第27話:殴り込み

「今度こそヘルメースの庭に隠れていてくれ」


「嫌よ、僕もヘルメースの使徒だよ。

 人殺しはできないけど、ユウジが困った時に助けられる場所にいる!」


 僕は執拗にサラを狙う教会に殴り込みをかける事にした。

 今度こそ谷の冬家が巻き込まれると思ったからだ。

 

 サラの善良さに引きずられてしまったのか、最初は殺されても自業自得だと思っていた連中に、情がわいてしまった。


 敵傭兵たちに皆殺しにされると予測していて見捨てたのだから、実際に殺されても何の痛みも感じないと思っていたのに、意外なくらい胸が痛んで辛かった。


 自分が思っていたよりも優しかったのに驚いた。

 記憶的には佐藤勇史が優位なのだが、フィリップ第3皇子の優しさと弱さが、思っていた以上に残っている。


 もうあんな痛みは感じたくないと思ったので、待つのではなく攻める事にした。

 村を巻き込む連中を皆殺しにしてしまえば、あんな痛みを感じなくてすむ。

 そう思ったから、サラを避難させて攻めに転じる事にしたのに。


「分かったよ、一緒に行ってもらうよ」


 サラの真剣な目を見れば、何を言っても無駄なのは分かる。

 サラの優しさと強さは尊敬できるから、側にいて欲しい気持ちもある。

 だから、殴り込みの前にサラの望みをかなえた。


 敵傭兵を埋葬する時に手に入れた金品と装備を、冬家に残された年寄りと子供たちに配った。


 夏家に蓄えられていた、保存ができる穀物、チーズ、バターも公平に配った。

 僕たちが戻って来る前に飢え死にされたりしたら、サラが嘆き悲しむ。


 サラと僕は、腐れ外道共がいる教会に向かった。

 移中に毎日飲み食いする食糧はちゃんと用意した。

 1週間分のパンを焼き、チーズとバターも予備の馬に運ばせている。


 以前とは違って、サラが牧畜スキルを持っている。

 手綱を持って操らなくても、サラが命じただけで何でも言う事を聞いてくれる。


 戦いに巻き込まれても勝手に逃げたりしない。

 避難させていても、サラが呼べば、どれほど危険な場所でも戻って来てくれる。

 僕だけで殴り込みをかけるよりも安全だし安心できる。


 谷の冬家をでてから2日目の夜早くに、教会領の端についた。

 前と同じように、街道を塞いで金目の物を奪う聖職者が3人で見張っていた。

 剣で殺した方が早いのだが、サラに血を見せたくないから盗賊王スキルで殺した。


 交代が現れたら奇襲にならないので、そのまま教会に向かった。

 サラには遠くで待っていて欲しかったが、目を見て諦めた。

 

「サラ、ここまでだ、これ以上は駄目だ、教会の中までは連れて行けない。

 馬と牛に何かあってはいけないから、ここで待っていてくれ、いいな?!」


「しかたないわね、馬と牛が危険だと言うなら、これ以上ついて行くとは言えないから、ここで待っていてあげる、絶対に死んだら駄目だからね!」


「ああ、分かっている、必ず生きて帰る、それと、予定通り手助けを頼む」


「まっかせなさい!」


 ドーン!


 サラの指示を受けた軍馬4頭が横に並んで教会の扉に後ろ蹴りを入れてくれた。

 教会の扉は、砦の城門かと思うくらい物凄く頑丈に造られていた。

 いつ誰に襲われても仕方がないくらいの悪逆非道を重ねているからだろう。


 そんな頑丈な扉でも、1000kgを超える軍馬の蹴りには耐えられなかった。

 1頭や2頭なら耐えられたかもしれないが、息を合わせた4頭がほぼ同時に蹴りを入れたので、耐えきれずに内側に吹き飛んだ!


「腐れ外道の背神者ども、神に代わって成敗してくれる!」


 少々恥ずかしいセリフを吐いて教会の中に討ち入った。

 僕は両手に剣を持ち、聖職者服を着ている者を情け容赦なく斬り殺した。


「「「「「キャアアアアア!」」」」」


 派手な化粧をした若い女が逃げ惑う。

 教会の中に売春婦を入れて快楽に耽っていたのだろう。

 全ての小部屋を蹴破って、聖職者服を着ている者を殺す。


 痩せ細り死んだ魚のような目をした少女を組み敷いている聖職者は、剣で殺さずに蹴りで首の骨を折ってやった。

 少女に返り血を浴びさせる訳にはいかなかった。


「たすけて、助けてくれ、かねをやる、金をやるから殺さないでくれ!」


 でっぷりと太り醜く脂ぎった男が床に這いつくばって命乞いする。

 ベッドには、目の焦点を失った少女がピクリとも動かずにいる。

 心を落ち着けようとしているのに、沸々と怒りが湧き上がる。


 楽に殺す気にはならない、ベッドにいる少女が味わった苦しみと悲しみの万分の一でも味合わせないと、この激情は納まらない。


 どれほどこの脂豚を痛めつけても、僕の自己満足にしかならないのは分かっているが、それでも痛めつけずにはいられない。


「ギャアアアアア!」


 脂豚の左小指を軍靴で踏み潰す!

 1度で全ての指を踏み潰すような楽なやり方はしない。

 1本ずつ、薬指、中指、人差し指、親指と踏み潰していく。


「ギャアアアアア、ゆるして、ゆるしてくれ、何でもする、金も全部渡すから、おんな、領内の女を全部好きにして、ギャアアアアア!」


 左手が終わったら右手の指だ、時間がかかってもかまわない、拷問死するまで何日かかろうと、これまでやって来た報いを受けさせる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る