第49話:最終決戦

「唯一神の使徒たちよ、よくこの子を見なさい!

 私が唯一神の奇跡で処女受胎した神の子です!

 この子に従えば永遠楽園に行く事ができるのです!」


 処女受胎で神の子を生んだと?!

 そんな明白な嘘が通じると本気で信じているのか?

 不義で生んだ子を誤魔化すためについた嘘だと、馬鹿にだって分かる!


「その通りだ、この子が唯一神の奇跡で生まれた神の子である事は、教皇である私が保証する、さあ、神子のために背神者を殺すのだ!」


 教皇か、ヴァレリアの不義の相手は教皇なのか?!

 なるほど、どちらが考えたのかは分からないが、教会権力とイスタリア帝室の権力の両方を手に入れるために、子供を作ったのか!


 恐らくだが、ヴァレリアが考えたのだろう。

 僕と結婚しても皇帝の座を手に入れられないと考えたのだな。


 教皇の力を背景に女皇帝になろうとしたのか、それとも教皇との間にできた子供を皇帝にして、皇母として実権を握る気だったのだろう。


「笑止、処女受胎など、己の不義を誤魔化すための大噓!

 ヴァレリアと教皇の子を帝位に付けるための嘘以外の何物でもない!

 ロアマ市民がそのような嘘に騙されると思っているのか?!」


「イスタリア帝室の第1皇孫の誇りと唯一神の信仰にかけて、この子が唯一神の子、神子である事を誓います!」


「ヴァレリア殿下の申される通りだ、唯一神の第1使徒の誇りと名誉にかけて、その子が唯一神とヴァレリア殿下の間に生まれた神子である事を保証する!」


「ウォオオオオ!」

「神子だ、我らには唯一神と神子の加護があるぞ!」

「我らこそ正義、我らこそ唯一神の正統な信徒!」

「そうだ、唯一神の信徒である我らが民を従えるのは当然の権利だ!」

「そうだ、神子を授かった我らが異教徒を奴隷にするのは当然の権利だ!」


「よかろう、そこまで身勝手を言うのなら、情け容赦なく殺せる。

 いもしない神を言い訳にして、他の人間の物を奪い欲望を満たす。

 不義の子だと分かっていて神子に祭り上げ、同じ人間を奴隷にする言い訳に使う。

 お前たちこそ人の皮を被った悪魔だ、死ね!」


 僕は城門を出て壕の前に固まっていた市民に盗賊王スキルを放った。

 壕を墓穴にする気で大量の魔力を使い皆殺しにした!

 ヴァレリアと教皇も殺したかったが、何の罪もない赤子はまき込めなかった。


 身体中に魔力を流して強弓を引き、濠の向こうに放った。

 矢は即死させた市民の身体を貫き地面に深々と刺さった。


 矢にはロープがつけられ、その端は木に固く結ばれている。

 そう言う矢を次々と10本放ち、壕を渡れるようにする。

 僕はそのロープを素早く渡って城門前に行った。


 敵は城門を閉めて僕の侵入を防ごうとしたが、僕が信じられない方法で壕を渡り、考えられない速さで駆け抜けた事で間に合わなかった。


「スティール・アイアン」

「スティール・Fe」

「スティール・スィラム・アイアン」

「スティール・Fe」


 僕は聖堂騎士も帝国兵も市民も関係なく盗賊王スキルを放った。

 どちらかと言えば聖堂騎士や兵士が多い場所を狙って盗賊王スキルを放った。

 まだ罪を犯していない子供だけは避けて盗賊王スキルを放った。

 

「スティール・ソルト」

「スティール・NaCl」

「スティール・クロリン」

「スティール・Cl」


 逃げるヴァレリアと教皇に狙いを定めて盗賊王スキルを放とうとするが、ヴァレリアが赤子を胸に抱いて走っている。

 しかたがないので、先に教皇だけ即死させる。


 確実に斬り殺せる距離まで近づき、ひと振りで首を刎ねようとしたのだが。

 顔面にとんでもない衝撃を受けた!


「お~ほほほほほ、愚か者、わらわが切り札もなしに姿を現す訳がないであろう!」


 ヴァレリアが次々とファイア・アローを叩きつけてくる。

 1本受けても顔面に重度の火傷を負うほどの熱量だ。

 何十発も受けたら絶対に助からない、普通なら!


「愚か者はお前だ、死ね」


 驚愕の表情を浮かべたヴァレリアの首が飛んでいく。

 僕が前世の記憶を持っていなかれば、ヴァレリアの罠にはまって死んでいた。

 いや、前世の記憶がなければこんな危険な戦い方はしていないな。


 まあ、僕にはとんでもない量のアニメとラノベの知識がある。

 わずかだが、仕事に係わる経験と知識もある。

 それを魔力で再現できないか、全て試していたのだ。


 荒唐無稽な気功も、魔力を使えば可能だと考えて試していた。

 実際に経絡経穴だけでなく、血管やリンパ管に魔力を流して色々やれた。

 アニメやラノベのように、皮膚や毛に魔力を流して強化できるか試した。


 結果、表皮、真皮、皮下組織に魔力を流してバリアのように出来る事が分かった。

 表皮、真皮、皮下組織の間と皮下組織の下にも魔力層が作れた。

 6つの層を作って敵の攻撃から深部組織を守れることを発見していたのだ。


「サラ、赤ちゃんと子供だけは殺せなかった、悪いけど一緒に育ててくれないか?」


 僕は聖職者とイスタリア帝室、貴族は族滅させる気だった。

 だが、赤ちゃんと子供まで殺すと、サラに嫌われると気がついてしまった。

 気がついてしまうと、どうしても殺せなくなったしまった。


 自分が殺せないからと野放しにするわけにもいかない。

 当然恨みに思っている連中に狙われて殺されてしまう。

 それが分かっていて放り出してもサラに嫌われてしまう。


「いいわよ、僕子供が大好きだから」


 こんな笑みで返事をされると、自分の姑息な性格が嫌になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帝国の第3皇子として同盟国に婿入りするはずだったのに、天与スキルが盗賊王だったので、婚約破棄追放暗殺されてしまいました。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ