ここで多く配ったら、後に行く村で渡す金も穀物も無くなる。

 サラはこの腐れ外道に良い顔をして、後の人を餓死させるのか?」


「……ごめん、つい言ってしまったよ。

 分かった、自分が苦しくても、少しでも多くの人が助かる道を選ぶよ」


「それでこそサラだ、辛いだろうけど、頑張ってくれ。

 俺は、いまだに下手な芝居をして得をしようとする下衆の脚を潰してくる」

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