不穏な噂②

 昼休み。

 俺は友人──四谷よつやと食堂にいた。


「一年の間で流れてる噂、なんか知らないか?」


 天ぷらを頬張りながら、双葉に関する噂について少し探ってみることにした。


「あれ? お前、噂とか興味ないってスタンスじゃなかった?」

「基本的にはな。この前、一年の双葉しずくって子と軽く知り合ったんだ。で、その双葉に関してなにか噂がありそうだから少し気になった」

「へえ? その子のこと好きなの?」

「いや、恋愛感情はねえよ」


 好きになっても辛いだけ。

 無謀な挑戦をする愚かな俺はもういない。


「ふーん? ま、恋愛目的じゃないなら言ってもいいか。西蓮寺も言ってた通り、双葉しずくには噂があるよ。それも、黒い感じの噂な」


 四谷はチキン南蛮を一口含み、話を続けた。


「ウチって中高一貫だろ? だから普通はそのままエスカレーターに乗って高校ここに進学する。けど、例外もあるよな?」

「極端な成績不良。目に余る素行不良。あとは、教師が絡むレベルで問題起こした場合とか?」

「そうそう。ちなみに双葉しずくは、そのほとんどに該当している。成績不振で、中二の夏から登校拒否。生活態度を注意されて教師に暴行したって話もあったな。とにかく悪い噂には枚挙にいとまがない」

「じゃあ、どうしてウチに進学できたんだ?」


 四谷の話を鵜呑みにするなら、高校進学の基準は満たさない。

 一応、外部受験という形で、試験に挑み進学する方法もあるが、ウチの偏差値は高い部類。成績不振の生徒が突破できるとは思えない。


「裏で教師に上手いこと帳尻を合わせてもらったって話だ」

「どうやってだよ?」

「教師とパパ活して自分に都合のいいように操ってんだってさ」

「なんだそりゃ。証拠はあるか?」

「さぁな。でも、噂なんて根拠のないものばっかだろ。誇張して表現して、話のネタになれば御の字。尾ひれがついて、過激な表現が出るのも不思議じゃない」

「それは、そうだな」


 噂は噂。

 話のネタとして盛り上がればいい。細かい粗探しなど野暮なのだろう。


 ただ当事者からしたら、溜まったものじゃないだろうな。


「ともかく俺が知ってるのはこの程度だけど、役に立ちそう?」

「ああ、サンキュ」

「今後も双葉しずくとは関わるのか?」

「双葉から拒否してこないなら敢えて避けることはない」

「ふーん。でも噂は飛び火するぜ。西蓮寺も噂の対象になる可能性は否定できない」

「その他大勢にどう思われてもダメージないから問題ねえよ。人目なんて気にしても疲れるだけだし」


 身近な人間が理解してくれていれば良い。

 話したことすらない相手から色眼鏡で見られても、痛くも痒くもない。気にするだけ時間の無駄。


「西蓮寺ってほんと神経図太いよなー。羨ましいわ、そのメンタル」

「四谷が神経質なだけだろ」

「かもな。ま、せっかくの出会いだし、西蓮寺が双葉しずくの噂を払拭して環境を変えてあげたらいいんじゃね?」

「俺が? 生憎、そんな大層な影響力は持ち合わせてない」

「そこはほら色々工夫しろよ。お前、頭いいし」

「適当だな。それに、俺は勝手なことはしたくない。良かれと思ったことが本当に良いこととは限らないからな」


 俺は呆れ眼で四谷を一蹴し、頬杖をつく。


「じゃあ仮に、双葉しずくからお願いされたら助けてあげるのか?」

「だから俺に噂をどうこうできるほどの力はないっての」

「だったら、どうして噂について聞いたのかね」

「それは……単に気になったから。それだけだ」


 そう、気になっただけだ。

 でも、噂を探るのはらしくなかったかもな……。

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