第10話:金策
「ユウジ様、もっとチーズを食べられますか?」
「ユウジ様、ミルクシチューをもう1杯いかがですか?」
「お父さんとお母さん、止めてよ、恥かしいわよ」
僕が渡した大銀貨を見たサラのお父さんとお母さんは、物凄く歓迎してくれたが、サラは恥ずかしいと言って怒っていた。
サラの気持ちも分かるし、ご両親の気持ちも分かる。
ご両親は、大切な娘を借金の形に奪われたくないのだろう。
連れて行かれた後でどんな目にあわされるか、口にしなくても分かる。
僕は遠慮せずに食べられるだけ食べた、大食い選手かと思うくらい食べた。
その方がサラの両親もお金をもらい易いだろうと思ったし、回復にも必要だ。
カロリーは盗賊王スキルで無限に手に入れられるが、必須アミノ酸と非必須アミノ酸は食事で補わないとどうにもならない。
筋肉を作るのはもちろんケガを治すにも、元になる材料が必要だ。
全部の元素記号を覚えていれば盗めるだろうが、覚えているわけがない。
身体の成長に必要な材料を食べる事ができたから、魔力を身体の流して、西洋医学的な知識を使って色々試した。
結果、身体を大きく強く成長させる事も簡単だった。
「これは食事の前金です」
俺はそう言って大金貨を1枚渡した。
普通の農家なら、1年分の収入に匹敵する金額だ。
「山羊が出すミルクが足らないなら、村や街で買ってください。
ちゃんと手間賃や日当を取ってください。
それと、必要なら私も一緒に行かせてもらいます」
「谷の村に下りたら、私の両親と幼い子供たちがいます。
サラを街にいかせるのも心配ですが、幼い子供たちも心配なのです。
とはいえ、山羊を放って街に行く事もできません。
年は取っていますが、父と母に案内させます。
父と母の方が、街に伝手もあると思います」
サラの父親がそう言うので、僕は山を下りた谷にある冬家に向かった。
冬家までの道案内と祖父母への説明はサラがしてくれた。
僕は祖父母に挨拶してから、盗賊王スキルで造り出した水晶と石英、アルミニウムを見せて、買い取ってくれる伝手がないかたずねた。
「ほう、これは見事な、これほど透明で大きな水晶は初めて見ました。
奇麗な色のついている水晶を高い値段で買ってくれる人を知っています」
「ではその人のいる街に連れて行ってください。
それとサラが説明したように、教会にも領主に知られないように、フロスティア帝国に手紙を届けられる人を紹介してください」
「どちらも同じ人がやってくれます。
トレノまで行かないといけないので日にちがかかりますが、大丈夫ですか?」
「それは大丈夫なのですが、私を襲った盗賊に顔を見られると危険なのです。
何か顔を隠す方法はないですか?」
「そのような方法はありません、大きな帽子を深くかぶってもらうくらいです」
「だったら独自に変装しますから、顔が変わっても驚かないでください」
「これでも長く生きていますから、多くの天与スキルを見ています。
全く別人に顔を変える人も見ていますから、驚きませんよ」
そう言ってくれたので、安心して顔を変えることができた。
身体の中で脂肪を作って顔にだけ集めたり、皮膚を厚くしたり、シミや痣を作る事で全く別の顔にできた。
この力が盗賊王スキルの1分なのか、それとも、前世の知識と魔力を上手く操ったから出来るようになったモノなのか、僕には分からない。
どちらでも良いと割り切る事もできるが、時間がある時に確かめておけば、盗賊王スキルをもっと有効に使える。
教会とイスタリア帝国の両方を同時に敵に回すなら、自分の力は出来るだけ正確に知っておくべきだ。
サラは、僕を冬家に案内して祖父母に事情を説明すると、直ぐに高い場所にある夏家に戻って行った。
幼い弟妹が一緒に行きたいと泣いていたが、流石にあの斜面を登るのは無理だ。
もう少し大きくならないと、途中で誰かが抱かなくてはいけなくなる。
それに、幼い弟妹がいたら、両親が牧畜に専念できなくなる。
この村のやり方だと、元気に働ける2世代がいないと、山と谷の2拠点生活はできないのだな。
看病してもらったお礼に家畜を渡すとしたら何が良いのか?
どのような飼い方をしたら家畜を殖やせるのか、サラの祖父に聞きながらトレノ街に向かったが、途中の街道や村では僕を探している雰囲気が全く無かった。
聖堂騎士たちは、教皇とヴァレリアにどんな報告をしたのだろう?
僕が彼らの立場なら、本人の遺体がないのに、殺したと報告されても信用しない。
金をもらって逃がす可能性を考える、などと考えていたらトレノについていた。
「ここが昔馴染みの錬金術師が住む場所だ。
偏屈な奴だが、人を騙すような事はないし、錬金術師の繋がりでフロスティア帝国に手紙も届けられる」
サラの祖父が錬金術師と知り合いだとは思ってもいなかった!
錬金術師ならアルミニウムに興味があるはずだ。
もしかしたら、石英や水晶だけでなく、アルミニウムも金にできるか?
「なんだと、教会の腐れ外道に騙されただと?!
許さん、絶対に許さん、サラは子供のいない我にとっては孫も同然。
我が教会に行って直談判してくれる!」
「ありがとう、そう言ってくれて本当にうれしいよ。
だが、家のサラのためにお前の立場を悪くするわけにもいかない。
幸い、命の恩を返すと言ってくれる人がこうして現れた。
この人の持っている水晶を金に換えてくれれば、穏便に済ませられる」
「くっ、我の力がもう少し強ければ、教会の下っ端などこの手で殺せたのに。
この手で殺せなくても、もう少し時間があれば、腐り切った教会とイスタリア帝室がフロスティア帝国に滅ぼされるかもしれないのに!」
「すみません、その話をもう少し詳しく教えてください」
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