第40話 悲しい欲情
俺の服にしがみついて立っているレイナックを支えようと、肩に腕を回す。
その瞬間、レイナックの体がビクッと痙攣し、甘い喘ぎ声が口から洩れた。
カゼマルの色欲魔法が、まだ解けていないのか。
彼女がうつむかせていた顔を上げ、再び俺に熱い視線を送ってくる。
俺はうかつにも、ドキリとしてしまった。
こんな大人びたレイナックの表情、見たことがない。
胸がドキドキして抱きしめてしまいたくなるが、そう思ってしまう自分が許せなくなる。
今は魔法で操られているも同然の状態なのだ。
そんな彼女を抱きしめるのは、抵抗できないのをいいことに自分の欲望のはけ口にする、卑怯な行為だと思った。
「私、あなたにもう一度会いたかった。会いたかったんですよ、本当に。初めての友達だし……初めて恋した人だった」
「おまえは人間だ。魔族の男など忘れろ」
「なら、なぜあなたは私を守ってくれるんですか? 私はもう、あなたしか見えていないのです。忘れろなんて、言わないでください」
レイナックらしくない熱のこもった積極的な態度に、俺は困惑していた。
「熱い。体が熱いんです! もう我慢できないんです! ギュって! お願いします! 私のこと、ギュってして!」
顔が近い。
彼女の荒い息で、頭がボーっとしてくる。
俺はたまらず、両腕を彼女の腰に回して抱きしめようとした。
しかし寸前でためらった。
両腕を宙に浮かせたまま、彼女の体に触れることすらできなかった。
「あなたと結ばれるなら、私はすべてを捨てて……あなたについていきます」
ついに限界と言わんばかりに、レイナックのほうから両腕を俺の首に回して抱きついてきた。
そして、そのままキスをしてきた。
これが普段のレイナックなら、流れに任せて彼女を抱きしめていただろう。
しかし彼女の行動も言葉も、色欲魔法の影響を受けているからにすぎない。
後先考えず、ただただ肉体的な欲望を満たしたい願望に、心が支配されているのだ。
キスをしながら、細い体を何度も痙攣させている。
俺はレイナックを引き離すと、彼女の頬に自分の手をそっと添えた。
肉体の欲望が満たせずに我慢できないといった表情が、とても苦しそうに見えた。
「
レベルの高い者には効果が期待できないが、力の弱い者なら眠らせることができる魔法だ。
床に崩れ落ちそうになるレイナックの体を支え、台の上にそっと寝かせた。
「
解毒の魔法を試してみるも、彼女の体はビクッビクッと敏感に反応を繰り返している。
効果なしだ。
「お楽しみだったかよ……」
不意に、耳障りな男の声が後ろから聞こえてきた。
「さっきのは効いたぜ。まだあんな力が残っていたとはなあ」
振り返ると、カゼマルが愛用の斧を担いで立っていた。
左頬に痣があり、口から深緑色の血が垂れている。
まったく記憶にないが、やはり拳でぶん殴っていたらしい。
「この女にかけた術を解け」
俺がそう言うと、やつはペッと血を床に吐いてから、鼻で笑った。
「女をろくに満足させられねぇクソ童貞ヤロウのくせに、粋がってんじゃねぇよ。それとも放置プレイでも楽しんでんのか?」
「術を解け……」
「見てみろよ、その女。早くぶち込んでほしそうに、よがってんじゃねえか。くっくっく」
「術を解けってんだ!」
たまらず叫んだ。
カゼマルが肩をすくめて、わざとらしい大きなため息をつく。
「満足するまでイカせてやるか、俺を倒して魔力を断つか。方法はこの二つだ。まあ、俺を倒すのは無理だから、頑張ってハッスルするのがベストだぜ。百回ぐらいイカせりゃ、満足すんだろ。もっとも、そんなことしたら頭が壊れちまうがな」
胸糞悪いセリフの後、馬鹿笑いがあたりに響き渡る。
もういい、我慢の限界だ。
「もはやこれまでだ……きさまはもう生かしておけん」
俺はゆっくりと歩み寄り、互いの間合いまで近づいた。
そして睨み合う。
しばらくの沈黙の後、カゼマルが動いた。
瞬間、俺はヤツの顔面を殴りつけた。
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