第29話 お揃いのプレゼント


 ご飯を食べた後はショッピングという行為だ。


「ほら、このバッグなんてどうです? ドラゴンの革製ですよ。姫にプレゼントします!」

「そ、そんな高いの、もらえません!」

「じゃあ、宝石のネックレス! 姫に似合いますよ」

「もっと高いじゃないですか!」

「では、もういっそ現金をプレゼント!」

「もらえません!」


 おい、ベスケット。

 お前のアドバイス全然ダメじゃないか。


 何が「女は金目のものあげときゃノープロブレム」だ。

 普段は俺の顔色をうかがってるくせして、人間の女のことを教えるときは饒舌に上から目線で語ってきたのも、なんか腹立ってきた。

 帰ったら説教と雑用追加だな。


「そもそも、今日は私がタロウさんをおもてなしするんですからね」

「そうですか。でも、俺も姫にプレゼントがしたいのです」


 そう言うとレイナックは、困った顔をしながらも微笑んでくれた。


 しばらく商店街を歩いているとレイナックが何かを見つけたようで、一つの店へとかけだした。


「これ、かわいいです」


 そこにはストレイキャットという魔物の人形にひもが付いた、何に使うか分からない物がぶら下がっていた。

 そういえばベスケットの屋敷へ向かう道中でも、彼女は空飛ぶ猫だとはしゃいでえらく気に入っていたな。

 それに確かうちの組織の女魔族が、この猫をペットにしていたぞ。

 どうやら魔物のくせに、女ウケがいいらしい。


 レイナックはその人形を二つ取って、店の奥へと入っていった。

 やがて駆け足で戻ってくると、俺に人形を一つ渡してきた。


「プレゼントです! このお人形、お守りだそうですよ」


 うーん……。

 何に使うんだ、これ。

 お守りというと、つまり魔除けだよな。

 俺、魔族なんでむしろ除けられる側なんだけど。


 しかしレイナックからもらった初めてのプレゼント。

 それだけでうれしいのは確かだ。


「じゃあ、俺も姫に!」


 俺がもらった水色の人形の隣に並んでいたピンク色のストレイキャットの人形を購入し、レイナックに手渡す。


「かわいい! お揃いですね、タロウさん!」


 この人形はどちらかというとレイナックが欲しがっていた感じがしたので、プレゼントしてみたのだが。

 喜んでもらえたみたいで、よかった。


「しかし姫。さっき人形を二つ買ってませんでしたか?」

「あ、あれはですね。その、もし会えたらですけど。私を助けてくれたという、謎の旅人さんに。でも人形なんて、あの人は喜ばないかもですけど」


 あの人?

 グレインに魔王城へ連れてこられたレイナックには、ほとんど意識がなかったはず。


 しかし、彼女は「あの人」と言った。

 まるで顔を見知っているような表現だ。


 まさか、レイナックは魔族のときの俺の顔を見ていた?

 心なしか、人形を見つめる彼女の顔が寂しそうだ。


「そういえば姫は、夢の中で王子様に助けてもらったと言ってましたよね。顔を覚えているのですか?」

「はっきりとは覚えていません。でも……幼いころに出会った、私の初めてのお友達と似ていた気がします」


 そう答えてレイナックは、懐かしそうな顔で空を見上げた。

 そして不意に、俺のほうへ顔を向けてほほ笑んだ。


「その人、私の初恋だったんですよ」


 レイナックに助けられて傷の手当てをしてもらったあの日、彼女は俺のことを初めてできたお友達だと言っていた。

 魔族の俺を友達だと言ってくれたんだ。


 初恋の相手と言っているが、もしかしたらレイナックは魔族の俺を想ってくれているのだろうか。

 たった一度だけの出会いを、今でも大切にしてくれているのだろうか。


 そう思うと、あの日の魔族は俺だと告白したい衝動に駆られる。

 真の俺の姿を見せて、そのうえでレイナックが俺と一緒にいることを選んでくれたら、どんなに嬉しいか。


 でも、だめなんだ。

 魔族と人間は、相容れない。


 かつて魔族と人間が恋に落ちたという前例はあった。

 しかしその者たちは、すべからく魔族からも人間からも迫害された。

 例外はない。

 そんな不幸をレイナックに背負わせるわけにはいかない。


「そのプレゼント。喜んでもらえますよ、きっと」

「そ、そうですか。そうだといいですけど」


 レイナックは照れているのをごまかすように、テヘヘと笑うのだった。


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