エピローグ

 私、双葉しずくは、昔から理不尽な目に遭うことが多かった。


 お父さんは金遣いが荒く常に気が立っているような人で、私は幼いながらに気を遣うことを覚えさせられていたし。離婚して、お母さんとの二人暮らしが始まったかと思えば今度は家事炊事を押し付けられた。


 会話もほとんどなく、同じ家に暮らしているのに冷え切った関係。

 私がお母さんに求めるのは経済的支援で、お母さんが私に求めるのは家事や炊事。傍から見たら、親と娘とは見えないと歪んだ状態だと思う。


 中学生になる頃。私は人付き合いに飢えていた。家の中だと会話もロクにないから、外の世界でその分を取り返したかった。


 だから男女問わず、分け隔てなく、明るく気さくにコミュニケーションをとっていった。その頃から私は男の子にモテるようになった。


 告白されたのは一度や二度じゃない。

 けど、相手が誰であっても私はその好意を受け取ることはしなかった。


 付き合うことに抵抗があったし、人を好きになる気持ちもわからなかった。

 でもそうして誰とも付き合わず、誰に対しても分け隔てなく明るく接した結果、私は特定の女子から逆恨みをされるようになった。先生に対しては理想的な女子生徒として接していたせいか、必要以上に好感度を稼いで、邪な感情を抱かれてしまった。


 本当に、ついていない間違いばかりの人生だと思う。


 つくづく嫌になるし、出来ることなら今すぐにでもリセットしたい。


 いつの間にか根も葉もない噂に取り憑かれ、誰も私と向き合ってくれない現状。もう、何もかも面倒くさい。


 そう……思っていた時だった。


 通りかかった中庭で、鬱蒼とした表情で座り込む人を見つけた。


 私以上にずっと暗い顔をしていて、そのまま消えていなくなるんじゃないかと不安になるくらい。そして彼が、保健室登校している時に接点のあった先輩であることに気がつくと、私は不思議な縁を感じた。



 最近の私は、人付き合いをしていない。


 ううん、人付き合いができる環境にいなかった。



 誰も彼もが私を色眼鏡を通して見てくる。

 でも、前に先輩は言っていた。噂に興味がない、って。


 もしそれが嘘ではないのなら、先輩は私のことを見てくれるかな……。


 そんな淡い期待が脳裏をよぎる。


 気がつくと私は一歩一歩、慎重に先輩へと近づき隣に腰掛けていた。


 ブツブツと呟いている内容から汲み取る限り、先輩は告白に失敗したらしい。

 それを聞いてなぜか安心してしまう私。保健室登校していた時もそうだった。先輩と話している時だけは、他の男子とは違うものを私は覚えていた。


 これが何か特別な感情なのかはわからないけれど、私から近づきたいと思ったのは後にも先にも先輩だけだった。


「うおっ⁉︎ び、びくった。なにしてんだこんなとこで!」


 しばらくして私に気がついた先輩は素っ頓狂な声を上げて立ち上がった。


 私はふわりと微笑を湛えると、自慢のブロンドヘアを揺らしながら。


「失恋したんですか?」


 そう言って、先輩へと踏み込んでいったのだった。




 私はこれまで運の悪い人生だったと思う。

 けど、今は先輩と会うために運を貯めていたんだと思い始めている。


 これから大変なことは沢山あると思う。

 夏休みが明ければ、また学校が始まる。先輩のおかげで私の環境は改善しているけど、全員が全員、私に対する認識を変えてくれるとは思えない。


 でもそれはもう大きな障害ではない。


 何も心配はいらないと自信を持って言える。


 だって、私の隣には先輩がいてくれるから。


【完】


 ──────────────────


 途中、更新が止まってしまい申し訳ないです。

 最後まで追っていただき、ありがとうございましたm(_ _)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パパ活してると噂の後輩ビッチ様を無自覚に攻略してみた 〜彼氏持ちの幼馴染がなぜか闇堕ちしてるんですけど〜 ヨルノソラ/朝陽千早 @jagyj

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画