第48話:逃亡と衝突

 僕たちは電光石火の早業で北部地域を支配下に置いた。

 クロリング王国軍と競争になったので、サラの家畜に手伝ってもらった。

 特に鴨と鳩、鷲と鷹は良く働いてくれた。


 鳥たちは、僕の最後通牒をつかんで北部地域の教会や領主館に運んでくれた。

 僕とクロリング王国軍の侵攻を知らせて、死にたくなければ逃げろと伝えた。


 中部と南部の事を知っている聖職者と領主は、運べる金銀財宝を全部抱えて慌てて逃げ出した。


 僕たちは大量の食糧を運びながら進軍した。

 聖職者や領主が逃げて無主となった街や村を接収して、食糧を配って僕の領地になった事を伝えて回った。


 占領する速さを競う事になったクロリング王国軍には、サラが家畜を派遣して妨害工作をしてくれた。


 クロリング王国がイスタリア帝国領に侵攻しようと思うと、高くて険しいトリグラウ魔山を超えなければいけない。


 魔山と呼ばれるくらいだから、竜が住むという伝説があるし、少なくとも魔獣が住むのは確かだ。


 魔獣が入れない、唯一神の祝福を受けているという山道を使う以外は、クロリング王国とイスタリア帝国を結ぶ道はない。


 当然だが、魔山を縫うように通っている山道はとても狭くて険しい。

 どれほどの大軍であろうと長蛇の列を作る事になる。

 前後の兵士の体力や荷物量の違いで、広い間隔が空く事も多々ある。


 そこをサラの可愛がっている家畜が繰り返し襲う。

 山間部の険しい場所は山羊と羊、新たに加わった鹿が行った。

 少し斜面が緩やかになった場所は、牛と猪が襲撃を行う。


 平坦で助走が可能な場所なら、重装備の騎士が活躍できるのだが、狭くて細くて急斜面では、攻撃を避ける事も難しく、次々と落馬させられ死んでいく。


 クロリング王国の指揮官は、騎乗しての越山は不可能と判断した。

 騎士や将軍にも下馬して歩くように命じた。


 だが、それで安全になったわけではなく、サラの家畜による反復攻撃が繰り返され、大損害を出しながら遅々として進まない状況だった。


 僕が錬金術師たちを通じて手に入れたクロリング王国の侵攻計画では、15日でトリグラウ魔山を超える計画だった。

 だが30日が経っても、行程の半ばにも達していなかった。


 30日、サラと僕がトリグラウ魔山の峠に拠点を設けていた頃だ。

 ヘルメース神の庭を活用して、最短距離でクロリング王国軍に対応した結果だ。


 最短路以外に存在する街や村は配下の傭兵団に任せた。

 徒士、騎士、男爵といった地位が目の前にある傭兵たちは、しっかりと街や村を治めてくれた。


 そのお陰で僕は敵に集中する事ができた。

 僕は魔力で速さと筋力を増強した状態でクロリング王国軍を繰り返し攻撃した。


 盗賊王スキルのお陰で弓や投石の射程外から敵を即死させられた。

 僕が来た事で敵の乗馬を殺さずにすむようになった。


 僕の攻撃で敵が混乱している間に、サラが牧夫スキルを使って軍馬や駄馬、輸送用の牛を家畜にする。


 元々なかった機動力に加えて輸送力まで奪われたクロリング王国軍は、5万の遠征軍の6割、3万を失って撤退した。


 僕は皆殺しをしたかったのだが、教会とイスタリア帝室がロアマから出陣しようとしていると、サラの鳩と鴨が知らせてくれたので諦めた。


 ロアマでは、1年以上の籠城によって危機的な食糧不足が発生し、市民の暴動を起こす寸前の状態になっていた。


 だから教会とイスタリア帝室は市民に食糧を配布する代わりに従軍しろと命じた。  

 45万の軍勢を整え、必勝態勢を築いたと確信し出陣に踏み切ったようだ。


 その証拠に、僕が城門前に造らせた広くて深い壕を埋めたのは、聖堂騎士団やイスタリア帝国軍ではなく、ロアマ市民40万人だった。


 聖堂騎士団や帝国正規軍ほどは武装はしていなくても、市民も自衛のために最低限の武器を持っている。


 ロアマ市民を使う事は予測の範囲だったから、40万人を動員しても丸1日は埋まられないくらい広く深い壕にしてあった。


 そのお陰で日暮れから始められた壕の埋め立ては、朝になっても終わっておらず、夜明けとともに航空偵察を再開した鳩と鴨に発見され、サラに報告された。

 そしてサラと僕が共にロアマに駆け付け、敵を迎え討つのが間に合った。


「ロアマ市民諸君、君たちは教皇とジョルジョ皇帝に騙されていたのだ。

 唯一神などこの世にいない、いたらこのような事になっていない。

 君たちは、教皇と皇帝の悪政が民を餓死させていたのを知っていただろう?

 そしてそのおこぼれに預かって贅沢をしてきた!

 その罪を悔い改めるというなら、命だけは助けてやろう。

 だが、これからもこれまで通り民から搾取するというのなら情け容赦なく殺す!」


 僕は壕を埋めようと必死になっている市民に最後通告をした。

 40万も人間は上手く使えばとてつもない力になる。

 だが、これまで通り市民の特権を振りかざすだけでは害悪でしかない。


「騙されてはいけません、あの者は唯一神から背神者と名指しされた罪人です。

 さあ、神の子としてあの者に天罰を下すのです!」


 ヴァレリアの雌豚、あれだけのことをやっておいて、恥かしげもなく僕の前に出て来られるとは、良心の欠片もない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る