合コンのお誘い?

「ういーす」


 翌朝。

 自席で期末テストに向けて勉強を進めていると、四谷がトンと肩を叩いてきた。


 ひとつ前の席に腰を下ろし、半身を向けてくる。


「今日はいつになく元気そうだな」

「まあな。そういう西蓮寺はお疲れか?」

「ああ……いい案が思いつかなくてな」

「良い案? 何か企画でもしてんの?」


 この際、四谷に少し相談してみるか。


 俺だけの視点だと行き詰まりつつあるし。


「友達を作る方法を模索してる」

「友達? ……あー、そういうこと。双葉しずくの友達作りに協力してるのか」

「察しが良いな。ただ俺に一年生の知り合いはいないし、そもそも同い年の女友達すらまともにいない」

「なるほどねー。そりゃ詰んでますわ」


 四谷は顎先に手を置いて、涼しい顔で言う。


「あれ、でも七海さんがいるじゃん。七海さんなら一年生にも知り合いいるんじゃね?」

「それは俺も思ったけど、真由葉を頼ることはできないな」

「ふーん。まだ喧嘩してるのか」

「喧嘩ってわけじゃないが、まぁそんな感じ」


 真由葉を頼れれば、とんとん拍子で解決できそうな気がするが、それは無理な相談だ。


「四谷は一年に知り合いいたりしないか?」

「まぁ、いなくはねぇけど全員男だぜ。生憎、俺は西蓮寺と違って女っ気が微塵もないんでね。あ、でも……」

「ん? なんだよ」

「いや、なんつーか今日、合コン予定なんだよ」


 四谷の口から馴染みのないワードが飛び出し、俺を目をパチパチさせる。


「合コン?」

「ああ。俺も出会いを求めようと思ってな。知り合いが幹事で男女でファミレス行くってことなってんだ。誰がくるのか詳しい情報ないんだけど、一年生の女の子はいたはず」

「なるほど。そういうことなら大丈夫だ。四谷の恋愛の邪魔をしたくはないし」

「そうか? へへ、悪いな」


 ともあれ、まずは一年生との繋がりを持った方が良さそうだな。


 問題はどうやって一年生と仲良くなるか。

 社交性のパラメータが低い俺には難易度が高いな……。


 それに俺は、しずくの彼氏として認知されているし、余計にハードルが上がっている。困ったな……。


 ──ピロン


 近くの電子音が鳴る。

 四谷はポケットからスマホを取り出し、内容を確認した。


「……っ。ま、まじかよ……」

「どうかしたのか?」

「幹事やってくれてるやつが熱出したって」

「お気の毒だな。合コンは中止?」

「いや、それで欠員の補充を頼まれた。ど、どうしよう西蓮寺!」


 四谷は涙目になりながら、俺の両肩を掴んですがってくる。


「単純に欠員を補充したらいいんじゃないか?」

「無理だっての。俺の周り、基本的に恋愛よりもアニメやゲームってやつばっかだよ。そもそも俺だって、西蓮寺がいなかったら出会いを求めようとか思ってなかった」


 要するにアテがないのか。


「その合コン、何人参加予定なんだ?」

「男子三人、女子三人の六人だ」

「もう一人の男子は頼れないのか?」

「無理だ……他校のヤツだし、まともに面識ない……」


 幹事が四谷に欠員補充を頼んでいる以上、そもそも期待は薄いか。


「合コン中止か、クラスの誰かにお願いするとかくらいしか思いつかないな」

「前者は論外だし、後者はハードル高すぎる……。普段からロクに話さないのに、いきなり合コンには誘えねぇよ」


 四谷は下唇をギュッと噛み締めると、両手を合わせ頭を下げてくる。


「なぁ西蓮寺。お前に代役を頼めないか?」

「無理だよ。俺にはしずくがいるし」


 本当に付き合っているわけではないが、合コンに参加する権利は今の俺にはない。


「そこを頼む! 居てくれるだけでいいんだ。西蓮寺って意外と顔いいし、合コンの成功にはいてくれると助かるっていうか……。それにほら、カノジョがいるなら女の子を取られる心配もいらないし」

「だから無理。大体、ウチの生徒なら俺を認知してる可能性も高い。しずくと付き合ってるのに、どうして合コンにいるんだってなるだろ」

「う……だよな」

「悪いな、協力できなくて」


 力になれないことに申し訳なさが募るが、今回のことは俺が立ち入る隙がない。


 と、再び四谷のスマホから電子音がする。


「あっ。……んだよ、ったく」

「どうしたんだ?」

「欠員の補充できたって。もう一人の男子……さっきチラッと言った他校のやつなんだけど、そいつが見つけてくれたってさ」

「よかったな」


 問題なく合コンは開催されそうだな。


「はぁ。でも知り合いゼロかー……ちょい肩身狭いな」

「まあ気負わずにがんばれよ」

「おう、明日になったら結果言うわ」

「よろしく」


 程なくしてチャイムが鳴り、四谷は自分の席に戻っていく。

 俺は中断していたテスト勉強を再開するのだった。

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