第16話 手がかり
俺はアーガスの城下町の通行人や商人たちに声をかけ、レイナックの特徴を伝えて目撃者を探した。
魔族の力があったところで、闇雲に探し回っても意味がない。まずは情報なのだ。
裏の情報収集はリーリエが進めているだろう。
人間への聞き込みは、魔王軍の中で唯一人間の姿に化ける魔法を習得した俺の役目だ。
今できることをするしかない。そう思っての行動だった。
しかし誰一人として、レイナックの特徴に合致する女を見たという者は現れなかった。
そして、ついには夜になってしまった。
建物の屋上で町を見下ろしながら、思考を巡らせる。
聞き込みでも手がかりなし。
シュガーたちもレイナックを探し回っていたようだったが、そちらも望みは薄いだろう。
リーリエの報告を待つ以外にない。
魔王ともあろうものが、こんなときにできることがこの程度とは。
しばらくして、ようやくリーリエが姿を現した。
「タロウ様、ご報告に来ましたあ」
「簡潔に話せ」
動きは機敏なのに、この女はどうしてこうもゆるい口調なんだろう。
そんなことを思いながらも、とりあえず報告を促す。
「えっと、ですね。レイナックという姫の行方は、まだ分かりません」
「そうか。では、もう一つのほうはどうだ」
「は、はい! ベスケットという男ですよね。えっと、このアーガスという国の第二王子でして、レイナックとの婚約も王様が決めたということでして……」
「そんなことはどうでもよい。それより、裏でコソコソ動いてはいないか?」
「あ、そうですね。どうやらベスケットという男は、人間でありながら魔族と密会なんてしてるみたいですよ」
それそれ、そういうの。
言わなくても分かりそうなもんだがな。
「それで? 魔族とつるんで、ヤツは何を企んでいるのだ?」
「企むというより、取引をしているみたいですよ。魔族から魔界の麻薬をもらって、その代わり麻薬でべろんべろんにした人間を魔族に渡してるとか」
麻薬と聞いた瞬間、とても嫌な予感がした。血の気が引いていき、焦りが募る。
それと同時に、グレインという魔族が脳裏に浮かぶ。
「ベスケットと取引している魔族というのは、まさかグレインというやつじゃないのか?」
「はあ。そうなんですかね。どうしてそう思うんですか、タロウ様」
こいつ、よくそんなんで諜報部隊の隊長をやっているな。
以前、グレインは麻薬漬けの人間の女を貢ぎ物として俺の前に並べた。
そのことだけでも、ベスケットとつながりがある可能性が浮かび上がる。
もしレイナックが……。
ダメだ、考えたくもない。
だが、彼女を探し当てることができたら、麻薬の毒素は俺の魔法で解毒することが可能だ。
とはいえ、時間がたちすぎると解毒の魔法が効きにくくなる。
一刻の猶予もない事態には変わりないのだ。
「とにかく、グレインという男に聞きたいことがある。通信魔法で呼び出せ」
魔族には魔族特有の遠距離での通信手段がある。
特殊な鏡を使ったもので、魔力によって遠くにある鏡に文字を浮かび上がらせることができるのだ。
魔族の間では、一家に一台といった感じで住処には必ず鏡が置いてあった。
「それがですね。先ほどそのグレイン様から、もう一度タロウ様に会いたいって通信があったそうですよ。ヴァディーゲさんが返信したら、早く会いたいから魔王城で待たせてもらうと返してきたそうです」
「それを早く言え! じゃあグレインは今、俺たちの魔王城に向かっているのか」
「す、すいません! そうだと思います」
丁度よい。
グレインならレイナックの行方について、何か知っているかもしれない。
「俺は魔王城へ戻る! おまえはこのまま、レイナック姫の捜索を続けろ。もし見つけたら、すぐに保護して俺に知らせるのだ」
「は、はいー! わ、わわ、分かりましたあ!」
俺は右手の腕輪を全開まで回し、魔王の力を100%体内に戻した。
足に筋肉強化の魔法を使えば、半日足らずで魔王城へ戻れるはずだ。
俺は心に渦巻く不安と焦りを必死に抑えながら、魔王城へと向かった。
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