第33話 根回しのドラン


 ドランは森の中の、とある洞窟を訪ねていた。


 洞窟の入り口にいた魔族に声をかけ、中へと案内させる。

 洞窟の中は魔族の若い衆が酒をあおって騒ぎまくっていた。


「よう、ドランじゃねえか。待っていたぜ」


 魔王サイズの椅子に座っている大柄な魔族の男が、両隣にいる女魔族の肩を抱き寄せながら言った。

 この男は洞窟内の若い魔族たちを仕切っている者だ。


「がははは、カゼマルよ。相変わらず元気そうで何よりだ」


 ドランがそう言うと、ドカッとカゼマルの正面に座り込んだ。


「まったく、親父も情けねぇ。ダルゴスの軍門なんぞに下りやがって。だがC級程度じゃ、ここいらが限界か」

「しかし魔界でも名のあるあんたが、まさかあのグレインの息子だったとはな」


 カゼマルといえばここ最近、破竹の勢いで名を挙げている魔族だった。

 まだまだ新米ということもあり、せいぜい若い魔族と洞窟でたむろしている程度の組織力しか持っていない。

 しかし個人の強さで言えばS級とのうわさもあるほどの実力者だった。


 そのことを知ったドランは、すかさずカゼマルを探し当ててコンタクトを取り、共闘の話を持ち掛けたのである。


「まあいいさ。ダルゴス一族の魔王、確かタロウとか言ったか。そいつをぶっ殺して、俺たちが天下を取ってやろうぜ」

「そのとおりだ、カゼマルよ。そのための準備も着々と進んでいる。さっきシャインから連絡があったんだ。勇者ファルコと魔王タロウの決闘は明日に決行とのことだぜ」


 ドランが一枚の紙きれをカゼマルに渡す。

 その紙には勇者と魔王の決闘が行われる場所と日時が記されていた。

 決闘はどうやら、以前の魔王ダルゴス・ナパムデスと人間たちの戦によって破壊された城跡らしい。


 紙に記された内容を一通り確認してから、カゼマルが立ち上がった。

 そして洞窟内にいる若い魔族たちに向かって叫ぶ。


「野郎ども! 勇者と魔王をともに葬るのは、俺たち魔族連合だ! 戦の準備にかかれ!」


 カゼマルの号令に、その場の魔族たちが雄叫びをあげた。


「ほんじゃあ、俺はこの辺で。決行の日に向けて、よろしくたのんだぜ」

「なんだ、ドラン。もう行っちまうのか。少しゆっくりしていけよ」

「俺も色々と忙しい身でな。この戦いのあとにでも、勇者ファルコと魔王タロウの血で誓いの盃といきましょうや」


 ドランはそう言って立ち上がり、その場から去った。


 グレインのやつ。

 せっかく俺が色々とお膳立てをしてやったのに、しくじりやがって。

 あまつさえタロウに忠誠を誓い、俺のこともチクりやがったらしい。


 だが、息子がかの有名なカゼマルだったとはな。

 グレインの話をネタに接触し、上手くてなづけることができてよかった。


 グレインごときC級の三下を倒したくらいでいい気になるなよ、タロウ・ナパムデス。


 今度こそ上手くタロウを始末できるという喜びに、ドランはほくそ笑んだ。


 タロウさえ始末できれば、根回しによって組織の半数を懐柔しているドランがダルゴス一族の実権を握ることになるだろう。

 その後はカゼマルの強さをうまく利用し、さらに組織を大きくしていく。

 なにせカゼマルは魔族の若い衆に人気があるからな。


 そのためにも、まずは目の前の計画だ。

 勇者ファルコと魔王タロウを戦わせることも、ほぼ成功が見えている。

 そして両者の戦いによって消耗した二人に、疾風騎士シャインとS級クラスのカゼマルをぶつける。


 二段構えの完璧な作戦だ。これで生き残れたら化け物だぜ。


「さあて、俺様は高みの見物といきますか」


 夜の森に、ドランの高笑いが響き渡った。


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