第32話 シャインの結論
タロウがレイナックと町へ出かけるという情報を得て、シャインは彼を付け回していた。
気配を絶つ術はシャインの得意技だ。
たとえ相手が勇者ファルコだろうが魔王だろうが、気付かれない自信があった。
尾行において、シャインの右に出る者はそうそういないだろう。
しばらく観察してみたものの、タロウが魔族だとは思えずにいた。
しかし、ひと騒動あったおかげで、タロウの真の姿の一端を垣間見れた。
あの気配は間違いなく魔族のもの。
ドランの言葉も、あながちガセではなかったようだ。
しかしタロウの正体が魔王だったとして、何のためにレイナックの護衛をやっているのだろう。
人間の姿に化けてまでこの国に潜入し、魔王はいったい何を企んでいる。
いや、何を企もうと関係ない。
これは魔王を倒すチャンスじゃないか。
もっとも、それは本来、シャインではなく勇者ファルコの役目だ。
神剣バルマルクがシャインではなくファルコを選んだのだから。
そのことに仕方ないと思いつつも、完全に納得してはいない。
だから、魔王とはファルコ一人に戦ってもらう。
お手並み拝見というわけだ。
剣に選んでもらえず拗ねているだけと言われればそうなのだが、シャインにとっては大事なことだった。
納得いかないまま、勇者パーティーの一員としてファルコと組み続けるのはおもしろくない。
だから剣に選ばれた勇者だというのなら、以前の魔王との戦いのようにパーティーの力を借りるのではなく、あくまでファルコ自身の力を示してもらおう。
それに今日のタロウの動きを見る限り、勇者に倒せないようなレベルではないと見た。
それでも、万一ファルコが負けそうになったのなら。
「そのときは私がファルコに代わって魔王を倒す。そしてファルコを笑ってやるのだ。それでも神剣に選ばれた勇者かってね」
剣の選手権のいざこざは、これでチャラ。
なにより、今まで心のどこかで抱えていたモヤモヤも解消されて、スッキリできる。
さて、あとは魔王タロウと勇者ファルコをどうやって決闘場におびき出して戦わせるかだけど。
ドランの話によると、魔王はレイナックがさらわれたとき、必死に彼女を探しだして守ったらしい。
どんな理由があるかは知らないが、もしかしたらレイナックの不思議な力と関係があるのかもしれない。
レイナックには魔獣や魔族の闘争心を和らげる、癒しの光と呼ばれる隠された能力があると聞いた。
最初にその能力を発現したのは、幼少の頃に城を抜け出して森で迷ったときらしい。
不確かな情報ゆえに王や王妃にも報告されていない、シュガーから直接聞いただけのウワサ程度の話だ。
もっとも、王はレイナックに興味を示さないし、王妃に至っては煙たがっている。
そんな二人に「姫は不思議な力を持っているかもしれない」なんて報告したところで、鬱陶しがられるだけだろうけど。
さておき、魔王がレイナックの能力を狙っているのか、それともまだ誰も知らない企みがあるのか。
どちらにしても、レイナックを魔王が守ろうとしている。
この事実は利用できる。
ここで問題になるのは、レイナックを人質にとるという行為についてだ。
彼女には死んでほしくない気持ちはあるし、危険にさらしていいものかという倫理的な問題もある。
このようなときシャインは決まって脳内で自問自答し、自分にとっての優先順位を整理したうえで物事を決めてきた。
シャインにとっての今回の議題は、魔王と勇者を戦わせて自分の中のモヤモヤを解消すること。
なので、魔王と勇者を戦わせるのが最優先事項だ。
そのためには魔王にレイナックという餌を、勇者には魔王という餌を与える必要がある。
しかし、レイナックが危険な目に合うのは出来れば避けたい。
人の道から外れるのも、まあよくはないと思う。
なら、レイナックを人質にしたように見せかけて、どこかに隠れてもらうか。
誘拐したフリして、手紙だけでおびき出す。
いや、仮にも魔王が手紙だけで内容を信用し、騙されてくれるとも思えない。
「どうしようかなぁ」
シャインは様々な優先事項を洗い出し、妥協するものと必須事項を振り分けながら最終的な結論を出した。
やはりレイナックをさらって人質にし、魔王タロウをおびき出そう。
事がすめばレイナックはなるべく無事に帰すつもりだが、万一怪我したり死亡した場合は仕方ない。
そこは妥協点だ。
勇者ファルコが負けて死んでしまった場合も同様。
人道的に外れてるけど、バレなきゃいいでしょうの精神だ。
そもそも人間の真の姿なんて、そんなものだろう。
もう一つの不安要素としてドランが別の罠を張っている可能性だが、そのときは罠ごとぶっ潰せばいい。
「よし! これだね」
自分がおもしろいと思ったことが最優先、その実現のためならあらゆることには目をつぶることができる。
それがシャインの根幹にある考え方だった。
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