第26話 勝機は我にあり!
駄目だあの第二王女、早くなんとかしないと。
このままではデートどころではない。
ヘタをすると、レイナックに会うことすら難しくなるぞ。
俺は魔王城に戻ると、リーリエを呼びつけた。
「ルドレンオブ国の第二王女ミミについて、早急に調べろ」
「えっと……。調べるって、何をですか?」
「そうだな。その女の弱みとかだな」
人間というのは、だいたい心のどこかに隙間がある。
その隙間を埋めるため、他人には言えない秘密を隠し持つものだ。
魔族なら開き直ったり、むしろ悪事をさらけ出して自慢げにする輩が多いが、人間ならば付け入る隙は必ずある。
「人間のミミさん、ですか。その人、たぶんうちの末端組織の常連さんですよ」
ん?
どういうこと?
「常連と言ったか? なんだその、常連というのは。詳しく話せ」
「え? は、はいですぅ! えっと、その人はですねぇ……」
リーリエがたどたどしくも説明を始めた。
全ての説明を聞き終えて、俺は密かにほくそえむ。
勝機は我にあり!
* * *
三日後、満月の夜。
俺はとある森の奥にある古代遺跡にいた。
その遺跡は俺たちダルゴス一族に属する末端組織が、何かしらの取引の際に待ち合わせとして使っている場所だった。
悪そうな顔の魔族たちがうろうろしているが、その場にいる全員の表情がどこか堅い。
「どうしたんだ、同胞諸君。今日の相手は、それほど一筋縄ではいかない者なのか」
少々魔王らしい言葉遣いを心掛けて、みなに問いかけてみる。
「それもあるんですが……。今日は魔王様がいらしているので、みんな緊張しているのでございます!」
ここの末端組織の長が、背筋を伸ばす。
「タロウ様、例の女が来ました」
一人の魔族が報告に来た。
その一報を合図に、俺は遺跡の柱の陰へと身を隠した。
まずは様子見、といったところだ。
やがて、数十もの人間どもがやってきた。
先頭にいるのは間違いなく、姫の小屋で俺を脅してきた第二王女だ。
その後ろを体格のいい男たちが、まるで行進でもしているような一糸乱れぬ動きで第二王女についてくる。
「よう、だんな! 待たせちまったか?」
「よく来たな、王女ミミ」
ミミと組織の長が握手を交わす。
リーリエの言っていたとおり、俺の組織とミミは以前から良好な関係を築いていたらしい。
それにしてもベスケットとグレインの間柄といい、人間と魔族は意外と裏で仲良くやっているのだな。
もっとも、悪だくみするやつに限っての話だが。
ともあれ人間の市民とも健全な取引をするようになれば、世界は平和になるのかもしれん。それはレイナックが一番望んだ世界だろう。
「早速だが、今月の上納金と土産を持ってきたぜ」
「うむ。こちらも、いつものブツを用意した」
何かが詰まった袋を、長がミミへ手渡す。
そしてミミの後ろにいた男たちが、布をかぶせた荷車を引いてきた。
確かリーリエの話によると、人間界の金品や物品と魔族の所有する魔力石のトレードが、取引の内容だと言っていたな。
魔力石は魔族の魔力を吸収するという鉱石を、特殊な製法により凝縮することで完成する宝石だ。
この宝石を体内に埋め込むことで、どのような人間でも魔族と同等の魔力を持つことができるようになる。
人間の世界では一部の者にしか所持が認められていない代物だ。
しかしミミとその部下らしき男たちからは、かなり強い魔力を感じる。
王族のミミはともかく、取り巻きの人間たちにまで所持が許可されているとは思えない。
しかも、さらに袋いっぱいの魔力石を受け取っている。
このミミという女、戦争でも起こす気か?
それにしても、あれほどの魔力を秘めた人間が城にいるのに、勇者ファルコが気づいていないというのも変だ。
しかも姫の小屋でミミらと対峙したときにさえ、連中から魔力を感じ取れなかった。
俺の腕輪と似たような、魔力を抑える何かを装備しているのかもしれない。
何にしても、まさにこれは人間と魔族による闇取引の現場というわけだ。
「ところであんたら。いざってときに、あたいらのケツ持ってくれる約束だったが」
「もちろんだとも。我が組織は大陸最大の魔族組織。何の不満もあるまい」
「でもよ。あんたの組織って末端なんだろ。頼りにしていいものかね」
人間ごときに舐められている。
そう取られてもおかしくないミミの台詞に、場の空気が凍り付いた。
そんな中でも余裕の表情を見せる彼女の態度は、見事というほかない。
相当、肝がすわった女だな。
「ミミ殿、本来なら少々聞き捨てならぬ言葉だったが、今日のおぬしはまことに運がいい」
長が不敵に笑う。
なかなかいい演技、演出をするやつだ。
さて、俺の出番のようだな。
柱の陰から出ると、俺は満月を背に宙を舞った。
そして折れた石柱の上に降り立つ。
前回の勇者ファルコとの対峙に反省し、今回はフードを深くかぶって顔を隠している。
「だ、誰だおめえは!」
俺に向かってミミが吠える。
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