帝国の第3皇子として同盟国に婿入りするはずだったのに、天与スキルが盗賊王だったので、婚約破棄追放暗殺されてしまいました。

克全

第1話:プロローグ・天与スキル

 フロスティア帝国に臣従している王侯貴族が天与の間に集まっている。

 いや、同盟関係にあるイスタリア帝国はもちろん、国境で争っている国からも大使が参列していた。


 今日唯一神からスキルを授かる第3皇子のフィリップが、緊張も露な表情で天与の間に入って来た


 顔が真っ青なのも、天、神から与えられるスキルで運命が決まるのだから当然だ。

 とはいえ、よほど悪いスキルでなければ、第3皇子という地位は揺るがない。


 フィリップ第3皇子の婚約者、イスタリア帝国第1皇孫女ヴァレリアもいる。

 わざわざ婚約者の天与儀式に合わせてやって来ていた。


 その表情は婚約者の運命を心配しているのか、仮面のように硬く強張っている。

 緊張を和らげるためなのか、帝室の女性にしては珍しい、ゆったりとした衣装だ。


 当代のフロスティア帝国皇帝は武闘派で、経済的に苦しい財政を立て直そうとして、無駄なお金は絶対使わないだけでなく、帝室の財宝も売り払う人だ。


 そんな英断を下せる8代皇帝チャールズでも、唯一神からスキルを賜る天与の間だけは質素倹約を実行できなかった。

 金銀宝石で煌びやかに飾られた天与の間は、神の降臨に相応しい場所にしてある。


 イスタリア帝国に本拠地を持つ、唯一神を奉じる教会の教皇が、教会関係者専用の上座にある扉から入場してきた。


 2大帝国の婚姻に係わる天与儀式の為、わざわざ他国にまでやって来ていた。

 色々と悪い噂もあるが、教会の最高権力者なのは間違いない。


 イスタリア帝国に婿入りするフィリップ第3皇子のためなら、質素倹約を第1にしているチャールズ皇帝でも出費を惜しまない。

 教皇をフロスティア帝国に呼ぶのにどれだけ莫大な謝礼が必要だったが……


 天与の間の上座、2段高くなった壇上が唯一神の降臨される場所になっている。

 その1段下、列席する者たちよりも1段高くなったところが、皇帝と教皇が立つ場所になっている。


 天与の儀式を受けるフィリップ第3皇子が今日の主役だから、入場扉から真直ぐに壇上の前まで進む。


「フロスティア帝国第3皇子フィリップ、貴男は唯一神に忠誠を誓いますか?」


「私、フロスティア帝国第3皇子フィリップは、帝室とフロスティア帝国を守ってくださる唯一神に忠誠を誓います」


 フィリップ第3皇子が唯一神に忠誠を誓った途端、神の上座が眩く光り輝いた。

 これまでの天与の儀式では起こった事のない前代未聞の出来事だった。

 兄2人の儀式では、フロスティア帝国の教会枢機卿に啓示が下されただけだった。


「何という事だ、これではどうしようもないではないか!」


 教皇が真っ青な顔をしてガタガタと震え出した。

 唯一神に1番近い使徒であるはずの教皇が驚き慌てるほどの出来事に、天与の間に集まった王侯貴族はパニックを起こしかねないほど驚いていた。


「教皇猊下、スキルは、天与のスキルは何なの?!」


 婚約者であるフィリップ第3皇子を心配したのか、イスタリア帝国第1皇孫女のヴァレリアが、教皇に天与スキルを知らせるように言い放つ。


 自分の狼狽を恥じたのか、教皇が慌ててスキルを伝えようとするが、その必要はなかった。


 何故なら、神の上座の光が1つのスキルを文字にしていた。

『盗賊王』と誰にも分かるくらい光り輝いていた。


「盗賊王ですって、イスタリア帝室に婿入りしようとするフロスティア帝室の第3皇子が、身分卑しい者が授かるような盗賊のスキルですって?!

 どれほど神に見捨てられる悪行を重ねられたのですか!

 このようなスキルを与えられる人をイスタリア帝室には迎えられません。

 婚約を解消します、いえ、破棄です、解消では唯一神に申し訳ありません。

 唯一神に忠誠を誓う者として、わざわざ光でお告げをされた御心を推し量らせさせて頂き、フィリップ第3皇子との婚約を破棄します!」


 ヴァレリア第1皇太孫女は、まるで何度も練習していたかのように、見事は早口と身振り手振りで、その場に集まっている王侯貴族に訴えかけた。


 そのあまりの迫力が、前代未聞の神からの啓示が、慶兆ではなく凶兆だと思わせる事に成功してしまった。


 フィリップ第3皇子は、信じられないようなスキルを天与されて茫然自失となっていたところに、婚約者から裏切りの言葉を投げかけられて固まってしまっていた。


 ここで『盗賊でも王、他国を併合するから盗賊王なのだ』くらい言えていれば、その後の運命は全く違っていたのだが、この時にフィリップ第3皇子には無理だった。


 固まったままのフィリップ第3皇子の立場は、帝室の一員から転がり落ちてしまいかけていたが、チャールズ皇帝が息子を救おうと動いた。


「ほう、これはありがたい、唯一神から授かったスキルは朕よりも上だな」


「チャールズ皇帝陛下、何を申されているのですか、盗賊ですよ、事もあろうに盗賊のスキルを与えられたのですよ?!」


 何としても婚約者のフィリップ第3皇子を貶めたいのか、ヴァレリア第1皇太孫女が身分差を顧みず噛みついた。


「朕が唯一神から授かったスキルは騎士に過ぎなかった。

 ウィリアムが剣士、アンジェリが弓士、ジョージが槍士だ。

 それに比べれば、王を授かったのは素晴らしい事だ。

 それが気に喰わなくて婚約を破棄すると言うのなら結構、好きになされよ」


 同盟関係にあったフロスティア帝国とイスタリア帝国が、天与の儀式を発端に戦争を始めかねない状況となった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る