第37話 疾風騎士の実力
「ほらねえ。やっぱりファルコ君一人じゃ、魔王に勝てないでしょお。やっぱり私のほうが強いじゃん」
何とも嬉しそうな顔だった。
なんだ、この女。
ファルコの仲間なのは間違いなさそうだが、手を貸さずに俺との戦いを隠れて覗いていたのか。
シャインはファルコからこちらへと顔を向けた。
その顔に張り付いた笑みは無邪気そのものだ。
数秒ほどの間があり、フッとシャインが消える。
次の瞬間、振り下ろされた剣が俺の目の前にあった。
かろうじて半身になってかわし、距離を取る。
「へえ。今のを避けるんだ。七光りのバカ息子って聞いてたけど、さすがは魔王だね」
七光り?
どこかで言われたようなセリフだな。
しかし疾風騎士というだけあって、とんでもない速さだ。
「それじゃあ、いくよ!」
一気に間合いを詰めてきた。
瞬きする間もなく、斬撃が繰り出される。
完全に避けきるのは難しく、シャインが剣を振るたびに切り傷が増えていった。
この女、魔法は使えないらしいが、剣の腕だけならファルコよりも強い。
もしもこの女がファルコの神剣を持って向かってきたらと思うと、なかなかにゾッとさせられる。
シャインが持つのは名剣のようではあるが、神剣には遠く及ばない威力だった。
伝説の武器は持ち主を選ぶらしいが、どうやら神剣はこの女を選ばなかったようだな。
「どうしたの、ほらほらほらほら! 防戦一方じゃない」
そうは言われても、この女相手に丸腰はちょっときつい。
「私じゃ本気になれない? タ・ロ・ウ君!」
一瞬手を止めて、俺の耳元でシャインがつぶやいた。
俺の正体を知っている?
まさかレイナックをさらったのは、この女なのか。
疑念が駆け巡る中、お構いなしとばかりに再び斬撃を浴びせかけてくる。
だが基本にとても忠実で、きれいな剣の動きだ。
シュガーの剣技と近しいものを感じる。
そのおかげもあって、徐々にスピードにも慣れてきた。
朝の稽古が役に立ったようだ。
「あはは、だいぶ慣れてきたみたいだね。すごいすごい! さすがはタロウ君。それじゃあ、もっとスピードあげちゃうよ!」
あれで本気じゃなかったのか。
もしかすると、親父が倒されたときにメインで戦っていたのは、シャインだったのではないか?
この女が親父を追い詰めていき、最後にファルコが神剣で致命傷を負わせて封印した。
そう思わせるほど、高い戦闘力を感じさせる。
シャインこそ、人類最強なのかもしれない。
しかし、これほどの強さを持ちながら、神剣に選ばれなかった理由は分かった。
ファルコに加勢もせず俺との戦いを傍観したり、レイナックをさらったり、俺の正体が分かっていながら黙っていたり。
勇者を任せるには、性格に難がありすぎるだろ。
まあ、だからって選んだのがファルコというのも、なんだかなあ。
神剣側も癖のあるやつらの中から選ばされたのだろうか。
「ぷ!」
もっとマシなのいねえのかよ、とふてくされる神剣を想像したら思わず吹き出してしまった。
「余裕こいちゃって。お姉さん、本気出しちゃおっかなー」
「ち、違う。ちょっと待て!」
一時攻撃を止めてもらうよう、シャインに促す。
「ん? どうしたのタロウ君。命乞い?」
「い、いや……。俺は丸腰だろ。そんなやつを倒しても、つまらんと思わんか?」
これでもまだ本気じゃないとなると、やはり丸腰では相当厳しい。
それにファルコとの闘いで、一応は手傷を負った身でもある。
「それもそうだね。じゃあ待っててあげるから、武器を出していいよ」
そう言って剣を杖のように立て、一時休戦の意思を示してくる。
先ほどファルコに自分の強さを誇示していた様子からして、ある意味ではファルコより正々堂々と戦いたいタイプだと思っていた。
本当にある意味では、だけどね。
俺は空間に異次元への出入り口を広げ、中から愛用の大鎌を取り出した。
「へえ、大鎌かー。魔王っていうより死神だね。でも、カッコいいじゃん」
軽口をたたいてから、シャインが再び仕掛けてくる。
相変わらずとんでもないスピードだが、どうにか攻撃をさばいていく。
さらに早くなっていくが、やはり丸腰でさえなければどうにかなるもんだ。
剣の猛攻を一通りさばききり、再び距離が開ける。
「ほんとすごいねタロウ君。さすが魔王の息子だよ。じゃあ、これはどうかな?」
シャインが身を低くして、前傾姿勢をとる。
おそらくシャインの必殺技だろう。
威力よりもスピード重視の、最速の一撃といったところか。
俺も大鎌を構えて、攻撃へ向けた姿勢を取る。
「うん、そこで防御に専念しないところもさすがだね。私の技に防御で対処なんてできないもん。それよりも攻撃で相殺するのが得策だ。まあ、できればの話だけど」
言いながら低い姿勢をさらに低くして膝にバネをためてから、シャインが動き出した。
ちょっと動いたのが見えただけで、シャインが一瞬消えたような錯覚におちいる。
だが見えなくとも剣の軌道は予測可能!
俺は大鎌を前方に振り、シャインの剣を弾いた。
「お見事! だけどこれで終わりじゃないよ」
まさか二段構えの技なのか。
弾かれてもなお、その次へつながる技。
まずい!
そう思った瞬間、横から巨大な火球がこちらへ飛んできた。
俺だけじゃなく、シャインもろとも焼き尽くす勢いだ。
シャインも虚を突かれて驚いた顔をしているが、攻撃態勢に入っているため迎撃も避けることもできそうにない。
俺はとっさに鎌を手放してシャインをかばい、火球を両の手で受け止める。
さらに後ろからは、シャインの斬撃を受けてしまった。
とはいえ受け止めた火球は大爆発を起こし、その爆風でシャインが吹き飛んでいったおかげで、受けた技のキレがほぼなくなっていた。
その点は助かったのだが。
魔力で爆発を抑え込んだにも関わらず、予想外の威力にかなりのダメージを受けてしまった。
「うぐ!」
ファルコやシャインと戦っているうちにレイナックの部屋から離れていたので、彼女が今の爆発の影響を受けることはないだろう。
しかし、危険地帯には違いない。
早くレイナックを保護して、脱出せねば。
「タロウ君!」
飛ばされたシャインが俺の元へと駆けよってきた。
「つまんないつまんないつまんないぃ! せっかく私の最強の秘技で決着がつくところだったのに!」
喚きながら俺の背中をポコポコ叩いてきた。
気にするところ、そこかよ。
ていうか、なかなかの手傷を負ってるので叩くのをやめてほしい。
「ところで、なんで私をかばったの?」
いきなりけろっとして、話を変えてきた。情緒がおかしいぞ、このお姉さん。
「そんなこと言ってる場合じゃない。囲まれたぞ」
爆発の煙の中から、大きな人影が姿を現す。
「おまえらだけで、なに楽しそうにバトルしてんだよ。俺も混ぜろや」
人影が手を払う仕草をした途端、あたりの煙が吹き飛んだ。
そこにはいかにも喧嘩大好きと顔に書いてあるような、大柄の魔族の男が立っていた。
さらにその後ろには大勢の魔族が臨戦態勢を取りながら、ニヤニヤした顔をこちらに向けていた。
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