第21話 ベスケットとご対面
ベスケットは、いつもグレインと密会している廃村の教会に来ていた。
大陸最大の組織を有する魔王が、ここにやってくるらしい。
魔族が使う鏡の通信によって、グレインから通達がきたのだ。
うまくタロウという魔王に取り入ることができた、そういう内容だった。
そしてグレインと交友のあるベスケットにも、一度会っておきたいということらしい。
通達を受け、ベスケットは喜びを隠さずにはいられないほど浮かれていた。
これで父や兄たちを出し抜ける。俺はもっともっとのし上がるのだ
ベスケットは、半壊した教会の舞台に飾られた、埃だらけの十字架に向かって手を組んだ。
それは正しい者こそが救われるなどという、馬鹿げた信仰心に対する皮肉だった。
馬鹿正直な者は、ただ搾取されるのみ。
他者を利用し、魔族すらも手ごまにする。
富とは、名声とは、そうやって自分の手で奪い取るものなのだ。
魔王タロウ、一度は断られたらしいが、案外チョロいやつだな。
きさまの組織力、せいぜい利用させてもらうぜ。
そんなことを考えていたときだ。
コツーン…コツーン。
建物内に、足音が重く響き渡る。
振り向くと、黒のフードを深くかぶった男がそこにいた。
顔は良く見えないが、肌の色から魔族であることは分かる。
「あなたが魔王タロウ様で?」
「グレインから聞いた。きさまも俺の配下に加わりたいそうだな。人間のクセに、なかなか見どころのあるやつよ」
配下になりたいわけじゃない。
ただ巨大な組織の後ろ盾を得てのし上がり、甘い汁が吸いたいだけだ。
心の中でほくそえみながらも、ベスケットはへりくだった態度を見せる。
「ありがたき幸せ! ぜひ、あなた様と友好関係を築きたいと思っておりました」
ここで、目の前の男がニヤリと微笑み、フードを取った。
魔族の顔だが、どこかで見たことがあるような気がした。
「いいぜ、おまえを配下に加えてやるよ」
そう言うと男の肌の色が薄暗い灰色から、血色のよい人間のものへと変化していった。
「な! き、きさまは!」
「素敵な貢ぎ物をありがとう、ベスケット。今回はおまえが一番だ。一番、俺を怒らせた」
「ひゃばばば! そ、そんな馬鹿な!」
慌てふためくベスケットに、タロウが拳を振るった。
殴り倒されて床に倒れるも、その場から逃げようと必死に這いつくばる。
しかし逃走経路に回り込まれ、頭を踏みつけられた。
「ひ――――! た、助けてください! 何でもしますから!」
「そうか。なら選ばせてやるよ。俺の配下になるか、それとも死か」
誰もいない廃村に、ベスケットの悲鳴が響き渡った。
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