第12話:家畜の買戻しと関所

 錬金術師に親書10通を託してサラのいる山の放牧場に戻る事にした。

 錬金術師とは、仲間に水晶やアルミニウムを宣伝してもらう約束もした。

 もちろん、仲介手数料を取っても良いと言ってある。


 サラの祖父や錬金術師に相談して、普通の商店で売れる水晶の質や大きさを教えてもらったので、それに合わせて盗賊王スキルを使った。


 教会と聖職者が信用できなくなった影響か、パワーストーンとして水晶の価値があがっているようで、フロスティア帝国よりも全体的に高い気がする。


 甘いハチミツやワインを入れた甕や樽に水晶を漬けて、聖なる力が加わったと信じて飲む習慣が生まれているという話しだった。


 鷲の羽とライオンの下半身をもった魔獣、グリフォンを彫刻した水晶のお守りを身につけていれば、母乳が豊かに出ると言う口上で彫像を売っている店もあった。


 他にも、上質な水晶には浄化能力があり、様々な病気を治す特効アイテムだと言う口上で、普通の水晶を信じられないくらい高く売っている店もあった。


 そう言う店を見つけては、盗賊王スキルで土からケイ素を集めて造った水晶を持ち込み、少々罪悪感を持ってしまうくらいの高値で売った。


「このお金で手放した牛の代わりを買います。

 所有者は私にしておき、サラに預ける形にすれば、いくら教会や聖職者でも奪う事はできないでしょう」


 僕は道々サラのお爺さんを洗脳する事にした。

 いや、洗脳は言い過ぎだ、この世界、この時代を清く正しき生きるコツを教えた。


「ユウジ殿の言われる通りになれば良いのですが、領主や代官がいない街や村では、公文書を発行するのも預かるのも教会で、管理しているのは聖職者です。

 連中がその気になれば、所有者を書き替える事も簡単です」


「流石にそこまでやれば、神も黙っておられないでしょう」


「……そうは言われるが、その唯一神が当てにならない」


「これは噂なのですが、神は唯一神だけではないそうです」


「なんですって?!」


「天与儀式があり、スキルを授かるのですから、神がおられるのは間違いない」


「確かに、その通りですな」


「ですが、教会の腐敗や聖職者の堕落を見過ごしている」


「はい、その点が神を信じられない所です」


「これらの事実から想像すると、この世には、教会を腐敗させ聖職者を堕落させる悪い神と、人にスキルを授けてくださる良い神がると思われる」


「悪い神と良い神ですか?!」


「はい、現に私は教会の腐敗と聖職者の堕落が生んだ盗賊に殺されかけましたが、同じように教会と聖職者に苦しめられている、貴方たちに助けられた」


「直接助けたのは親切な行商人さんと聞いています」


「貴方たちが悪人なら、金だけ受け取って私を見殺しにできた。

 騙されて背負った莫大な借金があるのに、僕の金銀財宝に誘惑されなかった」


「それは……サラがいてくれたからでしょう。

 天真爛漫で、私たちを勇気づけてくれるサラがいてくれるから、私たちは道を踏み外さずに生きて来られた」


「そう言うサラのいる家に僕が預けられた事が、悪い神と戦う良い神がいる証拠。

 良い神を信じて、教会や聖職者に負けないように戦いましょう」


「そうですね、孫に恥ずかしい生き方はできませんな」


 こんな会話をしながら、山の放牧地までに通り街や村で家畜を買い集めた。

 錬金術師がいたトレノを手始めに、立ち寄った全ての街や村で、水晶を売り牝牛を中心に羊、山羊、馬、豚を買った。


 僕とお爺さんだけでは扱える家畜の数が限られるので、牧羊犬を使って家畜を操れる牧夫を何人も雇った。


 費用はかかるが、僕とお爺さんだけで多くの家畜を連れていると、本当の盗賊に狙われるので、自衛のためにも人が必要だった。


 十分な準備をして、用心もしていたつもりだったが、やはり善人を害する悪神がいるようで、僕たちの帰路を邪魔する者が現れた。


「待て、ここから先は教会の領地だ、通りたければ唯一神に浄財を支払え!

 人間1人大銀貨1枚、牛や馬も1頭大銀貨1枚、山羊羊豚は小銀貨1枚にまけてやるから、今直ぐ払え、払えなければ連れている家畜は全て没収だ!」


 ひと目見ただけでの性根が腐っているのが分かる、見事な悪人顔が3人だった。

 一応聖職者が着るような服を着ているが、見せびらかすように金銀で作られた装飾品を身に付けている。


「5日前に通らせていただいた時には、そのような浄財は必要ありませんでした」


 お爺さんが聞き返すが、更に難癖をつけてきやがった。


「はぁ、浄財も払わずに教会の領地を通過しただと?!

 それでも唯一神の信者か、許せん、家畜だけで許してやるつもりだったが、身包み剥いで叩き出してやる!」


 怒っているような言い方をしているが、顔が笑っている。

 抵抗できない善良な人間を痛めつける快感に酔っている笑みだ。

 唯一神の名を持ち出せば、どんな無法も通ると思っているようだ。


「待って頂きましょう、これは私が買った家畜です。

 買った街や村の領主や代官のサインももらっています。

 いくら教会でも、無法に奪えばただではすみませんよ」


「くっ、くっくっくっ、その領主や代官が教会の物だと証言したらどうする?

 それとも、売ったのではなく盗まれたと記録にあったらどうする?

 素直に渡さないと、殺してから書類を書き換えられるんだぞ」


 うん、もう大丈夫、殺しても良い悪人かどうか確かめられた。

 盗賊王スキルで人を殺せるのか、こいつらで実験しよう。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る