第47話:競争
腐れ貴族に仕え続けられる騎士や徒士に忠誠心などないと思っている。
だが、極まれに『君君たらずとも臣臣たらざるべからず』のような忠臣がいる。
そんな忠臣は殺したくないので、即座に貴族家の軍を抑えた。
「貴君らの中には主の悪行を知っていた者もいるだろう。
主が仕えるべき皇帝陛下に逆らい、余に刺客を放っていたのを知っているだろう?
海賊を使い、味方を闇討ちしていたのを知っているだろう?
そのような悪行を重ねたら、余に粛清されて当然だと思うだろう?」
僕は直ぐに、ウィリアム兄上と相談していた通り、貴族軍幹部を集めた。
その上で貴族たちを全員粛清したと伝えた。
「だが、主の悪行を家臣の責任にする気はない。
お前たちが、これまで悪行を重ねていたとしても、心を入れ替えて皇帝陛下と帝室に忠誠を誓うのなら、帝室直属の騎士や徒士に取立ててやる。
能力があるのなら徒士から騎士に取立ててやる。
旧主を捨てて皇帝陛下と帝室に忠誠を誓うのなら、今この場で証拠を見せろ!」
「「「「「はっ!」」」」」
この場に集まっていた各貴族家の幹部が、一斉に剣を掲げて忠誠を誓った。
こうなるだろうとは思っていたが、万が一の事があるので少し緊張していた。
まあ、真の忠臣がいないのを少々残念にも思っている。
僕はサラと違って、心を入れ替えたと誓う連中を全く信用していない。
粛清した貴族の家族と家臣が、一致団結して叛乱するのを防ぐための方便だ。
領都や領城に籠城して抵抗できないように、家臣を帝室に取り込むだけだ。
帝室の家臣にすると言っても一時的な事だ。
主に言われて仕方なくやった悪行は罪に問わない。
だがそれも仕えていた貴族家を滅ぼすまでの話だ。
叛乱の拠点にする貴族家を滅ぼしたら徹底的に調べて過去の悪行を暴く!
謀叛人たちに仕えていた騎士や徒士が、自らの欲望を満たすために自分の意志でやった悪行は、法に従って厳しく処罰する。
まあ、今回忠誠を誓った騎士や徒士の本性がどうなのか、性格がどうなのかは、僕を殺そうとした貴族家を滅ぼす戦いで確認できる。
確認がしたかったからこそ、僕が粛清軍の指揮を執るのだ。
サラと僕は、毎日ヘルメース神の庭を使ってフロスティア帝国とイスタリア帝国を往復した。
フロスティア帝国では、ウィリアム兄上の副将として、粛清した貴族家を完膚なきまでに滅ぼして領地を接収した。
接収した領地は帝室、ウィリアム兄上、僕で三等分する。
イスタリア帝国では、ロアマに籠城する教会とイスタリア帝国軍を見張る。
支配下に置いた中部教会領と広大な南部領の統治を確認する。
傭兵たちの統治に問題があれば注意し、よくやっていたらほめて伸ばす。
飢えた民を使って建造した武装船を活用した海賊狩りを行う。
武装船団をムスラム人の支配する島の港に入れ、無言の警告を重ねる。
その時には僕が造った水晶と真珠を代価に食糧を購入する。
武装船団を、どの国にも属さない独立領主が群雄割拠する島に派遣する。
港を支配して海賊行為をしていた独立領主を、問答無用で攻め滅ぼす。
独立領主が支配していた土地は、手柄を立てた者に分け与えて支配下に置く。
僕がイスタリア帝国領内に入って1年以上経って、中部と南部が安定してきた。
フロスティア帝国の畑よりも収穫量は少ないが、来年を考えた農業ができた。
昨年放牧地にしていた畑を今年の耕作地にして、昨年耕作地にしていた所を今年は放牧地にする。
今年の耕作地は、半年後にそのまま耕作を続ける畑と、放牧地にする場所に分けて、作る作物を分ける。
今年の耕作面積によって、材木の切り出しをやらせていた元農民や、武装船団で働かせていた元農民を農村に戻して、最大の収穫が得られるようにする。
人数が減った木こりと船員は、北部地域から逃げてきた農民や市民で補う。
これまで後回しにしてきたイスタリア帝国の北部地域は、いまだに教会とイスタリア帝国貴族の圧政に苦しんでいた。
「君たちには南部の時と同じようにやってもらう。
南部の時はとても素晴らしい成果をあげてくれた。
北部でも同じやり方を続けてもらいたい。
新たに加わった者たちは、先輩たちを手本にやってくれ。
徒士に選ばれた者は騎士を、騎士に選ばれた者は男爵を目指して欲しい」
「「「「「はっ!」」」」」
僕は10隊1000兵の傭兵団を率いて北部地域の討伐に向かった。
パラディーゾ魔山や山岳都市バルドネッキアを含む北部は、高い山々に登った場所ほど寒く雪深い。
北部でも山に登らない地域は雪が降らない。
それでも冬は肌寒く、耕作できる作物が限られる。
まして山岳部になると、冬は全く耕作ができないし、夏でも耕作できる作物が限られ、二毛作どころか二期作もできない1年1作の農地しかない。
そんな北部でも、教会とイスタリア帝国貴族は南部と変わらない収奪を重ねていたので、多くの農民が逃亡するか餓死していた。
イスタリア帝国から多くの民が逃亡して来ていたクロリング王国は、かねてから時期を見て北東部に侵攻する気だったと、錬金術師たちから知らせを受けていた。
それが、僕が瞬く間に中部南部と占領したので、慌てて北東部に侵攻しようとしていると、錬金術師たちが知らせてくれたのだ。
だから僕も、ロアマを落とす前に北部を支配する決断をした。
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