図書室にて
真由葉は前を向き始めた。
彼女の恋愛事情に俺が関わるべきではないと思っていたけれど、それは少し間違っていたかもしれない。
必ずしも一人の力で解決できるわけではない。時には協力だって必要だ。
やり方は馬鹿げていたし、褒められたことではないけれど、結果的にはあれで良かったと思う。
真由葉の問題は解決した今、俺が注力すべきはしずくの友達問題だ。
今なら真由葉の人脈を頼って、しずくの友達探しに踏み込める気がするけど……。
「……どうすっかな」
「どうすっかな、じゃねぇよ! なに物思いに耽ってんだコラ!」
バンッと力強く机を叩き、俺を睨みつけてくる四谷。
昨日の合コンでは全くの成果を残せなかったようで、血圧が上がっている。
「俺にキレるなよ……。今回の失敗は、次に活かせばいいじゃんか」
「西蓮寺に言われるとすげームカつくな。ウチの学校の美人系と可愛い系のトップを両方取るとかマジギルティだから! 一回ほんと殴らせろ!」
美人系と可愛い系のトップって……。
真由葉としずくの容姿は頭ひとつ抜けてると思うけど。
「四谷には説明しただろ。俺はあいつらと付き合ってるわけじゃない」
「だとしても十分羨ましすぎるの! 嫉妬でおかしくなりそうなの! 俺は!」
「ああそれと昨日は助かった。四谷がいなかったら上手く行かなかったと思う」
「だったら、たまには俺にもリターン渡せよな」
リターンか。
四谷には結構助けられているからな。
「何かしてほしいことでもあるのか?」
「可愛い女の子紹介しろ!」
「それは無理だ。というか俺が紹介してもらいたい」
「お前、まだ求めんのかよ……強欲がすぎるぜ」
呆れたように俺を見つめる四谷。
しずくの友達候補探しとして、女の子の知り合いが欲しいだけなんだけど誤解してそうだな。
「あ、てか今ので嫌なこと思い出したわ……」
「嫌なこと?」
肩をすくませ、四谷は頬杖をつく。
「昨日の合コンで一緒になった一年の女の子がさ、西蓮寺に会いたいって言うんだよ」
「は? どういうこと?」
言っている意味はわかるが、意味がわからなかった。
あまりに脈絡がない。
「俺だってよくわからんよ。ただ、俺が西蓮寺と友達だって知るなり興味持ち出してさ、紹介してって……別に紹介しなくてもいいよな?」
「いや紹介してくれ」
「はぁ、だと思いました。昼休みは図書室にいるって言ってたから、今日とか早速行ってみたら?」
「わかった。さんきゅ」
向こうが俺に会いたがってるのは引っかかるけど、この誘いに乗らない手はないだろう。
★
昼休み。
俺は図書室に向かっていた。
しずくには一緒に昼食を取れないと伝えてある。
文章から滲み出るほど不機嫌さを露わにしてきたけど、委員会活動だと嘘を吐いて納得してもらった。
正直に図書室に行く旨と理由を伝えても問題はないが、友達作りに繋がるとは限らないからな。ぬか喜びさせるのは避けたい。
受付側の扉を開ける。
ウチの図書室は漫画等の娯楽に特化したものが少ないため、人口密度は少ない。
グルリと見渡すと、ネイビーブルーの髪色をした女の子を見つけた。
他には受付に座る気怠そうなギャルと、メガネを掛けた男子が一人。
俺の足音に気がついたのか、彼女は本をパタリと閉じて振り返ってきた。
「あ……西蓮寺先輩、来てくれたんですね!」
一目見るなり、柔和な笑みを突きつけてくる。
「どうして俺が西蓮寺だってわかるんだ?」
「自分の知名度理解してないんですか? 一年の間では超有名人ですよ」
「そうか。なんか俺に会いたいとかって聞いたんだけど」
「はい。あ、どうぞどうぞ座ってください」
促されるがまま、彼女の隣に腰を下ろす。
彼女は胸の前で両手を合わせながら。
「わたし、
「河瀬は一体俺になんの用があるんだ?」
「ううっ、名前で呼んでって言ってるのに呼んでくれないんですね」
「用件、聞いていい?」
あざとく上目遣いを向けてくる河瀬。
俺が用件を言うように催促すると、彼女は居住まいをただして。
「はい。西蓮寺先輩は双葉さんと付き合っていますよね?」
恐る恐るといった具合にチラリと視線を寄越して訊ねてくる。
俺は首を縦に下ろしてみせた。
河瀬は緊張の面持ちで唾を飲み込むと、ゆっくりと口火を切る。
「不躾なお願いなのですが、西蓮寺先輩からわたしと双葉さんを引き合わせるよう段取りを組んでもらえないでしょうか」
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