第33話:独断専行
サラと僕は何度も話し合い、時に言い争いになった。
103年も生きてきたのに、13年しか生きていない心清らかなサラを慰める事も説得する事もできなかった。
男が女を言葉で納得させる事などできないと思い知った。
特に自分の欲得が混じった言葉など女の心に届きはしない。
天真爛漫で思い遣り深いサラの心に、利己的で狡い僕の言葉は届かないのだ。
だが、僕がサラを助けたい、苦しめたくないと思っているのは本心だ。
利己的で狡い所は教会の聖職者に向かっているし、聖職者を皆殺しにするよりもサラを苦しめない事が最優先だ。
だから、サラには何も言わずにトスカナ司教領の領都に向かった。
このまま受け身でいたら、サラの心が蝕まれ続ける。
家畜たちを犠牲にしなくてもいいように、司教を殺して侵攻を止める。
司教を殺し、司教領にいる聖職者や聖堂騎士たちを皆殺しにしても、教皇が生きている限り攻撃は終わらないし、聖職者の悪行もなくならない。
司教を殺してもサラの所には戻らない。
そのまま教皇のいる大神殿にまで行き、教皇以下の全聖職者を皆殺しにする。
大神殿はロアマにあり、イスタリア帝室の宮殿もロアマにある。
ロアマはイスタリア帝国の首都であり、多くの貴族が住んでいる。
教皇を殺して教会を壊滅させるついでに、帝室も貴族も皆殺しにする。
その計画を考えながら、護衛騎士隊長と逃げた時に連れていた軍馬を操る。
乗っている馬を脚と左手で操り、右手で予備の馬を操らなくても、逃げる事なくついて来てくれる。
サラがこの場にいないのに、サラの家畜となった子たちは、僕の言う事を良く聞いてくれる。
サラと別れて3日目の夜に司教領の領都についた。
夜が明けるのを待って、結構な額の賄賂を門番につかませて中に入った。
思っていた通り、上から下まで腐り切っていた。
遠征軍が負けるとは夢にも思っていないのだろうが、それにしても、戦いの最中にも関わらず、賄賂をもらえば怪しい人間を領都の中に入れる門番がいるのだ。
ただ、中に入れた後で取り締まれば良いと考えている可能性もある。
領都の中を巡察する連中がいて、外から来た人間は、全員身包み剥いで殺す気なのかもしれない。
1万近い聖堂騎士と聖堂徒士を出陣させているから、領都を守る兵力も領都内を巡察する兵力もないとは思うが、油断大敵だ。
少しでも早く目的を果たしてロアマに向かわなといけない。
司教領にある神殿に急いで近づき中に押し入る。
神殿にいる聖職者たちの、欲望と権力欲に歪んだ醜い顔を見れば、問答無用で殺しても大丈夫だと分かる。
もしかしたら、心の中に良心があるのかもしれないが、民を虐げる教会に入り聖職者服を着ている時点で、その良心以上の罪を犯していると断じて殺す。
両手に持った剣で、聖職者服を着ている者は問答無用で斬り殺す。
「スティール・アイアン」
「スティール・Fe」
「スティール・スィラム・アイアン」
「スティール・Fe」
できるだけ危険を冒さず、短時間で神殿内の聖職者を皆殺しにするために、盗賊王スキルを放ちながら奥深くに入り込む。
教会神殿の内部構造は、イスタリア帝国もフロスティア帝国も大きな違いはないと信じ、大司祭の教会を大きくしたものだとも考えて押し入る。
少しでも早く司教を殺すために、真直ぐ予測していた暗部に向かう。
「いや、いや、いや、キャアアアアア」
「いたい、ゆるして、唯一神様助けて」
「ギャッハハハハハ、泣け、喚け、その方が楽しいわ!」
「ころして、もうころして、おねがい」
僕が思っていた暗部、司教たち教会幹部が欲望を満たす場所に近づくと、案の定幼い子供の悲鳴が聞こえてきた。
品性下劣な男のやる事は、どいつもこいつも決まっている。
女子供のような弱い者を力で痛めつけて愉悦に浸るのだ。
僕は全速力で駆けて悲鳴の聞こえた部屋のドアを蹴破り、中の状況を確認して、可哀想な女子供を巻き込まないようにする。
盗賊王スキルだと狙いを外す心配があるので、両手の剣を振るって人間の皮を被った悪魔どもを皆殺しにする。
部屋を血で赤く染め、可哀想な女子供を悪魔の手から解放する。
助けた女子供を安全な場所に連れて行ってあげたいが、苦しめられている子がここにいる子だけとは限らない。
いや、まず間違いなく、もっと多くの女子供が他の部屋でも苦しめられている。
だから断腸の思いで子供たちを残して他の部屋を確かめて廻る。
司教の神殿も大司祭の教会と同じだった。
売春婦を連れ込んで快楽に溺れる聖職者が数多くいた。
いや、神殿内を売春宿にしているのだろう、金持ちにしか見えない平民が売春婦と同衾していた。
売春婦と金持ちは殺さずに見逃した。
殺さなければいけないほどの悪事をしていたら、僕が手を下さなくても、司教領を解放したら、蜂起した人々に殺される。
「スティール・ソルト」
「スティール・NaCl」
「スティール・クロリン」
「スティール・Cl」
神殿の中に聖堂騎士や聖堂徒士の装備を付けている者がいた。
司教領の幹部が自分たちを守るために残していた者は、それなりの武力を有していたので、盗賊王スキルで即死させた。
ただ、立ち回りが上手いのか、全く武力を感じない聖堂騎士や聖堂徒士もいた。
そんな連中も含めて、神殿内にいる全ての聖職者を殺すべく、何度も神殿内を巡り歩いた。
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