第44話:海賊退治

 サラと話し合って、時間を限ってロアマの攻撃を行った。

 城門や城壁を警備している敵兵を狙い撃ちして殺した。

 敵が怯えて城門や城壁に来なくなるまで続ける気だったのだが、駄目だった。


「殿下、また商会の船が海賊に襲われました、このままでは穀物の輸送が止まってしまいます!」


 半年以上共に戦って、性格や能力を見極められた傭兵は、身近において近衛騎士のよう役目を与えるようになっていた。

 その1人が、最近問題になっていた海賊の被害を知らせてくれた。


「直ぐに追撃の武装船団を送ってくれ、詳細な敵の位置は鳩で届ける」


「はっ、直ぐに追撃の武装船団を出撃させます。

 船長以下の幹部には、鳩が敵の位置を知らせると伝えます」


 傭兵は僕の言った事を復唱してから走って行った。

 優秀なので、そろそろ部下を使う練習させよう。


 この世界では船が未発達で、船と言えば櫂を漕ぐガレー船が主力だ。

 帆もあるが、バイキングの船のように柱1つに帆が1枚だけだ。

 帆も綿を強く密に織った帆布ではなく、良くて麻、普通は藁で編んだ筵だ。


 だから、操舵技術や操帆技術で船足が変わる事はあまりない。

 櫂を漕ぐ人間の力、人間の数で船足が変わる。

 当然だが、漕ぐ人数に対する船の重さや形でも船足が変わる。


 今回の海賊が、直ぐに根拠地に逃げ帰るのなら絶対に捕まえられない。

 特にイスタリア帝国以外の国に根拠地を持っていて、そこに逃げ込まれたら、その国との戦争を覚悟しなければ捕まえられない。


 今回は他国との戦争も覚悟しているが、実際にどうなるかは分からない。

 ムスラム人の国には、僕が商人を通じて流した警告が効いたと。

 可能性が0とは思わないが、別の勢力、国だと思う。


 クロリング王国が相手だと厄介だが、海岸線と海域の問題で可能性は低い。

 どこの国にも属していない海賊の可能性も多少あるが、1番可能性が高いのは、腹立たしい事にフロスティア帝国貴族だ。


 だからこそ、今回は海賊に追いつけると思っている。

 海賊がフロスティア帝国貴族なら、商船の乗組員を皆殺しにして船を沈めてしまえば何の証拠も残らず、援軍に来た貴族の武装船だと言い張れる。


 そんな腐れ外道の悪徳貴族が集まって、海賊船団を組んでいる可能性が1番高い。

 それを前提に武装船団を編成した。

 乗り組む者たちは素人だが、天与スキル的には適性があった者たちだ。


 哀しい事なのだが、僕が支配下に置いたイスタリア帝国の農地は荒廃していて、直ぐに十分な収穫が期待できないような状況だった。

 無理に耕作したら、来年も再来年も収穫量が落ちるような農地だった。


 新しい畑を開墾させる方法や、海の小魚を肥料にする方法もあるが、小魚は今飢えている人を生かすために必要なのだ。


 だから、ガレー船を動かすのに適性の有る人間は、農地から離す決断をした。

 兵士の適性がある者も農地から離した。

 今農地に残っているのは、農業に適した天与スキルを与えられた者だ。


 1年間荒廃した畑を放牧地にする事で、農地の地力を取り戻させる。

 家畜が食べ切れなかったクローバーや牧草は焼いて肥料にする。

 畑に地力が戻ったら、希望者を農地に戻して働いてもらう予定だ。


 そんな人たちを、武装船の船員や兵士にしたのだ。

 武装船は教会やイスタリア帝室、貴族が所有していたのを奪って確保した。

 イスタリア帝国全土から集めたので、大小合わせて100船はある。


 そんな武装船が、商船が襲われるのを最初から最後まで見ていた鳩に案内され、何食わぬ顔で味方を装うフロスティア帝国貴族の船に近づく。


 僕の武装船団も味方を装い、海賊の被害が頻発しているので護衛に来たと近づき、逃げられないように周囲を固める。


 十分な包囲ができたら一斉に遠距離攻撃を始める。

 僕の武装船団に乗り込んでいる人々の大半は実戦経験がない。

 だが、遠距離攻撃スキルを持っている人を半強制的に乗せている。


 飢えて餓死するか、僕の命令に従って働き、美味しい食事をお腹一杯食べるかなら、僕の配下として働く方を選ぶ人が大半だ。


 そんな状況でも、実際に自分の手で人間を斬り殺せと言われたら、やれない人も多いが、遠距離から矢を射たり魔術を放ったりするだけならやれる人もいる。

 僕の武装船団から腐れ外道の海賊船に雨あられと矢と魔術が降り注ぐ

 

 海賊船の船上に生き残る者が1人もいなくなってから、接舷して斬りこむ。

 指揮を執るのも乗り込むのも、海賊に家族や仲間を殺された者たちだ。


 熟練の現役船乗りもいれば、昔船乗りだった老人もいる。

 中には親兄弟に憧れて船乗りを目指していた子供もいる。

 全員が大切な人の仇を討とうと怒りに満ちている。


 怒りに満ちているからこそ、船内に逃げ込んだ生き残りを殺さない。

 僕が話して聞かせたのもあるが、彼らも目先の復讐だけで済ませる気はないのだ。

 本当の犯人、海賊をやらせていた貴族を殺したいと心から思っていた。


 だから生き残った海賊を捕らえて黒幕の名を吐かせる。

 経験豊富な傭兵団の拷問スキル持ちや尋問スキル持ちに引き渡す。


 初陣を勝利で飾った武装船団の人たちは、その場で聞きだせた、海賊行為をしていた船を拿捕するために、再び櫂を漕いで広大な海上で海賊船を探す。

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