第13話:盗賊王スキルは即死スキル

 僕は盗賊王スキルが即死スキルに応用できるか試してみた。

 お爺さんや牧夫たちに気付かれないように、口の中で小さく言う。


「スティール・アイアン」

「スティール・Fe」

「スティール・スィラム・アイアン」

「スティール・Fe」


「スティール・ソルト」

「スティール・NaCl」

「スティール・クロリン」

「スティール・Cl」


 僕は醜い聖職者3人に狙を絞って盗賊王スキルを発動した。

 慎重に、全身全霊で集中して、周りに影響を与えないように狙を定めた。

 その上で、聖職者の身体から鉄、塩、塩素を奪った。


「えっ?!」


 お爺さんが突然倒れた3人の聖職者を見て驚いている。

 僕に雇われた牧夫たちは、聖職者たちの横暴に驚いて固まっていたが、続いて起きった聖職者たちが倒れる姿に理解が追い付いていない。


「どうやら、こいつらの背神行為に唯一神が天罰を下されたようですね。

 もしまたこのような者が現れても、唯一神が天罰を下されます。

 僕たちは唯一神の加護を受けていますから、安心して行きましょう」


 僕がそう言うと、以前話していた善神と悪神の話を思いだしてくれたようで、お爺さんが良い笑顔を浮かべて歩き出してくれた。


 5人の牧夫も、恐怖に顔を歪めながらではありますが、逃げる事無く家畜を前に進めてくれた。


 しばらくはのんびりと街道を歩く事ができました。

 丘の上に建つ教会が目障りですが、盗賊王スキルで盗めそうもないので、自分の無力を嘆きながら睨むだけです。


 遠くから中の腐れ聖職者を即死させさせられたらいいのだが、効率が悪過ぎる。

 距離に比例して魔力が必要になるので、近づいて殺した方が良い。


 それに、本当に殺すべき相手か確認しておかないと、善良な聖職者が残っているかもしれないし、捕らわれている善人がいるかもしれない。


 などと考えていると、まだ汚物が視界に入って来た。

 こちらから殺しに行かなくても、向こうが殺されに来てくれた。


「何だお前らは、どうやってここにやって来た、反対側の奴らは何をしている?」


 恐らく、教会領と言い張っている境目まで進んだのでしょう。

 誰か弱い者から奪った、財布を含めた金目の物を持ってニヤニヤしている、聖職者風の犯罪者に止められた。


 街道の両側を止めて、浄財という名目の通行料を奪いとっていたのだろう。

 いや、もしかしたら、地元の人間しか知らないように、獣道にまで見張りを置いているかもしれない。


「まあ、いい、連中がさぼっていたから、これだけの家畜が手に入る」


 300頭近い馬、牛、山羊、羊、豚を前にして嫌らしい笑みを浮かべている。

 全て奪い取るつもりのようだが、頭が悪過ぎる。

 こんなやり方をしたら、あっという間に周辺の町や村が滅んでしまう。


 風向きが変わって、家畜の臭いではない、人間の嫌な臭いが漂ってきた。

 前世日本と違って湿度が低いから、少々風呂に入らなくても酷い悪臭にはなり難いのだが、耐えられないくらい酷い体臭だ!


「おい、こら、死にたくなかったら家畜を全部置いて行け」

「家畜だけじゃねぇ、有り金全部置いて行け」

「さっさとしないとぶち殺すぞ」


「スティール・アイアン」

「スティール・Fe」

「スティール・スィラム・アイアン」

「スティール・Fe」


「スティール・ソルト」

「スティール・NaCl」

「スティール・クロリン」

「スティール・Cl」


 さっき会った聖職者風恐喝犯よりも質が悪い。

 今度の連中は剣を抜いて脅してきやがった。

 袖口に血の跡があったから、文句を言った人を斬っている。


 だから、罪悪感なくスキルを使えた。

 最初から手加減する気はなかったが、思いっきり盗賊王スキルを使えた。


 今のところ何の問題もなく、人間の身体から狙った成分を盗めている。

 直接僕の体内に取り込めるわけではなく、手の中や手の中にある入れ物に、狙った成分を入れられる。


「また天罰が下ったようですね」


 お爺さんがうれしそう笑顔を浮かべながら話しかけてきた。

 僕のスキルでやったと分かっているのだろう。

 これで愛する孫娘が連れ去られないと確信した、喜びの笑みだな。


「すごいな、唯一神なんかいないと思っていたが、本当にいたんだ!」


「馬鹿言え、唯一神が本当にいるなら何でこんな奴らを野放しにしている?」


「唯一神も忙しくて手が回らないんじゃないか?」


「手が回らない、それでも神かよ!」


「そうは言っても、世界中の悪人に天罰を下すのは大変だぞ」


「ちっ、神のくせに大した事ねぇな!」


「まあ、まあ、まあ、神にも色々いるらしいですよ」


 お爺さんが、口々に感想を言う牧夫たちに話しかけた。

 僕が言った善神と悪神の話をしてくれたら、僕が噂を広める必要がなくなる。

 

「どういうことだよ、神にも色々ある、何の話だ?」


「トレノの錬金術師様に聞いた話なのですが、教会の連中に力を貸す悪い神と、儂たちにスキルを授けてくださる良い神がおられるそうなのです」


 お爺さんの話を牧夫たちは真剣に聞いていた。

 最初は半信半疑だったが、実際に目の前で悪い聖職者が突然死んだのだ。

 それも1度ではなく、2度も3人が同時に目の前で死んだのだ!


 どれほど疑い深い人間だって、信じるしかない。

 それに、全ての人間がスキルを授かれるのだ、神がいるのも間違いない。

 神がいるのに、腐敗した教会を見逃し、堕落した聖職者を野放しにしている。


 聖職者に手を貸す悪い神、善良な人間を助ける良い神、善悪関係なく人間にスキルを授けてくださる神、の最低3柱がいると思うしかない。

 お爺さんは5人の牧夫にそう説明していた。


 僕が話した善悪2神ではなく、3神以上いると言う話に作り替えている。

 その方が現状に合っていると僕も思う。

 僕も次からはそう説明した方が良いだろう。


 お爺さんは神の話など信じていないだろう。

 6人の腐れ外道を殺したのは僕だと確信しているはずだ。

 その上で、僕の嘘をこの国に広めてくれる気だ。


「お爺さん、少し急ぎましょう。

 こんな連中だと、期限を無視してサラを連れて行こうとするかもしれません」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る