第40話:刺客と報復

 僕の盗賊王スキルはかなり使い勝手がいい。

 少なくとも生産スキルとしては万能に近いと思う。

 海に向かって真珠を盗みたいと思ったら、簡単に盗めてしまったのだ。


 2大帝国を始めとした北大陸各国では、1番高価な宝石は真珠なのだ。

 一方ダイヤモンドの価値は低く、ルビーの1/8しかない。


 南大陸では特に真珠が貴重で、北大陸から運ばれてきた真珠巡って殺し合いが頻発するくらい高価なのだ。

 

 次に高価なのがコランダム、和名で鋼玉と呼ばれるルビーやサファイアだ。

 前世では人の手で造れるようになっていたし、酸素とアルミニウムで造れる酸化アルミニウム (Al2O3) の結晶だったので、試してみたら簡単に造れた。


 各種水晶、各種鋼玉、アルミニウム、真珠を造り出せるようになったので、軍資金で困る事はなかった。


 ただ、元素記号を知らない物や、イメージがわかない、前世でほとんど触れて来なかったエメラルドやアクアマリン、ガーネットは造れない。


 でも、水晶には本当にたくさんの種類があり、色も透明度も自由にできるので、イメージさえしっかりしていれば、取引相手が望む物を造り出せた。


 この世界はまだ元素の組成で宝石が区別されておらず、見た目だけで区別され値段も決められるので、僕なら物凄く儲けられるし、需要もコントロールできる。


 そのお陰であまり値崩れを起こすことなく大量の宝石を売る事ができた。

 同時に莫大な量の食糧、各種穀物を手に入れる事ができた。

 それが敵を兵糧攻めにする事にもつながった。


 ムスラム人と取引している商人から、フロスティア帝国貴族が腕利きの刺客を俺に放ったという話を聞いた翌日、徹夜で馬を駆けさせてサラがやって来た。

 ヘルメース神の庭にも制限があって、サラが行った事のない場所には繋がらない。


「ユウジ、私に黙っておこうとしても無駄だからね。

 ユウジの周りには僕の子供たちがたくさんいるんだよ。

 凄腕の刺客に狙われた事も、直ぐに教えてくれるんだからね!」


「いや、刺客には以前から狙われていたから。

 今さら特別心配しなくても大丈夫だから」


「僕を馬鹿にしているの?!

 以前とは全然違うじゃあないか、以前は皇子なのを隠していたじゃないか!

 今の方が遥かに危険になっているじゃないか、噓つき!」


「いや、確かに敵は増えたけど、味方も増えているから、むしろ安全になっている。

 だからサラが心配しなくても大丈夫だよ」


「ユウジが命を狙われているのに、僕が心配しない訳がないだろう!

 ガタガタ文句を言わないで、僕の言う通りにしろ!」


 サラが本気で怒っているので、逆らい切れなかった。

 指揮をする必要がない時間は、強制的にヘルメース神の庭に連れていかれた。


 その代わり僕の言う事も聞いてもらった。

 サラには常にヘルメース神の庭に隠れてもらった。

 僕を迎えに来る時だけ出て来るようにしてもらった。


 ただ、サラが頑強に言い張ったので、昼に傭兵たちを指揮している間も新たな護衛がつく事になった。


「ヒーン、ヒーン、ヒィヒィヒーン」

「モウー、モウー、モウー、モオーン」

「メ―、メ―、メー、メ~」

「ブウ、ブウ、ブウ、ブウ、」

「ワン、ワン、ワンワンワン」

「ウォーン、ウォン、ウォン、ウォン、ウォーン」

「ガァ、ガァ、ガァ、ガァ、」

「コケー、コケ―、コケコッコー」

「クゥ、クゥ、クゥ、クゥー」


 僕の周りにいる家畜の数が一気に増えてしまった。

 サラが厳選した家畜が護衛として常に側にいる状態になってしまった。

 傭兵たちに呆れた顔をされてしまったが、サラの心配性が助けになった。


「ギャッ!」


「敵だ、敵が入り込んでいるぞ!」

「外周の者たちは何をしていた?!」

「今はそんな事よりも敵を捕らえろ、依頼人の名を吐かせろ!」


 隠密スキルや狩人スキルを持つ刺客が、傭兵たちの警戒網を突破して、僕の側に近づく事が度々あった。


 サラの鷹が隠密スキルを持つ刺客を上空から発見してくれた。

 刺客は思いもよらない上空からの急降下攻撃を受けて両眼を失い、自殺する事もできずに捕まった。


 猟師スキルを持つ刺客は、愚かにも僕を守る山羊たちに隠れて近づこうとして、その山羊に両眼を突かれて捕まった。


 同じような隠密スキルや猟師スキルを持つ者でも、レベルが低く実戦経験が少ない者は、傭兵たちの警戒を抜ける事ができず、家畜たちの手前で捕らえられた。

 中には最も外周を警戒している犬や狼の捕らえられる刺客もいた。


 捕らえられた刺客たちは、傭兵団にいる拷問スキルや尋問スキルを持つ者、徹底的に調べられ本当の依頼者を自白させられた。


 間に何人もの仲介人がいる場合は無理だが、中には愚かにも直接依頼したフロスティア帝国貴族がいた。


「ゆるせない、絶対に許せない!

 自分が仕える帝室の皇子を殺そうとするなんて、誰が許しても僕が許さない!」


「怒ってくれてありがとう、でもこの程度の事は日常茶飯事だよ。

 自分の一族から皇妃を出したくて、候補者の令嬢を皆殺しにしようとした貴族や、母上や僕たちを殺そうとした貴族もいる。

 刺客に狙われるのは帝室に生まれた者の宿命だよ」


「宿命か運命か知らないけれど、僕はそんな事を認めない。

 主君や主家に刺客を放つような奴は、僕がこの手で殺してやる、絶対に!」


「そう言ってくれるのはうれしいけれど、サラの手を汚させる訳にはいかない。

 それに、サラにやってもらわなくても大丈夫、僕がこの手でやるよ。

 今はこっちの方に集中しないといけないから後回しにしているけれど、こっちの方がついたら直ぐに報復するから大丈夫だよ」

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