第4話:プロローグ・婚約破棄追放
「フィリップ殿下に会わせてください、いくら何でも遅すぎます!」
翌朝、昼近くになってもフィリップ殿下と合流出来ない護衛騎士たちは、自分たちを見張る聖堂騎士たちに詰め寄った。
だがそこの現れた教皇がとんでもない事を言った。
「フィリップ殿下は、ヴァレリア殿下と首都に行かれた。
新婚旅行を兼ねているので、無粋な護衛騎士隊は不要と申された。
今後の護衛は騎士隊長と教会の聖堂騎士団が勤める。
貴方たちは母国に帰られよ、これは教皇としての命令である」
教皇の余りにも理不尽は言葉に、護衛騎士隊の副隊長は猛然と抗議した。
そもそも教皇を信じてフィリップ第3皇子を預けたのに、返ってきたのは唯一神の1の使徒とは思えない恥知らずな言動だったから。
「今さら何を言っても、もうフィリップ殿下は新婚旅行に行かれた。
昨日貴方たちと別れて直ぐに早馬車で首都に向かわれたから、追いつけないぞ」
「そのような言葉は信じられない、剣にかけて城中を探させていただく」
「教皇を信じられないと言うのなら、好きにするがいい。
だが、それは唯一神に逆らう事だと分かっているのだろうな?
教会、いや、唯一神とイスタリア帝国に喧嘩を売る行為だ。
そのような事をすれば、ヴァレリア殿下と仲良く新婚旅行に行かれたフィリップ殿下は処刑され、フロスティア帝国とイスタリア帝国の戦争が始まる。
その責任を取る覚悟で城を調べると言うのだな?!」
「くっ、本当にフィリップ殿下は首都に向かわれたのですな!?」
「教皇として嘘偽りを口にしていないと誓う。
フィリップ殿下はヴァレリア殿下と首都に向かわれた。
聖堂騎士団が護衛についているが、どうしてもと言うのなら後を追われるが良い」
教皇にここまで言われてしまったら、唯一神の敬虔な信者は信じてしまう。
急いで馬の準備をした護衛騎士たちは、馬を潰さないぎりぎりの早さで追いかけたが、フィリップ第3皇子はまだ城の中にいた。
護衛騎士たちが全員いなくなるのを確かめた教皇は、これまで被っていた教皇らしさを全てかなぐり捨てて、欲にまみれた表情を浮かべた。
その表情のまま、フィリップ第3皇子と護衛騎士隊長を軟禁した部屋に向かった。
軟禁部屋は、どのような天与スキルを持っていても逃げ出せないように、教会に伝わる秘術で封鎖されていた。
ただ、隣の部屋との間に、鉄格子の入った小さな窓口が開けられていた。
そこから僅かに話をする事ができるのだが、教皇はその窓口を使って話しかけた。
「フィリップ殿下は唯一神の敬虔な信者であられる」
「教皇ともあろう者が、唯一神との誓いを破ったのか?!」
「唯一神、そのような神はこの世界にはいない。
この世界には、強弱様々な神がおられるのだ。
朕は最も強い神から祝福され、この世界を支配するのだ!」
「朕だと、世界を支配するだと、それでも聖職者か、教会の最高責任者か!?」
「ふん、教会など惰民を働かせて財貨を貢がせるための物。
質素倹約を口にする愚かなチャールズも、教会には黙って貢いでくれたわ!」
「おのれ、皇帝陛下の対して無礼であろう!」
激怒した護衛騎士隊長が、教皇を守る壁を破壊しようと剣を叩きつける。
「ふん、愚かな、剣ごときで破壊できる壁ではない。
お前ごときのスキルなど、ここでは何の役にも立たぬ」
「役に立つか立たないか、目にもの見せてくれる!」
「頭も悪い騎士の相手などしてられぬ。
まあ、お前のお陰で良い手を思いついたから、後世に名を残させてやろう。
唯一神の教えに逆らい、男同士で愛し合った罪で、お前とフィリップ殿下は教会を破門されるのだ。
ヴァレリア殿下とフィリップ殿下の婚約は破棄され、パラディーゾ魔山に追放された事になるのだ!」
「やれるものならやってみろ、部屋に入ってきた者は皆殺しにしてやる!」
「誰がそのような愚かな真似をするのだ?
朕はお前たちが餓死するまで、美味しい物を食べて待つだけだ」
「殿下を飢え死にさせるような、覚悟の足らない私ではない。
手足を斬り落として殿下に食べていただく覚悟くらいはある!」
「くっ、くっ、くっ、くっ、フィリップ殿下を人喰いの罪に落とすのもよかろう」
「なんだと、おのれ、正々堂々と勝負しろ!」
「これでお別れさせていただきますよ、フィリップ殿下」
教皇はそう言うと軟禁部屋の隣にある見張り部屋から出て行った。
壁は破壊できないと判断した護衛騎士隊長は、自分が入って来た扉を斬り付け始めたが、教会の秘術を施された扉はビクともしない。
護衛騎士隊長は、自分がどうなろうとフィリップ殿下を助けると唯一神に誓った。
教皇は唯一神などいないと言ったが、護衛騎士隊長はまだ信じていた。
唯一神に誓う事で、授かった剣士スキルが普段以上の力を持つと信じていた。
だが、教会の秘術を施した扉を破壊する事はできなかった。
「少し休んでください、その力は逃げる方法を思いついてから使ってもらいます」
「何か良い方法を思いつかれたのですか?」
「いえ、まだですが、このタイミングで私が授かったスキルは盗賊王です。
唯一神を裏切った教皇を懲らしめるために授かったとしか思えません。
盗賊王スキルを上手く使えば、必ず教皇を出し抜けるはずです」
「殿下がそう言われるのなら、何か方法が有るのでしょうね。
私には教皇の命を盗んで殺すくらいしか思いつきませんが」
教皇を喰い殺さんばかりに憎むようになった、護衛騎士隊長の言葉だった。
「命を盗むですか、流石にそれは無理でしょうが、何を盗めるのか、急いで確かめるべきですね」
フィリップ第3皇子はそう言うと、見張り部屋につながる窓口から見える物を盗めるか確かめた。
軽い物、窓口を通る大きさの物は、何でも手元に引き寄せる事ができた。
だが、見張り部屋の有る物を幾ら盗んでも逃げる役には立ちそうになかった。
1度盗むのを止めて軟禁部屋を見渡していたフィリップ殿下の目が止まった。
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