第42話:武装船艦隊と窮地
僕がムスラム人と縁の深い商人を強く脅した後で、海賊の被害が目に見えて減ったのには笑ってしまった。
それでも海賊の被害が完全になくなったわけではない。
ムスラム人の中に僕やフロスティア帝国を舐めている者がいるのだろう。
それと、フロスティア帝国やイスタリア帝国の海賊がいるのかもしれない。
どちらにしても放置しておくわけにはいかない。
特に、フロスティア帝国貴族の中に海賊行為をしている者がいるのなら、絶対に見過ごす事はできない。
だから、父上とウィリアム兄上に頼んで武装船艦隊を動かしてもらった。
帝室直属の武装船だけでなく、貴族家の武装船にも参戦許可を与えてもらった。
ただ、海賊を追うだけでは何の利益も上げられない場合もあるので、穀物を運んでくれたらある程度の利益をつけて買い取る約束をした。
その影響はとても大きく、フロスティア帝国とイスタリア帝国を結ぶ主要航路は、フロスティア帝国の武装船が頻繁に行き交う安全な航路となった。
中小の商会が運用する小型商船でも安全に荷物を運べるようになった。
輸送量の多い海路の安全を確保できたので、傭兵団を使って陸で兵糧を運ばせるのは中止し、10隊1000兵の傭兵団を自由に使えるようになった。
兵糧、穀物に余裕ができたので、僕が占領した村や街の人で今日明日の食事にも困る人を雇う事にした。
雇った人たちを使って、僕と敵対してロアマに籠城している聖職者や貴族が所有している山から、大量の木を切り出させた。
切り出した木で大型の武装船を建造させて、独自の海軍を設立することした。
海軍と言っても常に戦っている訳ではない。
武装商船として各地との交易に利用するつもりだ。
僕が着々とイスタリア帝国を支配する手を打っているというのに、教会もイスタリア帝室も全く動かない。
籠城している兵力は6万以上いると思うのだが、全く出てくる気配がない。
しかたがないのでロアマを放置してもっと南下する事にした。
領主のいない南部の都市や街、村々を解放する事にした。
「ありがとうございます、これで飢え死にをまぬがれました!」
「殿下、ありがとうございます、餓死せずにすみました」
「でんか、ありがとうございます、おいしいよ」
どこに行っても餓死寸前の人々ばかりだった。
家族のために危険な森に入って猛獣に喰われた人もいた。
雑草や木の根を煮て飢えをしのいでいた一家もいた。
この期に及んで、聖職者や領主の森に入り事を禁じ、人々を餓死させていた連中は、捕らえて飢えた人たちに引き渡した。
どのような処分をしても良いと言って引き渡した。
サラもあまりの惨状に何も言わずに同意してくれた。
南部の貧しい人たちが餓死してしまうまでに、ほとんど時間が残されていないと判断したので、傭兵団に独自に動くように命じた。
僕が雇う前の傭兵団なら、勝手にさせたら飢えた人たちを攫って奴隷として売り払っていただろう。
だが、半年も身近において僕のやり方を見せつけた後なら、勝手な事はしない。
以前と同じやり方をしたら、僕に殺されると分かっているからだ。
例え逃げても地の果てまで追いかけられると分かったからだ。
10隊1000兵の傭兵団が電光石火の早さで南部地域を席巻した。
僕に言われた、将来自分たちの領地になると考えて占領しろという言葉が、彼らを善良な統治者とした。
南部もロアマ周辺の中部地域と同じように、食糧を渡して飢えた人たちを雇い、森の木々を切り出させて武装船を建造させた。
農民以外の食糧生産に係わりのない者は、将来船員にするつもりで訓練させた。
僕たちが南部に行くのを待っていたのだろう。
ロアマに籠城していた教会とイスタリア帝国が出陣した。
教会が温存していた聖堂徒士団とイスタリア帝国軍がようやく出て来た。
だが、僕もこうなる可能性は考えていた。
連中が、僕が直ぐに戻れない状態になるまで待っているのは分かっていた。
僕が解放した街や村を襲撃して、信望を失わせる気なのも想像していた。
僕が危険を承知でロアマの包囲を解き、南部の奥深くにまで遠征できたのは、サラのヘルメース神の庭があったからだ。
「ユウジ、ロアマの教皇が出陣を命じたと知らせが来たわ」
サラの可愛がっている鷲と鳩が、教皇や皇帝が出陣の準備をしている時点で、いち早く知らせに来てくれた。
「そうか、悪いがヘルメース神の庭を使ってくれ」
「私に任せて、もう2度と教皇に人々を殺させないわ!」
サラと僕はイスタリア帝国南部でヘルメース神の庭を使った。
一瞬でパラディーゾ魔山に有る放牧地に来られた。
休む間もなくサラがロアマ近くの隠れ家に運んでくれる。
ヘルメース神の庭は使い方によったら転移魔術になる。
必ず1度パラディーゾ魔山に有る放牧地に行かないといけないが、そのわずかな手間があるだけで、サラの魔力を消耗する事なく自由自在に転移できる。
「ありがとう、もう安全なヘルメース神の庭に戻ってくれ。
僕は今度こそ手加減抜きに盗賊王スキルを放つ。
これまで貯めてきた魔力を全て使ってでも、教皇と皇帝、聖堂騎士団と近衛騎士団を皆殺しにして、この国の民を救う」
「分かったわ、言う通り戻ってあげる、その代わりか必ず生きて帰るのよ!」
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