第2話 チンピラ兵士の狼藉
夕方に差し掛かかろうとしていたころ。
シュガーは護衛任務の定例報告があるからと、一人で城へと向かった。
その間、俺は姫のいる小屋の前で、剣の素振りに精を出す。
「タロウさん、がんばってますね」
小屋のドアが開き、レイナックが顔を出してきた。
「毎日すごいです。私も見習わなきゃです」
「いえ、まだまだですよ!」
もっと腕を磨かねば話にならない。
何せ姫に捧げるための剣だからな。
そんなことを考えつつ素振りを続けていたとき、ニヤニヤした顔をこちらに向ける二人の兵士の姿が視界の端に映った。
「あの……。何か御用でしょうか?」
レイナックが二人に気付き、声をかける。
「いや、そこの見習いがですね。よくもまあそんな剣の腕で、健気にがんばるもんだと思ってですねぇ」
「ぎゃはは! ばか、おめぇ。もっとはっきり言ってやらなきゃ伝わらんぜ。才能ねぇからやめちまえってよぉ」
なんだ、このアホどもは。
城の兵士は真人間ばかりだと思っていたが、こんな連中もいるのだな。
「な……なんなんですか、あなたたちは! タロウさんが一生懸命練習しているのに!」
珍しくレイナックが声を荒げた。
「姫、どうかお気になさらず。あの連中は可憐な姫のために剣を振るう俺が、うらやましいだけなのです」
俺がそう言うと、二人の兵士はニヤけた顔のまま近づいてきた。
レイナックが不安げな顔で、俺と二人の兵士を交互に見やる。
「女の前で素振りなんかしちゃってよぉ。僕ちゃんもかわいい女の子に、自慢のエクスカリバーを堪能してもらいたいぜぇ」
笑いながら兵士の一人が腰をふる。
「ちょうどいじめてもらいたそうな見習いがいるし。俺らの剣も見てもらっちゃうか? ああコラ?」
さらに粋のいいセリフを吐いて、二人の兵士が馬鹿笑いする。
こいつら、どうみても悪人面だが本当に城の兵士か?
まあ、こういう顔はなんとなく親近感が湧いて、嫌いじゃないんだが。
しかし何かが不自然だ。
ただ馬鹿にして絡んできているだけというより、どこか苛立っているようにも見える。
俺がここで素振りをしていたのが気に障って、難癖つけにきたのか?
そもそも、姫の小屋付近で城の兵士を見かけるのは珍しい。こいつら、こんなところで何をしている?
それはさておき、だ。
かわいい女の子と褒めていた部分は評価できるが、姫を前にしてとる態度ではないな。
「きさまら。この方をルドレンオブ国の第三王女と知っての狼藉か」
「知ってるとも。下宿姫だろ?」
「その程度の剣だから、下宿姫の護衛なんてさせられてるんだぜ。自覚あるか、おめぇ」
いくらレイナックが王族に厄介者扱いされているとはいえ、ここまでハッキリ言葉にするか。
俺への侮辱だけなら、まだかわいい悪党だと思えたんだがな。
彼女をここまで馬鹿にされて黙っているほど、俺はお人よしではない。
「きさまら、姫に対してのその言葉。覚悟はできてるんだろうな」
「なんだ? 俺たちとやろうってのか?」
明らかにバカにしたような顔で、かかってこいと両手を広げてくる。
その誘いに乗って、俺は足を踏み出した。
すると、レイナックが腕にしがみついてきた。
「大丈夫です……。私は大丈夫ですから……」
密着した彼女の体が震えている。
やはり争いごとは苦手なのか。
ここで俺が暴れたら、レイナックに怖い思いをさせてしまうかもしれない。
「どうした、怖気づいたか? 腰抜けが」
さらに煽ってくるが、ここはどう考えてもレイナックの意思を最優先だよな。
それにしても、腹の立つ顔がうまいやつだ。
「何をしている」
突然声がして、全員が振り返る。
そこには他の兵士より立派な鎧を身にまとった、目の鋭い男が立っていた。
確かあいつは、この城の近衛兵長だったか。
「いやぁ、隊長さん。この見習いに、ちょいと剣を教えてたんですよ」
頭をかきながら、チンピラ兵士が笑ってごまかす。
ちょうどそのとき、シュガーが城のほうからこちらへ向かってきた。
「ヴィクタル、うちの見習いが何かしたか? それとも、姫に御用でも?」
すれ違いざま、近衛兵長にシュガーが尋ねる。
しかしヴィクタルと呼ばれた近衛兵長の男は、無言で踵を返した。
そのままその場を去ろうと、歩き出す。
「おいおい、何か言えって」
シュガーがヴィクタルの肩を掴む。
「チッ! 下宿姫の護衛風情が……」
肩に置かれた手を払い、ヤツが城へと戻っていく。
その後ろを、二人のチンピラ兵士が追いかけていった。
「大丈夫でしたか、姫」
「は、はい……ありがとうございます」
安否を気遣うシュガーに、レイナックが弱々しく答える。
「大丈夫じゃない! 姫が侮辱されたんですよ!」
「そうか、すまんなタロウ。それにしても……あんな連中を城の兵士に招くなんて、ヴィクタルも何考えてんだか」
なるほど。
近衛兵長という、それなりに偉い立場の者が推薦したやつらなのか。
その割には、ずいぶんと質の低い人選だな。
しかし、あのヴィクタルという男の目、どうも気になる。
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