告白するんでしょ?
「そっか。仲直りできたんだ。よかったじゃんっ」
帰宅後、俺は耳元にスマホをあてがっていた。
電波越しにいるのは真由葉。
彼女が背中を押してくれなければ、しずくを夏祭りに誘うことは出来ずにいたに違いない。
その感謝と結果報告をするために、電話をかけた次第だった。
「喧嘩していたわけじゃないけどな。でも、うん、よかった」
「それでこの後はどうするの?」
「どうするって? なにが?」
「告白するんでしょ?」
単刀直入にぶっ込んでくる真由葉。
俺は一瞬言葉を詰まらせ、コホンとわざとらしく咳払いした。
「そ、そんなこと言った覚えないぞ。第一、告白は急いでするものじゃない」
「急ぐ必要はないけどさ、恋人のフリよりは本物の恋人の方が都合いいじゃん」
「都合はいいが、本当に付き合うってなると話が変わってくる。……せっかくしずくの学校環境が良くなり始めているし、恋人関係は今後も続けた方がいいに決まってる。それに──」
「ゆうくんの悪い癖出てるよ。御託並べてないで、端的に言って」
「要するに、今、告白するのは少し卑怯だと思う。告白は全部解決してからじゃなきゃフェアじゃない」
しずくにとって、俺との恋人関係は男除けに大いに役立っている。
このメリットは可能な限り享受したいはずだ。
それにバカップルという認識が広がることで、良くも悪くも周囲に影響を与えられる。
今の関係は崩すべきではない。
現に一度崩れかけて、周囲の目が変わっているのを肌で感じたしな。
現状、俺が告白をすればしずくは恋愛感情以外の理由で受け入れる可能性がある。
振られた場合は関係が崩れて、好転してきた学校環境の風向きが怪しくなってしまう。
「言いたいことはわかるけど、全部解決するのっていつになるの?」
「まだ目処は立ってない」
「ホントはさ……明確に口にしちゃうのが怖いだけでしょ?」
「は、はぁ?」
柄にもなく素っ頓狂な声を上げる俺。
「違うの?」
「……そういった側面がないといえば嘘になる」
「もう、言い方が捻くれてるなぁ。大丈夫だって。きっとうまくいくよ」
「また無責任な……。こっちはすでに一回失敗した経験があるんだ。どうしたって慎重になっちまう」
しずくが俺に対して好意を持ってくれているのは実感している。
でもその好意が、果たして恋愛的な意味か、友愛や信頼の方面なのかは判断つかない。
過去の俺は、その好意を読み間違えたから、真由葉に振られたのだ。
「……今やり直してくれれば失敗しないんだけどな」
「え? ごめん聞き取れなかった」
「う、ううん。なんでもない! てか、それ私のせいって言いたいの?」
「いや、そういうわけじゃないが……まぁ、なんていうか絶対に失敗をしたくないって思うからこそ、簡単には踏み出せない。そんな感じだ」
人生にやり直しは効かないからな。
セーブして元に戻れるギャルゲーが神であると思い知らされる。
「ふーん……別に私はどっちでもいいけどさ、告白って一回失敗したら終わりじゃないと思うよ。それで崩れちゃう関係もあるけど、全部が全部崩れちゃうことはないし、何回も同じ人に告白して付き合い始めた子も知ってるしさ」
「それは、そうかもしれないが」
「あと、ゆうくんの今の気持ちってそんなに悠長に抑え込めるものなの?」
「ヤなとこ突いてくるな……」
正直、今にも溢れそうなくらい水面張力ギリギリまで溜まっている。
真由葉への恋愛感情を抱いたのは、身近にいた女の子が彼女しかいなかったの大きい。自然と恋愛に結びつけ、異性として意識していった。
でも、しずくは違う。
気がついた時には好きになっていた。
感情の遷移を自分自身で追うことができておらず、いつの間にか好きで、そこからは一瞬だった。
いつまでこの気持ちを抑え込めるのかは未知数。
でも、日に日に強くなっていくのは自明の理だ。
「あ、ごめんゆうくん。そろそろ晩御飯って呼ばれちゃった」
「了解。悪いな、急に電話して」
「ううん、いつでも掛けてくれていいよ。あ、てかウチ今日カレーみたいだけど、食べにくる? 香奈ちゃんも一緒に」
「いや、今日は父さんが珍しく早く帰っててな。飯作ってくれてるから大丈夫だ」
「そうなんだ。わかった、またね」
「またな」
通話が途切れ、俺はスマホを机に置く。
背もたれにぐったりと体重を預けて、天井を見上げる。
「……告白か」
気軽にできるものではないし、心理的ハードルは高い。
でも、先延ばしにすればいいわけでもない。結局俺は、振られる可能性を考え怖気付いている。
でも、もし本当に付き合えたら……。
俺は乱雑に髪の毛を両手でグシャグシャにする。
色々思考が巡って、オーバーヒートしそうだ……。
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