第23話:戻る

 僕が殺した108人全員を、サラに手伝ってもらって埋葬した。

 サラは黙々と穴を掘り遺体を埋めていたが、物凄く辛そうだった。


 僕には当然の報いに思えるのだが、サラの優し過ぎる性格は、過度に相手を思いやってしまうのだ。


「だってユウジ、家族を人質に取られていたら、やるしかないじゃない。

 こんな世の中なんだから、家族のために他人を売るのはしかたがないよ。

 村の人だって、やりたくてやったんじゃないよ」


 僕がいくら村人の悪い所を言っても、良い人だったかもしれない可能性を考えてしまう、それがサラの良い所であり悪い所でもある。


 僕が何を言ったところで、変えられない性格だと思う。

 もし変えられたとしても、それはもうサラではなくなる。

 こんなサラだからこそ、縁も所縁もない僕を、あの状況で看病してくれたのだ。


 でも、勝手な願いだと分かっているが、もう少し人を疑ってくれ、ちゃんと悪い所を見てくれと思ってしまう。

 多少は狡くなって、自分の欲も前に出してくれとも思ってしまう。


「ユウジ、悪いけど、家畜を全部ここに置いて行きたいんだ。

 谷に残された人たちは、幼い子供か働けないようなお年寄りばかり。

 子供たちが大きくなるまでは、残された家畜を売るしか生きて行けないよ」


 そう、こんな事を言われてしまったら、狡くなってくれと思って当然だ。

 自分を殺そうとした連中の親や子供の心配をする前に、自分の事を考えてくれ!


「え、大丈夫だよ、僕の事はユウジが守ってくれるんだろ?

 だったら僕は自分の心配なんてしなくていいじゃん」


 ずるい、狡過ぎる、サラ、お前は酸いも甘いも嚙み分けた年増女か!?

 103年生きた爺を掌で転がすなんて、なんて悪女だ!

 全部無意識、天然でやっているからこそ質が悪い!


「だけどサラ、家畜を残して行っても、子供と年寄りでは世話なんてできない。

 それに、何か理由をつけて教会が奪って行くに決まっている。

 そんな無意味な事をするよりも、僕たちで活用した方が良い」


「だったら、またユウジにお金を使わせてしまうけれど……」


「無駄だ、お金にして置いて行っても、教会の連中に奪われるだけだ。

 サラ、村の人たちを殺したのは僕だ、サラが気にする必要はない。

 そもそも連中はサラを殺そうとしていたんだ、自業自得だ」


「……分かっているんだ、分かっているけど、苦しいんだ」


「サラの性格だから、忘れる事はできないだろうし、気にするなと言っても無理なのは分かっている。

 こんな時は、何も考えられないくらい忙しく働いて、夢も見られないくらい疲れて寝るのが1番だ。

 僕たちの家畜だけでなく、村の家畜も世話しよう」


「……うん……分かった」


 150頭を2人で世話するのも大変だったのに、700頭前後を2人で世話しなければいけないのだから、寝る時間もろくにない状態だった。


 僕は魔力の蓄えがあり、天与スキルもあるからどうとでもなるが、天与儀式前のサラは、疲れ果てて倒れるまで働き続けていた。


 止めたいし、注意したかったが、少しでも眠りが浅くなると、もの凄い悪夢をみてしまうようで、何度も悲鳴を上げて飛び起きているので、何も言えなかった。

 そんな日が6日も続いた翌朝、忘れていた人が戻って来た。


「……あ、行商人さん、お元気でした?

 看病を頼まれていた人、ユウジさんという名前だったんですが、目を覚まされて元気にされていますよ」


 僕を助けてくれた人が、山の夏家まで訪ねていてくれた。

 正直、ここまで男前、美男子だとは思っていなかった

 サラが親しげに話していると、イライラしてしまう。


「そうかい、ありがとう、君のお陰で人助けが無駄にならなかったよ。

 やあ、ユウジと言うんだって、元気になってよかったね」


「助けてくださってありがとうございます。

 お陰様でこうして元気になれました、お礼をさせて頂きたいのですが、何か望みがあったら教えてください」


「お礼か、そうだな、何が良いかな、何をしてもらおうか?」


「僕にできる事なら、できる限りの事をさせて頂きます」


「だったら新しい教会を作ってくれよ。

 この世界の人たちは、神が1柱だと思い込まされている。

 実際は、とても多くの神々がいて、役割分担している。

 それを一生かけて伝えてくれたら、僕に対するお礼になるよ」


「そうなのかもしれないと思っていましたが、本当に神は1柱ではないのですね。

 貴方様が、その神の1柱、ヘルメース神なのですね」


 前世の知識と経験が、目の前にいるモノが神だと教えてくれる。


「良く分かったね、さすがユウジだ、だったら話が早い。

 我の願いのために一生を捧げてくれるな?」


「はい、ヘルメース神に助けていただいたこの命が尽きるまで、この世界に多くの神がいるという教えを、広めさせていただきます」


「そのように堅苦しく考えなくても良い、無理をしなくても良い。

 もっと人生を楽しみながら、ゆるゆるとやれば良い。

 何の偶然か、他の神の仕業か、前世の記憶が蘇ったのだ。

 前世ではできなかった事を今生で楽しみながら、我の願いを広めるのだ」


「はっ、ご厚情感謝いたします。

 人生を楽しみながら、ヘルメース神の教えを広めさせていただきます」 

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