第43話:迎撃と心配

 僕はグッと最後の我慢をした。

 聖堂騎士団とイスタリア帝国軍が完全に城門から出るまで待とうとした。


 少ない損害で逃げ戻らないように、最後尾が城門から離れるまで待ちたかった。

 だけど、僕に忠誠を誓ってくれた人々を殺させる訳にはいかなかいので、1度に全滅させるのを諦めた。


 6万の軍勢が一列で行軍したら、1人が1メートル間隔だと6万メートル、60キロメートルもの長蛇の列になる。


 二列で50センチ間隔にしたとしても、1万5000メートル、先頭から最後尾まで15キロメートルになる。


 最後尾が城門から出るのを待っていたら、先頭が近隣の村を襲い皆殺しにしてしまうので、敵が出た城門から1番近い街や村で待ち構えた。

 万が一のことを考えて、街や村の人たちには逃げてもらった。


 僕はジリジリと焦る気持ちを抑え込んで敵を待った。

 1度で教会とイスタリア帝国軍を滅ぼすのは諦めたが、できるだけ多くの敵を殺しておきたくて、ギリギリまで引き付けたかった。


「スティール・アイアン」

「スティール・Fe」

「スティール・スィラム・アイアン」

「スティール・Fe」


 毎日毎食大食いを重ねて貯めた魔力を全部使う覚悟で盗賊王スキルを放った。

 だが、魔力を無駄遣いする気はない。

 1番効率の良い魔力の使い方をして、できるだけ多くの敵を殺す。


 街道の右側にある森に隠れて待ち伏せした。

 先頭のイスタリア帝国軍100人ほどを盗賊王スキルで殺した。

 そのまま森の中を駆けて後続のイスタリア帝国軍に近づく。


 いきなり前を行く味方がバタバタと倒れたのを目撃したイスタリア帝国軍兵士は、僕の噂を聞いていたのだろう、一斉に逃げようとした。


 だが、後ろは延々と続く味方の行列だ、とても押しのけて逃げられない。

 左側は海岸線につながるまばらな林になっていて、とても逃げ隠れできない。

 当然僕が潜んでいる右側の森に逃げ込むことになる。


 追撃の邪魔になる敵は剣と盗賊王スキルの両方を使って殺した。

 見逃したら人々を害する可能性があるが、そこはサラの家畜を信じて任せる。

 索敵以外の役目を与えられた牛馬が、逃げた敵を殺すために放たれている。


 彼らが後ろにいてくれるから、僕は敵主力に集中する事ができる。

 敵に見つからないように森を駆けながら、100人単位で敵を殺し続けた。


 1時間ほどでロアマの城門前まで来たが、既に城門は閉められていた。

 城門の前には見捨てられた敵兵がひと塊となり、入れてくれと喚いている。


 僕に奇襲される事を想定していたのだろう、攻撃を受けたと知らせが届いて直ぐに、泣き叫ぶ味方を見捨てて城門を閉めたようだ。


 僕は情けをかける事なく味方に見捨てられた敗残兵たちを狩った。

 人として扱わず、人間を襲うケダモノとして情け容赦なく狩った。

 ここでキッチリと殺しておかないと、罪のない民が襲われる。


「ヒィヒヒーン」


「よく知らせてくれた、お陰で手間をかけずに殺せた、これはご褒美だよ」


「コケコッコー」


「よし、よし、良く知らせてくれた、たくさん食べなさい」


 サラが僕につけてくれた家畜がとても良く働いてくれた。

 逃げ延びた敵兵を自分たちで殺すだけでなく、僕に居場所を教えてくれた。


 卑怯下劣な連中だが、それでも聖堂騎士団や帝室騎士団に選ばれているのだ。

 剣士や槍士だけでなく、剣師や槍師、騎士のような強力なスキルを授かっている者もいて、サラの家畜では返り討ちにされかねない。


 そんな時は、大声で鳴いて僕を呼ぶことになっている。

 声の聞こえない遠くの場所でも大丈夫、間にいる家畜が中継して伝えてくれる。


 例え中継してくれる家畜がいなくても、鳩も鴨もいるので、航空偵察でおかしいと感じたら直ぐに知らせに来てくれる。


 2日かけて落ち武者のような連中を皆殺しにした。

 殺した敵の遺体は、襲われそうになった街や村の人に急いで集めさせた。

 野生の犬や狼に人間の味を覚えさせてしまうと危険だからだ。


 敵が装備していた武器や防具は僕に提出させた。

 自前の騎士団や徒士団を編成する時のために確保した。

 金もの物や食糧、衣服は街や村の人に分け与えた。


 弱い人々に危害を加える可能性のある連中を全員狩るのに2日かかった。

 サラの家畜たちがいてくれなければ、10日かけても安心できなかっただろう。


 3日目からは再び南部地方の解放に力を入れた。

 だが、それだけに集中していたわけではない。

 1万を越える戦力を失った教会とイスタリア帝国に揺さ振りをかけた。


「ユウジ、必要なら私も直接力を貸すよ!

 力のある子なら空から油を落とせるよ。

 そこに上手く火矢を放ったら火事にさせられると思うけど、やってみようか?」


 サラが鷲を使ってロアマに航空攻撃を仕掛けると言ってくれた。

 周辺の街や村が襲われそうになった事に危機感を覚えたのだろう。

 そうでなければロアマ市民を巻き込むような攻撃を自分から提案する訳がない。


「サラがそんな事をしなくても大丈夫だよ。

 サラは僕を毎日ロアマ周辺に連れて行ってくれるだけで良いよ。

 闇に隠れられる夜に城門や城壁に近づいて、盗賊王スキルで即死させてやる。

 そうすれば、それでなくても恐怖している連中が、夜も眠れなくなる。

 その内、城門や城壁の警備を拒否するようになる」


「そんな事駄目よ、それでなくても寝不足で疲れているのよ。

 これ以上無理をするのは僕が許さないからね!」

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