第37話:傭兵団

 僕はフロスティア帝国とイスタリア帝国の傭兵を集めた。

 特にフロスティア帝国の傭兵を集めて、裏で動こうとしているフロスティア帝国貴族の手駒となる者を減らした。


 更にフロスティア帝国の傭兵には、向こうから大量の兵糧を運び守りながら合流してもらった。


 イスタリア帝国内では、教会と王侯貴族の悪行により農村が疲弊し、食糧生産力が著しく低下してしまっていた。


 支配下に置いた民を養うだけなら、盗賊王スキルで造った水晶とアルミニウムを売った資金で購入できる。


 だが、僕が豊富な資金でイスタリア帝国内の食糧を買い集めたら、それでなくても高騰している食糧が、平民が買えないくらい暴騰してしまう。


 これからイスタリア帝国全土を占領して、全国民を支配下におくなら、比較的食糧に余裕のあるフロスティア帝国から運ぶしかなかった。


 それは成功したのだが、同じ国内の傭兵団でも同時に雇うと喧嘩が多いのに、2大帝国の傭兵団を過去の因縁を無視して数多く雇ったのだ、喧嘩しない訳がない。


 喧嘩を止めようと思えば、上に立つ者の力を見せつけるしかない。

 いや、傭兵団同士が争う内部抗争など些細な事だ。


 これから本格的な戦いが始まれば、僕の目の届かない場面が数多くある。

 何の罪もない人たちが、僕の雇った傭兵に暴行略奪されるのは耐えられない。

 そんな事が起こったら、サラに軽蔑されてしまう。


 だから、全ての傭兵団に喧嘩を売った。

 これまで認められてきた、傭兵団の略奪を禁じると言い放った。

 僕の予測通り、まんまと喧嘩を買ってくれた。


「おい、こら、まてや、第3皇子かなんか知らないが、略奪を禁じるだと?!

 自分を何様だと思ってやがる、ガタガタ文句を言うなら、敵に寝返るぞ!」


「寝返ると言うのなら敵だ、この場で皆殺しにしてやるからかかってこい」


「はぁ、調子に乗んなよ、クソガキ。

 こちとら戦場生まれの戦場育ちだ、第3皇子だろうが手加減せずにぶち殺すぞ!

 謝るなら今の内だぞ、クソボケ!」


「ガキの喧嘩をしているんじゃない、口喧嘩がしたいのならオムツした子を探せ。

 何ならお前のようなガキでも勝てそうな赤ちゃんを探してやろうか?」


 顔が元の13歳に戻っている僕に言われて、我慢できなくなったのだろう。

 2メートルを超える巨躯を怒りに震わせながら突っ込んで来た。

 得意の体術スキルを駆使して僕を殴り殺す気だ。


 挑発した傭兵団の悪行は調べてあるから、殺すのに罪悪感はない。

 盗賊王スキルで即死させるのが1番簡単なのだが、それでは傭兵が自分たちの格付けに使っている、分かりやすい武術系の強さを見せつけられない。


 事前に魔力を身体に流して、限界まで力強さと速さを引き上げてある。

 巨躯が僕を舐めているのを利用して、放った右ストレートに左ストレートのクロスカウンターを合わせる。


 僕は巨躯の拳を1ミリの見切りで避けているからノーダメージだが、巨躯の方は僕の渾身の左ストレートを受けて頬骨と上顎骨が粉砕された。


「文句のある奴はまとめてかかってこい!

 ないならさっき言った通り、僕の言う通りにしてもらう。

 逆らって略奪をした奴は、地の果てまで追ってぶち殺す!」


「舐めやがって、何様のつもりだ?!」

「こうなりゃフロスティア帝国も皇子もかんけぃねぇ!」

「ぶち殺せ、袋叩きにして殺しちまえ!」

「「「「「おう!」」」」」


 僕が喧嘩を売った傭兵団だけでなく、これを好機とかかってくる傭兵団もいた。

 連中の考えなど馬鹿でも分かる。

 最初から僕が支配下に置いた領地を奪い取る気だったのだ。


 僕が騎士団や帝国軍を指揮しているなら、金をもらい略奪をするだけで満足していたのだろうが、来てみたら騎士団も帝国軍もいない。


 僕1人を殺せば、広大な領地を奪える状態だったのだ。

 欲深い傭兵が、領地を持つ貴族や騎士に成りあがろうとするのは当然だった。

 全領地は奪えなくても、1人1つの村を支配できれば大儲けだから。


 本気で僕を殺そうとする、武術系スキル持ちの傭兵を迎え討つ。

 1度分かりやすい左ストレートで傭兵を倒したら、後は盗賊王スキルを使っても構わないし、乱戦になったらスキルを使っているのを見抜ける奴も少ない。


「スティール・アイアン」

「スティール・Fe」

「スティール・スィラム・アイアン」

「スティール・Fe」


 口の中でつぶやくように呪文を唱え、弓士スキルを使って僕を射殺そうとしていた傭兵を即死させる。


 剣士スキルを使って僕を斬り殺そうとした傭兵が振り下ろした剛剣を、魔力で早めた体捌きで躱し、同じように魔力で早めた剣捌きで頚動脈を裂く!

 だが1人2人の傭兵を殺しただけで戦いは終わらない。


 槍士スキルで早めた突きを繰り出す傭兵の槍を、左手の剣で受け流し、剣士スキル傭兵の頚を裂いた右手の剣を流れるように操り、槍を半ばで一刀両断する。

 そのまま素早い足捌きで近づき、今度は左手の剣を流して頚を裂く。


「スティール・ソルト」

「スティール・NaCl」

「スティール・クロリン」

「スティール・Cl」


 投石スキルで僕を殺そうとした傭兵を即死させる。

 呪文と体捌きは別物、油断している傭兵の群れに入り込み双剣を煌めかせる。

 剣の煌めきと同時に鮮血が撒き散らされる。


 このまま一気に傭兵を皆殺しにする方法もあるが、最善ではない。

 できれば武力が高くて最低限の礼儀をわきまえている者を配下にしたい。


 忠誠心などなくても良いが、契約を守る信義あれば十分だ。

 あるいは僕の強さに恐怖して従う判断力があるのでも構わない。

 できれば傭兵の方から謝って来てくれればいいのだが……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る