第14話:間一髪
物凄く嫌な予感がしたので、僕は急いで山の放牧場に向かった。
幸い馬を11頭買っていたので、変え馬3頭も連れて駆けた。
お爺さんもついて来たがったが、足が遅くなると説得した。
それに、お爺さんまでいなくなったら、牧夫たちが家畜を連れて逃げてしまうかもしれない。
彼らを信用しない訳ではないが、教会が堕落して聖職者が腐り切っている国だ。
民の心も腐っている可能性が高い。
お爺さんが残る事で、牧夫たちが道を踏み外さずにすむ可能性もある。
僕は馬を潰さないぎりぎりの速さで走らせた。
頻繁に馬を替え、人間を乗せる負担を4頭に分け持たせた。
馬の様子を見て、駆歩を速歩や常歩に緩めて潰さないように工夫して急いだ。
ただ、どんなに急いでいても5kmほどしか使えない全力疾走、襲歩は使わない。
長距離を走り抜く事を考えたら、使いたくても使えない。
馬を潰してもでも一時的に距離を広げたい、逃亡時ではないのだ。
平均的な分速が340m駆歩と、平均的な分速が220mの速歩を交互に使って、パラディーゾ魔山の裾野にある谷の冬家にたどり着いた。
「うわぁ~ん」
「ぎゃあ、ぎゃあ、泣くな、このクソガキ」
馬には負担をかけたが、そのお陰でギリギリ間に合った。
いや、サラの弟が冬家から蹴り飛ばされたから、間に合ったとは言えない!
怒りの言葉を叩きつけたいが、そんな気持ちは剣に込める!
「なっ?!」
似合わない神官服を着たような腐れ外道が、騎乗して迫る僕に気がついて、驚愕の表情を浮かべている。
遠方から盗賊王スキルを使って即死させられるかもしれない。
だが、怒りの余り精神状態が不安定だ。
万が一狙いがずれたり広がったりしたら、サラの弟を殺してしまう。
誰も巻き込む事がないように、剣で確実に殺す!
馬が冬家にぶつからないように、ギリギリの手綱さばきを要求される。
速度を緩め過ぎたら、腐れ外道がサラの弟を人質にするかもしれない。
右手で手綱を持っていた3頭の替え馬を自由にさせる。
これで腐れ外道を斬り殺す剣を抜く事ができる。
「なんだ、どうし、げっ」
冬家の中に腐れ外道の仲間が2人いた。
大声で泣くサラの妹と弟の髪をつかみ、引き摺ってでてきた。
怒りで我を忘れそうになるが、必死で平静を保つ。
慌てず、確実に1人ずつ殺す、妹と弟を1人ずつ確実に助ける。
馬を減速させる事なく円を描くように駆けさせて、1人目の首を刎ねる!
両刃の剣を利用して、返す刀で冬家から出てきたばかりの腐れ外道の首を斬る。
上手く頚動脈を断ち斬れたから、直ぐに死ぬだろう。
もう1人に腐れ外道が、1番幼い弟を抱え込むのが目の端に映る。
1番場慣れした奴が残ってしまったか?!
いや、こいつが最後とは限らない、冬家の中にまだ外道がいるかもしれない。
弟妹3人の無事は確認できたが、お婆さんは大丈夫か?
まさか、孫を連れて行かれないように抵抗して、斬られたか?
どれほど危険であろうと、急いで冬家に入らないと!
焦る心を抑えて馬の速度を徐々に遅くする。
小さく円を書くように操り、玄関前で飛び降りられる早さにまで遅くする。
急停止させると馬の脚にも心臓にも悪いから、速歩の状態で飛び降りる。
馬はそのまま逃げてしまった。
元々が憶病な馬に無理をさせ過ぎたからしかたがない。
軍馬なら耐えてくれたかもしれないが、農耕馬に毛が生えた程度の乗馬では、こんな手荒に扱ったら逃げられて当然だ。
「街道の方に逃げなさい、お爺さんが助けにきている」
サラの弟妹、長男と次女に出来るだけ優しく声をかける。
1番年下の弟が人質にされている、心に癒し難い傷を残す前に助ける。
もし目の前でお婆さんを殺されていたら……
「くるな、近づくな、これ以上近づいたらガキを殺すぞ!」
冬家に飛び込んだが、腐れ外道が1番下の弟に剣を突き立てている。
部屋の隅にお婆さんが倒れている。
目に見える範囲に血は流れていないから、剣の平か柄で叩かれたか?
だが、叩かれただけでも、場所によったら即死する。
見えている頭に陥没はないが、陰に隠れている頭が潰れている事もある。
どちらにしても、できるだけ早く介抱しなければいけない。
この状態で斬り込んだら、人質が殺されてしまうかもしれない。
怒りで冷静でない状態で盗賊王スキルを使ったら、狙いが定まらなくて、人質まで即死させてしまう可能性がある。
お婆さんの事がなければ、時間をかけて心が落ち着くのを待てるのだが、1分1秒を争う状態かもしれない。
盗賊王スキル以外で、人質に危険を及ぼさない、早く助けられる方法はなんだ?
人質を巻き込む事のない盗賊王スキルの使い方はないのか?!
殺さずに無力化できるモノなら、狙いがずれて人質から盗んでも大丈夫だ。
何を盗む、何を盗んだら殺すことなく無力化できる?!
そうだ、貧血、脳貧血、低血糖症状による昏睡だ!
だが、できれば人質の子供は巻き込みたくない。
幸い大人と子供で身長差が大きい、腐れ外道の頭にだけ狙いを定められたら、人質を巻き込まずにすむ、外れた時も考えて、何度も使ってやる!
「スティール・フルクトース」
「スティール・C6H12O6」
「スティール・ブドウ糖」
「スティール・グルコース」
「スティール・ C6H12O6……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます