第34話 さらわれた姫


 翌日の朝、いつものように兵士として姫の小屋を訪ねたが、レイナックの姿はなかった。


 入口には夜の護衛当番のおっさんどもが倒れていた。

 普段なら酔いつぶれているだけだが、このときばかりはそうじゃない。

 当て身か何かで気絶させられているようだった。


 部屋の中を探し回ると、棚の上に置かれた鏡に魔族の文字が映し出されているのを発見した。


『レイナック姫は預かった。返してほしくば、タロウ一人で来い』


 魔族の文字なので博識でもない限り、人間には読めないだろう。

 にもかかわらず、魔族の文字で俺を名指ししている。


 レイナックをさらったのは魔族であり、かつ俺が魔王であることや人間として彼女の護衛をしているのを知っている者ということだ。

 知っているのは組織の中でも限られた者だけだが、もしかしたら俺の身辺を調べて回った者がいるのかもしれない。


 しかし、それにしては不自然な点がある。

 部屋の中を見る限り、かなり静かに連れ去ったようだ。


 おそらくかなりの手練れが忍び込み、瞬時にレイナックを気絶させたのだろう。

 その何者かがもしも魔族であったなら、勇者ファルコが気づかないとは思えない。


 もしや、連れ去ったのは人間なのか?


 だが、謎解きは優先すべきことじゃない。

 連れ去られたレイナックを助けに行かなければ。


 鏡に映し出された文字を読み返す。


 場所は廃墟となった城跡、俺一人で来ること。

 魔王としての俺を指名してくるということは、狙いは俺か。


 鏡に書かれた文字の最後に、『ここをタップ』とあった。


 これは別の情報を添付する場合に使われるものだ。

 鏡に書かれた文字を指で押すと、先ほどまで書かれていた文字がスーッと消えた。

 そして、城跡の一室らしき場所で横たわるレイナックの姿が映し出された。


 さらって捕らえた証拠をわざわざこちらに見せてきた。

 つまりハッタリじゃないというメッセージだ。


 レイナックを守りたくて、側にいたくて兵士になったのに、巻き込んでしまうとは。


 ポケットに入れていたストレイキャットの人形を取り出して、見つめる。

 見ているとレイナックの笑顔が思い浮かぶ。

 俺は小屋を飛び出して、廃墟の城跡へと走り出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る