第27話 第二王女の陰謀


「ミミ殿、控えよ。我らが魔王様の御前であるぞ」


 そう言って長がこちらへ体を向け、ひざまずいた。

 その後、その場にいた魔族が一斉にひざまずく。


「ま、魔王だって? なぜ……こんなところに魔王が……」

「ルドレンオブ国の第二王女、ミミと言ったな。なぜ俺たちの後ろ盾を必要とする? 力を求める理由はなんだ」


 なるべく低く、偉大さが伝わるようにしゃべってみた。

 珍しく、ミミの足が震えている。


 しかし笑みを浮かべているところを見ると、恐怖だけではなく歓喜も混ざってのことだろう。

 もしかしたら魔王という大きな力を味方にできるかもしれない……という餌に上手く食いついたようだ。


「なぜって? そりゃ、のし上がるために決まってますぜ。王女っつったって、しょせんは王である親父の道具。勝手に婚約者を決められ、親父の敷いたレールを走らされるだけの存在だ」


 なんだか、魔族に関わる理由が微妙にベスケットと似てるな。

 人間の王族も苦労が多いものだ。


「しかも婚約者! そいつ、まだ八歳のガキなんでさぁ。飯の食い方もチマチマしててよぉ! 腹立ったからそいつにデコピンしてやったら、ぎゃーぎゃー泣くしよぉ」


 ミミのグチがヒートアップしてきた。

 なるほど、レイナックのデートを許さない理由はこれか。


 男に恵まれていないから、嫉妬したというわけだ。

 そういや「楽しくデートなんぞ許すわけねえ」とか言ってたもんな。

 そう考えると、この女も少しかわいそうになってきた。


「親父に連れられて、相手の親父に頭下げさせられてよぉ! 生まれて一番の屈辱だったぜぇ。我慢の限界ってもんがあるっしょ! だから思ったんすよ、そんなレールはぶっこわしゃいいってね。婚約者の国も支配して、それに反対するならルドレンオブ国ごと親父たちも支配するっす!」


 いやはや。

 想像以上におっかないな、この女。

 国がこの女に支配されたら、レイナックが一生こき使われてしまう。


「女でありながら、大した度量。気に入ったぞ。しかし小さいな。おまえの野望はその程度か?」

「な、なんだと?」

「王女ミミよ、俺の配下に加われ。この魔王がおまえに世界を見せてやろう」


 彼女のセリフに対し、食い気味に俺の言葉をかぶせる。

 案の定、驚いた顔をしているな。


「わかりましたよ、魔王様。ただし、あたいと勝負しろ。あんた、親の七光りで魔王やってるって聞いてるぜ。だから、試させてもらう」


 その言葉を聞いてチラッと長に視線を送ると、慌てた様子で目をそらした。

 おいおい、末端組織の連中もか。


 ドランだな。

 随分と根回しが細部まで行き届いてるじゃないか。

 まあ七光りってところは、あながち間違いじゃないんだが。


「いいだろう。相手をしてやる」


 言い切る前にミミは動き出し、一足飛びで間合いを詰めてきた。

 そのまま腰の剣を抜いて、横になぎる。

 それをかわすも、ミミの剣は止まらない。


 へえ、この女。

 ヘタな兵士どもより、よほど強い。

 本格的に鍛えれば、勇者パーティーの一員も務まるかもしれないな。


 俺は後方へ飛び、いったん間合いを取った。


「ヘルフレイム!」


 ミミの手から、大きな火球が放たれる。


 そういえば魔法石も埋め込んでるんだったな。

 しかし、それだけでこれほどの魔法が使えるようになるというわけでもない。

 かなり修行に励んでいるのだろう。


 飛んできた火球を払いのけると、そのすぐ後ろから斬撃がきた。

 火球を目くらましにして一気に詰める。

 悪くない動きだ。


 俺はその剣の切っ先を三本の指で止めた。


 普通ならそこで驚き硬直するものだが、ミミはそのまま右足で蹴りを放ってきた。

 相当戦いなれている、というか喧嘩慣れしているようだ。


 蹴りを避け、彼女の腕をつかんで宙へと放り投げる。と同時に投げた彼女の体を追う。

 そして彼女の後方へと回って受け止めた。


「失礼。少々乱暴すぎたかな」

「え? え?」


 何が起きたか分からないといった様子で、ミミが戸惑った表情を見せる。


「これほどまでに腕を磨いているとは、大した女だ。ますます、おまえが欲しくなった」

「な、なな!」


 そう言うとミミの顔が真っ赤になった。


 あれ?

 思っていたのと反応が違うぞ。

 こ、これはまずい。

 この女、男らしさにこだわりがありそうだし、色気づいたセリフはよくなかったかもしれない。

 怒りだして、また胸倉をつかまれてしまうかも。

 さすがにあれは怖いんだよな。


「ほ、欲しくなったというのは配下にってことで、別に深い意味はないからな」

「あ、そうか。そうだよな、はは」


 どうにか分かってくれたみたいだな。

 俺はミミの体を支えたまま、遺跡の頂上に着地した。


「改めて、俺の配下に加われ。王女ミミ」

「こ、こちらこそ! よろしく頼んます。無礼を働き、申し訳ありませんでした!」


 ミミが俺の前にひざまずいた。


 さて。

 なぜに遺跡の頂上へ来たかというと、ここなら誰にも見られないからだ。


「では、おまえに最初の命令を与える」

「は! 何なりと!」


 よしよし。

 ここで俺はかぶっていたフードをとり、人間の姿へと変えて見せた。


「え? え? おまえは! い、いや! あなた様は!」


 さすがの彼女も、驚いてくれたようだ。


「タロウとレイナックのお買い物を認めよ!」

「えぇぇぇええええ!?」


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