第17話:詐術
サラの弟が言ってくれた事は、物凄く魅力的だったが、無理。
鵜呑みにしたらサラに蔑まれ嫌われるのは確実だ。
弟たちの安全を確保してから助けに行く。
運が良かったのは、4頭の馬が確保できた事と上の弟が乗馬できたこと。
そのお陰で妹の方を僕の前鞍に乗せて冬家に戻る事ができた。
「お婆さん、孫2人を探してきました。
サラが心配なので夏家に向かいます、危ないと思ったら馬で逃げてください」
僕はそう言って2人の子供をお婆さんに押し付けた。
返事も聞かすに急いで上にある夏家に向かった。
4頭いた馬の内2頭をお婆さんと孫たちのために残した。
冬家に戻るまでの間、注意深く見ていたが、弟の乗馬はまずまずだった。
上の妹を前鞍に乗せても速歩くらいはさせられる。
お婆さんなら、下の妹を前鞍に乗せて速歩くらいはさせられるはずだ。
僕は両脚と左手で乗っている馬を操り、右手で予備の馬の手綱を取る。
機動力があり戦力になる馬を手元におきたかったし、冬の間に家畜が食べる草の量を考えれば、冬家の近く残す家畜はできるだけ少ない方が良い。
焦る心を押し殺して、馬を潰さないように夏家に向かう。
斜面を登るのに時間がかかってしまう。
こんな事なら自分で走った方が早いのではないかと思ってしまう。
目に魔力を流してできるだけ遠くが見られるようにする。
どれほど魔力が必要になろうと、サラが危険なら盗賊王スキルを使う。
いつでも使えるように、心を落ち着けて狙い通りに使えるようにしておく。
「追いかけて来ないで、大丈夫、必ず唯一神が助けてくれるわ!
生きて、生きていてくれさえすれば、必ず唯一神が助けてくださるわ!」
「ギャッはっはっはっ、唯一神、唯一神が助けてくれるだと?!
その唯一神のお陰で街に行けるんだ、幸せだろう?」
「きゃははははは、その通りだぜ、唯一神のおかげできれいな服が着られるぜ」
「ワッハハハハ、唯一神のおかげで、毎日何人もの男に抱かれて天国に行けるぞ!」
「ギャッはっはっはっ」
「きゃははははは」
「ワッハハハハ」
良かった、間に合った、何とかギリギリ間に合った!
サラが、命懸けで助けようとする父親を、止めている。
やっぱりサラの言葉は家族を守るための演技だったのだ。
今このような時でも、笑顔を浮かべて両親を助けようとしている。
それを嘲笑う、腐れ外道の醜悪な顔とは比較できない、比較などしたら罪悪だ。
あんな顔は今直ぐ剥ぎ取ってやりたいが、狙いを外すのが怖い。
サラを守りたい思いが強くなるほど、盗賊王スキルの誤射が怖くなる。
狙いと威力が自動制御で決まっているなら良いが、使う人間の精神状態と魔力量で変わってしまうのなら、この怒りで暴走してしまうかもしれない。
僕が近づく事で、腐れ外どもがサラを人質にするのは怖いが、たぶん大丈夫だ。
連中の欲深さは、僕の常識をはるかに超えている。
冬家の弟妹、夏家のサラに加えて、山羊まで奪っている。
まず間違いなく、僕の乗っている馬も奪おうとするはずだ。
この放牧地にいる他の家に子供や家畜を奪おうとしないのは、他の家が教会に付届けをしていたからだろう。
サラやご両親は清廉潔白だから、そういう処世術が思い浮かばなかったのだ。
だから、見せしめも兼ねて、ここまで徹底的に嫌がらせをされているのだ。
僕の想像でしかないが、間違いないはずだ。
だとしたら、他の家の連中から情報を得ているはずだ。
得ていたからこそ、期限を無視してやってきたのだ。
サラの家で看病されている、俺の金銀財宝も奪う気だったのだ。
ここに来させられる連中だ、教会の中では使いっ走りの下っ端だろう。
僕の金銀財宝を持って帰れないと、上の連中に怒られるに違いない。
僕がちょうど良いタイミングで戻ってきたら、必ず金銀財宝を奪おうとする。
僕を逃がすのを恐れて、友好的なフリをするはずだ。
普通なら盗賊王スキルを確実に発動できる距離まで近づけるはずだが、問題はサラが清く正し過ぎる事だ。
僕を巻き込まないように、どれほど脅されても大声で『逃げて』と叫ぶはず。
そんな事になったら、サラが危険だ。
金になるサラを殺さないとは思うが、逆上した馬鹿は何をするか分からない。
「お~い、サラ、教会との話し合いが終わったぞ!
大金貨100枚と利息を払って借金はチャラになった!
聖職者のみなさん、ここに借用書がありますから、確かめてください!」
嘘も方便、サラを無傷で助ける為なら、どんな嘘だって口にする。
ヘルメースにスキルをもらったのなら、正義や清廉潔白を捨てても許される。
ヘルメースは策略を司る神であり、狡知を駆使して詐術と計略で敵を騙して勝利を手にする神なのだから。
「なんだと、嘘をついているんじゃないだろうな?!」
「そうだ、2日前までそんな事は言っていなかったぞ!」
「嘘だったらただじゃおかないぞ、分かっているのか?!」
よし、問答無用でサラを人質に取らなかった、最初の勝負は勝ちだ。
「嘘など言っていないぞ、確かに借金の清算はすんだ。
ここに返してもらった借用書があるから、確かめてくたら分かる。
元金の大金貨100枚に、利息の大金貨100枚を渡したら喜んで返してくれた」
さて、非常識に多めの利息を言ったから、これだけ払ったら強欲な聖職者でも借用書を返すと思ってくれるはずだ。
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