パパ活してると噂の後輩ビッチ様を無自覚に攻略してみた 〜彼氏持ちの幼馴染がなぜか闇堕ちしてるんですけど〜

ヨルノソラ/朝陽千早

幼馴染に彼氏がいたらしい

 高校二年の六月。

 俺は、人生初の失恋を経験した。


『ごめんなさい……ゆうくんとは付き合えません』


 中庭のベンチに座り込んでから、どのくらいの時間が経っただろう。

 申し訳なさそうに放たれた幼馴染の声が、何度も俺の脳内で繰り返し流れている。

 

「惨めすぎるな……俺」


 幼馴染への恋心を自覚してから、俺は地道に好感度を稼いできたつもりだった。


 そして先月、バレンタインにチョコをもらい、これはいけると確信した。

 しかしその結果が玉砕。しかも振られた理由が──。


『私、お付き合いしてる人がいるの。他校の人だから、ゆうくんには紹介していなかったんだけど、えっと、だからごめんね? 付き合うことはできないけど、これからも友達でいてくれると嬉しいな』


 付き合っている彼氏がいるから、である。


 俺は曇天模様の空を見上げて失意一色に目の色を変えた。


 結局のところ、俺は幼馴染ですらなかったのかもしれない。

 恋人ができた報告すらもらえない関係性。


 そりゃ、告白が成功するわけないよな……。


「そろそろ帰るか」


 太陽も姿を隠し始める頃。

 いい加減、帰途に就いた方がよさそうだ。


「うおっ⁉︎ び、びくった。なにしてんだこんなとこで」


 腰を上げた刹那だった。

 俺は大袈裟に仰け反り、素っ頓狂な声を上げる。


 一人の世界に入り込んでいたせいか、隣に女の子が座っていることに気が付かなかった。


「失恋したんですか?」

「え?」


 あまりに直球で、心当たりのある問いに俺は動揺を隠せない。


「考え事は口に出したらダメですよ。私みたいに盗み聞きする人いるかもですし」

「口に、出てたのか」

「はい、思いっきり出てました。私でよければ話聞きますけど?」

「俺の独り言聞いてたんだろ」

「そうですけど、他人に吐き出した方が心が楽になることもあるかなって」

「それは……まぁ」


 金髪を揺らしながら、柔らかい笑顔を向けてくる。

 俺はオレンジ色に滲む空を見上げた。


「俺、幼馴染に告白したんだ。でも、彼氏がいるからって理由で振られた。恋人がいることすら教えてもらえない関係なのに、勝手に脈あると思って俺は浮かれてたんだ。馬鹿みたいだろ? ……ほんと」


 重たい息が自然と漏れ出る。

 俺は苦く笑みを浮かべた。


「悪いな。こんな話聞かせて」

「いえいえ。私、人の恋愛話って面白いから好きですよ」

「いい趣味してるな」

「えへへ、そうでしょう?」


 褒めた訳じゃないが、なぜか嬉しそうだ。


「でも、サンキュ。吐き出せてちょっと楽になった」

「それはよかったです。どこかで聞きましたが、失恋の傷みを癒すのは恋愛らしいですよ」

「さっさと次の恋に踏み出せってことか?」

「ですです。相手が見つからないなら私を狙ってくれても構いませんよ。私、彼氏とかいないですし」


 自分の顎先を指差して、からかうように笑みを見せてくる。


 しなやかな体つきとどこか品のある雰囲気。

 鮮やかな碧色の瞳に、透明感に満ちた肌。枝毛ひとつ見当たらないブロンドで肩は隠れている。


 愛らしいルックスとコミュ力の持ち主だ。

 言われた通り、この子を好きになってもいいかもしれない。


「名前教えてよ。検討するから」

双葉ふたばしずくです。意外とモテますから、急がないと誰かに取られちゃいますよ」

「意外じゃない。双葉がモテないならこの高校の男は目が腐ってる」

「…………」

「どうかした?」

「い、いえ、なんでもありません」


 双葉は両手をパタパタと小刻みに振りながら、あさってに目を背けた。

 夕焼けのせいか、頬が少し赤くなっている気がする。 


「じゃ、俺はもう帰るよ」

「あ、待ってください。まだ先輩の名前聞いてないです」

西蓮寺悠里さいれんじゆうりだ」

「西蓮寺先輩、ですね。はい、覚えました」


 俺の苗字を反芻し、双葉はコクリを頷いてみせた。


「じゃ、またな」


 そう言いながらベンチから立ち上がる。

 と、双葉はふわりと微笑みながら。

 

「はい。私、一年四組の教室にいますから、いつでも会いにきてくださいね」


 ひらひらと俺に手を振ってくる。俺は軽く手を振り返してから踵を返す。

 少しだけ軽くなった足で一歩前進した。

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