第46話:報復粛清

 僕がウィリアム兄上率いる遠征軍の陣を訪れるのは2度目だ。

 1度目は姿形が変わり過ぎていて中なかなか会談が許可されなかった。

 だが今回は、ロアマ攻撃の援軍を頼みに来たと言ったから、直ぐに許可された。


 遠征軍に参加している連中は欲深く、イスタリア帝国で略奪の限りを尽くした後で、領地まで手に入れようとしている連中だ。


 それがバルドネッキアを包囲してから半年以上経つのに、全く何の利益もなく、むしろ日々戦費を垂れ流している状態なのだ。


 早々にイスタリア帝国奥深くに侵攻したい。

 それが無理ならできるだけ早く帰国したいのだが、できない。

 皇帝陛下に反対を押し切って、僕の復讐を唱えて出陣したのだ。


 僕が自分の手で復讐すると宣言しているので、僕の復讐を邪魔をするような侵攻はできないし、ウィリアム兄上を最前線に残して逃げ帰る事もできない。


 八つ当たりに僕に刺客を放ったのは失敗したが、何とか海賊行為で僕の邪魔をした上に利益がでる状態になり、困った僕が援軍を頼みに来たと思っている。

 

 少しでも早く僕を傀儡にしてイスタリア帝国で略奪がしたいのだ。

 困っている僕を手助けする代わりに、多くの利権を手に入れようとしているのだ。

 欲深い者ほど、ウィリアム兄上の元を離れて僕を操りたいのだ。


 だから、心の中では僕を馬鹿にして舌を出しているにもかかわらず、顔には笑顔を浮かべて阿諛追従を口にして、兄上との会談を素早く準備する。


 そしてその場で自分たちの利益が多くなるように援軍の交渉を行う気だ。

 誰がそんな都合の良い条件を飲むか、飲むどころか、その場で断罪してくれる!


「諸卿には色々と手間をかけさせたな」


 兄上を上座に、僕が次席を温め、男装したサラを護衛にして、遠征軍に参陣している貴族や騎士を全員集めて軍議を開き、最初のひと言は型通りに礼を言う。


「過分なお言葉を賜り感激でございます」


 兄上が率いる事になった、欲深い貴族たちが集まった遠征軍。

 それを結成するために力を振るった侯爵が礼を言った。

 僕に刺客を放ち、配下の武装船に海賊をさせた張本人だ。


「いや、いや、本当に色々と手間をかけさせた。

 貴君が放った刺客には眠りを妨げられたし、貴君の指示で味方を襲った武装船には、余の配下が数多く殺された。

 その礼は、何があっても返さなければならないと思っていたのだ」


「殿下は何を言っておられるのでしょうか?

 由緒正しい侯爵家の当主である私が、刺客を放ったり味方を襲わしたりするような、卑怯卑劣な輩だと申されておられるのでしょか?

 もしそうなら、殿下であろうと黙ってはおられませんぞ!」


「黙っておられないのは余の方だと言っているのが分からのか?!

 お前が使っていた武装船の連中は、捕虜して全て吐かせた。

 皇帝陛下にも全て報告してあり、もはや言い逃れなどできぬぞ!」


「言い逃れ、言い逃れではなく真実だ!

 いかに皇子であろうと、金で偽証させた証人で私を裁く事などできない!

 どうしても裁くと言うのなら、我が家は戦も辞さぬぞ!

 それでも罪を捏造して私を裁くというのか!」


「愚かな、内戦を恐れて処罰をためらうくらいなら、最初からここには来ない。

 何があろうとお前を厳罰に処すと決めたから、ここに来たのだ!」


「皇子がどうしても罪を捏造して私を裁くというのなら、この場で皇子を殺す。

 殺される覚悟があるのなら裁いてもらおう。

 お前たち、このような狂った皇子に礼を取る事などできないと思わないか?

 共に皇帝陛下に訴え、教会に幽閉して頂こうではないか!」


「侯爵の言われる通りだ!」

「このような狂った皇子に忠誠など尽くせぬ!」

「皇子など無視してロアマに侵攻すべきだ」

「その通りだ、皆でロアマに侵攻しよう」

「「「「「おう!」」」」」


 馬鹿どもが僕の挑発に乗ってくれた。

 慎重な連中も少しはいて、侯爵の言葉には乗らずに黙っている。

 だが、8割くらいが侯爵に同調したから、これで帝国のゴミ大掃除ができる。


「スティール・アイアン」

「スティール・Fe」

「スティール・スィラム・アイアン」

「スティール・Fe」


 今回こそ魔力を惜しまずに謀叛人を皆殺しにした。

 侯爵に同調していなかった貴族も一緒に殺したが、何も問題ない。

 証拠が挙がっていない貴族は巻き込まないようにしている。


「ギャアアアアア!」

「ひぅう、ヒィイイイイイ!」

「な、な、なんな、どうなっているのだ?!」

「ちがう、私は違う、私は無関係だ!」

「わ、わたしも、私も無関係だ、私は殿下に刺客など放っていない!」


 目の前で9割の貴族がバタバタと倒れてピクリとも動かなくなったのだ。

 生き残った貴族も、最初は何が起こったのか何も分かっていなかった。


 だが直ぐに僕が謀叛人共を粛清したと気がついたのだろう、ブツブツと言い訳を口にしだしたが、恐怖で口が引きつっているのか何を言っているのか分からない。


「そいつらを捕らえて尋問と拷問にかけろ、一切の容赦をするな。

 手加減した者は、帝室を裏切って内通していたと判断するぞ!

 家族まで処刑されたくなかったら、言動に気をつけろ!」


「「「「「はっ!」」」」」


 父上、皇帝陛下がウィリアム兄上のために厳選された騎士たちだ。

 不忠者や裏切者はいないと思うが、念のために脅かしておいた。


 それと、頭を潰したから大丈夫だとは思うが、問題は腐れ貴族が率いていた騎士団や徒士団をどうするかだが……

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