第41話:報復と海賊

 サラの手を暗殺なんて陰湿な事で汚したくなかった。

 だから何度も言って止めたのだが、よほど腹が立っていたのだろう。

 大切な子たち、家畜を使ってまで報復してくれた。


 サラは僕に刺客を放ったフロスティア帝国貴族がいる、山岳都市バルドネッキア包囲軍5万に鷲と鷹を向かわせた。

 

 犬や狼では到着までに時間がかかるし、牛や馬、山羊や豚では時間がかかるだけでなく、途中で捕らえられて食料にされてしまう。


 サラはヘルメース神の使徒で、特別強力な牧夫スキルを授かってはいるが、さすがに家畜の目を使ってその場の状況をみられるわけではない。


 誰が僕に刺客を放った当人なのか見極めるのは、その場にいる家畜に判断してもらわないといけないので、サラにできるのは事前に狙う相手の特徴を教える事だけだ。


 だからサラは僕に根掘り葉掘り聞いた。

 敵の家の紋章や軍旗の特徴や、本人の名前や身体的な特徴を詳細に聞いた。

 最初はできるだけ教えないようにしていたのだが、途中で考えを変えた。


 サラは天真爛漫でとても心優しいだけでなく、尊敬できるくらい芯が強い。

 僕の報復復讐をやると決めたら、罪の意識に苛まれるのが分かっていてもやる。

 そんなサラに情報を与えないと、間違って他人を殺してしまうかもしれない。


 僕に刺客を放った敵を殺そうとして、別の罪なき人を殺してしまったら、サラの心が壊れてしまうかもしれない。


 壊れないまでも、これまでのサラとは違う性格になってしまうかもしれない。

 それだけは絶対に避けないといけないので、できるだけ詳しく教えるようにした。


 身体的な特徴だけでなく、身分による装備の違いなど、敵を特定するのに必要な情報はできるだけ詳しく正確に伝えた。


 まあ、標的の数が多いので、間違って何の罪もない貴族を傷つける心配は少ない。

 参陣している貴族の半数以上が僕を狙って刺客を放っている。


 実際に刺客を放てた貴族は少ないが、裏社会に依頼しようとした者は多いのだ。

 錬金術師や商会、僕が知る裏社会の人間から色々と情報は得ている。


「やったわ、家の子がユウジの仇を取ってくれたわ!

 命までは取れなかったけれど、両眼を潰してくれたわ!」


「ありがとう、仇を取ってくれた子にご馳走をあげないといけないね。

 でも、大丈夫、よろこんで見せているけど、本当は罪の意識を持っていない?」


「大丈夫、僕だってだんだん強くなっているよ。

 それに、先に卑怯な方法でユウジを狙った連中だよ、罪の意識なんて感じないよ」


 サラは本当に罪の意識を感じていないようだった

 ただ、13歳でも女性だから、天性の演技で騙しているかもしれないので、常に気をつけて、サラが罪の意識で潰れないように気をつける。


 サラの事はひとまずそれで終わったのだが、また新たな問題が起きた。

 それを教えてくれたのもムスラム人と取引している商人だった。


「大変でございます、殿下が手配されていた商船が海賊に襲われたそうです!」


 海賊、高価な積み荷を満載した商船を狙って海上を巡る武装した船だ。

 海上に獲物がいない時には、沿岸にある漁村や港町を襲う事もある。


 海岸線が広く長くイスタリア帝国を拠点にして、多くの船を使って利益をあげている海運商人の天敵だ。


 そんな海運商人に投資して莫大な富を手にしていた、教会とイスタリア帝国の帝室と貴族は、武装船を使って海賊を退治してきた。


 僕がそんな帝室と貴族を窮地に追い込んだから、海賊の動きが活発になったと考える事もできるが、何かおかしい気がした。


「どこでその情報を手に入れたのだ?」


「殿下が手配された商人からです。

 殿下にお渡しする約束の小麦と大麦が奪われてしまったので、穴埋めに使う小麦と大麦を売って欲しいと言われたのです」


「その商人ではなくお前が来たという事は、売らなかったのだな?」


「私も殿下に小麦と大麦をお売りする約束をしております。

 手持ちの物を売ってしまったら、約束を守れなくなってしまいます」


「そうだな、約束を守れないと、違約金を払ってもらう事になる。

 困難な事も危険な事も計算して、高い値段をつけて買っているのだからな」


「その通りでございます、高い値段を取っている以上、死んでも約束は守らないといけません、それが商人でございます」


「ただ、海賊に無法を許すわけにもいかない。

 父上に頼んでフロスティア帝国の武装船を派遣してもらう。

 海賊だというのなら、お宝も蓄えているだろう。

 本拠地を見つけられたら莫大な富が手に入るだろう。

 帝室だけでなく貴族も武装船を派遣してくれるはずだ」


「確かに、海賊船を拿捕するだけでも大きな利益になりますが、本拠地を見つけられたら莫大な富が手に入るかもしれませんね」


「ああ、僕がイスタリア帝国の切り取りを独り閉めにしているから、貴族の中には不満を持っている者がいる。

 新たに宣戦布告ができるのなら、どこに本拠地があろうと関係なく襲い掛かってくれるだろう」


「……そうなのですか、ですがそれでは国際問題になってしまいます。

 海賊の本拠地しだいでは、私が小麦や大麦を買って来られなくなってしまいます」


「何も金を払って買う必要などないだろう。

 海賊に好き勝手させている国なら、こちらも好き勝ってするだけだ。

 漁村と港を襲って奪える者は全て奪う。

 バルドネッキアを囲んでいる5万を上陸させるのも面白いと思わないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る