第22話:教会の手先

 ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ザワ……


 サラが戻って来てくれてから20日、穏やかで幸せな日々だった。

 もっと早く次の敵が現れると思っていたが、意外と遅かった。

 田舎の教会だから、何をするのものんびりしているのか?


 ただ、今回は多少知恵の回る奴が指揮を執っているようだ。

 昼間ではなく、夜に襲おうとしている。


 だが、熟睡している時を狙うのなら、0時くらいにすべきだった。

 3時だと、眠りが浅くなっているので、家畜だけでなく僕でも気がつく。


 隣の部屋で寝ているサラを起こさないように、静かに窓から外に出る。

 盗賊王スキルなど使わなくても、幼い頃から鍛えた身体が殺気を感じる。

 まだ矢が届く距離ではないが、最悪の事態を想定しておくべきだ。


「スティール・アイアン」

「スティール・Fe」

「スティール・スィラム・アイアン」

「スティール・Fe」


 少し多めに魔力を使ってしまうが、矢の射程に入る前に殺す。

 敵が固まっている辺りに、広範囲に盗賊王スキルを放つ。


「スティール・ソルト」

「スティール・NaCl」

「スティール・クロリン」

「スティール・Cl」


 卑怯下劣な奴ほど憶病でもある。

 教会で権力を振り回す腐れ外道は、卑怯で臆病と決まっている。

 そんな指揮官が1人でいるはずがなく、周りを護衛で固めているはずだ。


 だから敵の気配が集まっている所に盗賊王スキルを放つ。

 僕の盗賊王スキルで即死させれば、断末魔もなしに殺せる。

 即死はさせられなくても、声も立てずに昏倒して身動きできなくなる。


 数は思っていたよりも多いが、腕の方はお粗末だ。

 こんな弱い連中なら、盗賊王スキルを使うことなく、剣だけでも皆殺しにできた。

 ただ、剣だと悲鳴をあげられてしまうので、逃げられてしまう可能性がある。


 今回の目標は最初から皆殺しだ、1人も生きて返さない。

 それが村人を恐怖させ、もう2度とサラを売らせない事につながる。

 直接脅迫する方が簡単だが、それはサラが望まない方法だと思う。


 などと考えながら、素早く移動して次々と盗賊王スキルを放つ。

 敵は夏家の周囲を取り込んでやがるから、僕が動かないと反対側から襲われる。

 よく眠っているサラの安眠を邪魔させない!


 本当に思っていた以上に数が多かった。

 今回の襲撃に100人以上送ってくるとは思っていなかった。

 全員倒したと思うが、念のため確認する。


 確実に殺しておかないと、優しいサラが埋葬すると言い張るだろうから、万が一にも殺し損ねていたら、サラが危害を加えられたり人質にされたりするかもしれない。

 そんな事が絶対に無いように、息のある奴は首を切って止めを刺す!


「……進んで殺そうとしたのか、無理矢理やらされたのか……」


 思わず言葉が出てしまうほど残念だったのは、襲撃者に村人が加わっていたから。

 即死していたから止めは必要なかったが、物凄く嫌な気分になった。

 サラがこの事実を知ったら哀しむので、嫌な気分になった。


 嫌な予感を抱えながら、倒れている連中を全部確認した。

 8割だ、108人中85人もの村人がいた。


 天与儀式を終えたばかりに見える奴から、孫がいてもおかしくない奴まで。

 老若男女関係なく村人が加わっていやがった!

 サラには隠しておきたいが、無理だな。


 山に上がってきている村人全員が参加していたのだろう。

 陽が昇っても誰も家畜を世話をしなければ、嫌でもサラが気付く。

 そもそも夏家に周りが死体だらけで、今から僕1人で埋葬など不可能だ。


 全員の顔を確認するのに1時間前後かかった。

 陽が昇るまで1時間ほど、何とも嫌な気分を抱えながらサラが起きるのを待った。


「おっはっよぉ~、ユウジはいつも早いね!」


 何時もと変わらないサラの挨拶を遠く感じてしまう。

 起きた事実を話したら、サラが嘆き悲しむのは分かっている。

 今から話をしなければいけないのがとても辛い。


 辛いが、何も知らずに村人たちの遺体を見るよりは、前もって話しておく方が、まだサラの辛さが小さいと信じて話す。


「サラ、驚かずに聞いて欲しい、今朝教会の襲撃があった」


「!、そうなんだ、前もって言ってくれていたから、覚悟はしていたよ。

 ユウジが全員殺したの?」


「ああ、全員殺した、1人残らず殺した。

 夜中だったから、相手の顔も分からない状態だったが、スキルを使ったから、苦しむことなく眠るように死んだと思う」


「……そう、なんだ、苦しませずに殺せるのかぁ~」


「ただ、教会の連中は、僕たちが思っていた以上に卑怯下劣だった。

 恐らくだが、教会の権力を使って脅したのだろう、襲撃に村人が加わっていた」


 優し過ぎるサラには、欲に目が眩んだ村人が進んで襲ってきた可能性は話さない。


「え、うそでしょ、いくらなんでも、私たちを売っただけでなく、直接襲ったの!」


「ああ、夜だったから、顔も分からず皆殺しにしたが、止めを刺すのに近づいたら、大半が村人だった」


「え、たいはん、大半て、どういう事よ?!」


「108人が襲ってきて、顔を知らないのが23人だった」


「……全員なの、山に来ている全員が私たちを殺そうとしたの?」


「ああ、そうだ、85人全員が僕たちを殺そうとしていた」


「いや、いや、いや、いやぁあああああ!」


 可哀想に、サラの優しい心は、こんな現実には耐えられない。

 何とか少しでもサラの気持ちを癒してあげたいが、どうするのが1番良い?

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