第20話 全部夢なんだ


 俺は魔王城の中にある自分の寝室へ移動し、ベッドにレイナックを寝かせた。


 人間の住居と違い、魔王城はどこもかしこも薄暗い。

 ベッドも堅くて寝心地もよくないんだよな。


 しかし、もう少しだけ辛抱してくれ。

 今は体を休ませて、それから俺が……君の城へ送り届けるから。


 レイナックの頬にある涙のあとを、指で撫でた。

 するとくすぐったかったのか、彼女が薄っすらと目を開けた。


「ここは……どこ? あなたは、いったい……」


 まだ意識がはっきりしていない、夢見心地といった様子だ。


「何もなかった。これは全部夢なんだ。そして目が覚めたとき、いつもの日常が待っている」


 俺はレイナックの顔に手のひらを向けると、魔力を発して眠り着かせた。


 そうさ。

 彼女が目覚めたときには、すべてが終わっている。


 だから、もう少しだけ待っていてくれ。


「ぼっちゃま。連中の手当てが終わりました」


 ヴァディーゲが部屋の中へ入ってきて、報告してきた。


 魔獣というのは人間たちと違い、ノックするという習慣がない。

 人間の姿で暮らしてみて、そういった部分が魔族はがさつすぎるなと思った。

 もっとも、そんなことを気にしているのは魔族の中でも、俺くらいのものだろうけど。


「そうか。少々、グレインに用があるのを思い出した。俺はしばらくここを空けるから、ヴァディーゲは俺が留守の間、この人間の女を死ぬ気で守れ」

「ぼっちゃまの命令なら何でもやりますが、なぜ人間の女などを守ってやるのです?」

「今は……何も聞かないでくれ。頼む!」


 俺が頭を下げたのを見て、ヴァディーゲが慌てている。


「ぼ……ぼぼぼ、ぼっちゃま! 魔王様ともあろうお方が私などに頭を下げてはなりません! 失礼しました! 魔王様のご命令に理由を聞くなど、なんたる愚行! お任せください。この女には何人たりとも触れさせはしません」

「ありがとう、ヴァディーゲ」


 人間の女に惚れているなんて、さすがに言えない。そのうち上手い言い訳を考えないとな。


 俺はレイナックの眠る部屋にヴァディーゲを残して部屋を出ていった。


 まだやることが残っている。

 まずはグレイン、ヤツに協力してもらおうか。


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