第2話:プロローグ・親子の会話

 フィリップ第3皇子の天与儀式を発端にした、フロスティア帝国とイスタリア帝国の諍いは、直ぐに開戦とはならなかった。


 フィリップ第3皇子の天与スキルが普通ではないのは確かだが、チャールズ皇帝が言うように、王の単語が入っている事は悪い事ばかりではない。


 だが、イスタリア帝国の帝室と貴族が受け入れ難いのも確かだった。

 イスタリア帝室にフロスティア帝室の血が入る事を嫌う貴族も多いのだ。

 皇位継承争いも絡んでいるから、帝室内外の権力争いも激烈なのだ。


 フィリップ第3皇子との婚約を一方的に破棄すると言いだした、ヴァレリア第1皇孫は、アルバート皇太子の唯一の子供だ。


 イスタリア帝国の第2皇子や第3皇子に男子は生まれているが、皇太子の娘がフロスティア帝国の第3王子と結婚するのなら、皇位継承の後ろ盾になるはずだった。

 

 女帝の座を望むのなら、何があってもフィリップ第3皇子との結婚を望むはずなのに、形振り構わず婚約破棄しようとした。


 まるで自分は女帝の地位など望まず、従弟に皇帝の地位を譲ってでも、イスタリア帝室にフロスティア帝室の血を入れたくないように。


 この言動は、イスタリア帝国の反フロスティア帝国貴族には賞賛されていた。

 逆にフロスティア帝国の反イスタリア帝国貴族を激怒させ、開戦の切っ掛けにすべきという言葉が飛び交っていた。


 この事態に動いたのがフロスティア帝国の皇妃カミラだった。

 即位の年に愛妻を失ったチャールズ皇帝は、2大帝国間の争いを無くし、軍事費を削減する目的で、イスタリア帝国第2皇女カミラを皇妃に迎えていた。


 カミラ皇妃の奔走を、フロスティア帝国の反イスタリア帝国貴族は、自分が生んだ第4第5皇子に帝位を継がせるためだと冷ややかに見ていた。


 一方イスタリア帝国の反フロスティア帝国貴族は、自分が生んだ第4第5皇子に帝位を継がせるため、母国を売ろうとしていると激怒していた。


 誰が何をしても2大帝国の開戦は不可避だと思われたが、当事者であるフィリップ第3皇子が動いた。


「皇帝陛下、私の事で戦争を引き起こす訳にはいきません。

 このままでは陛下が努力されてきた財政再建が無駄になってしまいます。

 どうか思い止まってください!」


「よくぞ言ってくれた、フィリップの帝国に対する忠誠には心打たれる。

 だが、帝国を維持するには、財政だけでは駄目なのだ。

 臣民の忠誠心がなければ、帝国など簡単に瓦解してしまう。

 財政的にどれほど苦しくても、フィリップを貶めたイスタリア帝室を許す訳にはいかないのだ」


「しかしそれでは、イスタリア帝室の血を受け継ぐキャサリン、アーチー、ヘンリーの立場が悪くなってしまいます」


「異母妹弟の事を心から案じるフィリップの優しさは素晴らしい。

 だが、帝室の人間としては、その優しさは悪だ。

 必要なら、異母妹弟も殺すのが、帝室に生まれた者の宿命だ」


「陛下、それは幾ら何でも非情過ぎます」


「もっと真実に目を向けろ!

 カミラがお前たちを殺そうと動いているのを知らないとは言わせんぞ!

 アーチーに帝位を継がそうと、ウィリアムとジョージの命を狙い、お前をイスタリアに追いやろうとしていることくらい、分かっておろう!?」


「分かっております、分かっていますが、私はそれでもヴァレリアを愛しているのです、唯一神に婚約を誓った以上、死ぬまで愛さなければなりません!」


「唯一神への誓いを守ろうとする気持ちは、余にも分かる。

 分かるからこそ、カミラを殺さずに謀略を防ぐだけにしているのだ。

 ……分かった、唯一神への誓いと言われたら、これ以上は言えぬ」


「陛下、ありがとうございます」


「だが、カミラを始めとしたイスタリア帝室は、唯一神への誓いを軽く見ている。

 ウィリアムとジョージの命を狙っているのが良い証拠だ。

 フィリップもヴァレリアに婚約破棄を言い立てられて分かっているのだろう?」


「分かっていますが、それはヴァレリアの勝手な言動でしかありません。

 それに、唯一神への誓いと比べれば、ヴァレリアが何を言おうと大したことではありません。

 私は唯一神への誓い通り、ヴァレリアを愛し続けるだけです」


「婚約破棄が無効となり、結婚する事になれば、常に暗殺の危険があるぞ?

 寝所で何時寝首を掻かれるか分からないのだぞ?」


「そのような事、帝国の財政再建のために、陛下御自身が受け入れられた事ではありませんか。

 暗殺されないように万全を期しながら、カミラ皇妃に所に通われたのでしょう?

 不肖の息子とは言え、陛下の血を受け継ぐ私にもできると思っております」


「よし、分かった、フィリップの覚悟を受け取ろう。

 出来る限り穏便に済ます努力はする。

 だが、フロスティア帝国の名誉を損なう事はできない。

 最低限の賠償を支払わない限り、ヴァレリアの勝手な言動は許されない。

 イスタリア帝国の態度によったら、戦争は避けられない。

 そして戦争になれば、カミラ、キャサリン、アーチー、ヘンリーは殺す」


「陛下!」


「よく覚えておけ、自分の妻子であろうと、背後で謀叛を起こしかねない者は、情け容赦を与えず殺さねばならぬのだ!」


『2大帝国の省略家族関係』


「フロスティア帝国」神歴1603年建国・帝歴元年

チャールズ:皇帝・1684年誕生1697年子爵1705年大公1716年皇帝即位

ダイアナ :大公時代の妃・1688年誕生1716年死去

カミラ  :皇妃・1685年誕生・イスタリア帝国皇女・1717年に嫁いでくる

 ウィリアム:第1皇子・1710年誕生・ダイアナの子供・天与スキルは剣士

 アンジェリ:第1皇女・1712年誕生・ダイアナの子供・天与スキルは弓士

 ジョージ :第2皇子・1714年誕生・ダイアナの子供・天与スキルは槍士

 フィリップ:第3皇子・1716年誕生・ダイアナの子供・天与スキルは盗賊王

 キャサリン:第2皇女・1719年誕生・カミラの子供

 アーチー :第4皇子・1721年誕生・カミラの子供

 ヘンリー :第5皇子・1723年誕生・カミラの子供


「イスタリア帝国」神歴1587年建国・帝歴元年

ジョルジョ:皇帝・1659年誕生・1712年皇帝即位

フランチェスカ:皇妃・1660年誕生


 アルバート:第1皇子・1681年誕生・皇太子

 カテリーナ:皇太子妃・1683年誕生・

  ヴァレリア:第1皇孫・1714誕生・

 アンジェリ:第1皇女・1683年誕生

 カミラ  :第2皇女・1685年誕生

 ファウスト:第2皇子・1687年誕生

  アレックス:第1大公子・1711年誕生

 ダンテ  :第3皇子・1689年誕生

 ルチア  :第3皇女・1691年誕生

 レオン  :第4皇子・1693年誕生

 ロベルト :第5皇子・1695年誕生

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る