指切りげんまん
「せんぱーい。もうちょっと恋人らしいデートしませんか」
ある日の放課後。
期末テストに向け、俺としずくはファミレスにこもって勉強に励んでいた。
充電切れを起こしたのか、しずくはバッタリとテーブルに倒れ込み、上目遣いを寄越してくる。
「勉強教えろって言い出したのしずくだろ」
「それはそうですけど……最近勉強ばっかりで飽きてきました」
「第一、恋人関係は学校内だけで、デートとかはしないって決めたはずだよ。勉強しないなら放課後も一緒にいる必要はない」
「むう。先輩まだそのスタンスだったんですか。細かいこと気にしないで本物の恋人を凌駕するくらいの心持ちでいたらいいじゃないですか」
「凌駕してどうすんだよ……。あくまで俺らの恋人設定は、しずくに近寄ってくる男を減らすためだって忘れたの?」
「先輩に恋人ができた時の練習って側面もありますよね」
「うん。でも線引きはしないといけない。学校限定の縛りがあるからこの設定は成り立ってる。所構わず恋人やってたら本当に……なんつーか……」
「なんですか? ちゃんと言ってください」
しずくは心の奥を覗くかのように真正面からジッと見つめてくる。
俺はうっすらと頬を赤らめ、あさってに逸らした。
「な、なんでもない。とにかく、何度も言ってるけど俺たちはどこでも恋人なわけじゃない。基本的にはデートもなし。いい?」
俺が改めて恋人設定について確認を取ると、しずくは表情を暗く落とした。
コップに入ったアイスティーをちびりと飲み込み。
「先輩。私の先輩に対する好感度ってどのくらいだと思いますか?」
「は? なにバカなこと聞いてんだ」
「バカなことじゃないです。真面目な、とてもとても真剣なお話です」
「そうは思えないけど……」
適当に受け流したい場面だが、しずくは至って真剣な様子。
「100を最大値と考えて20くらい?」
「それ本気で言ってるんですか」
「……多少の期待値は込めた。気分を害したなら謝る」
「違います。そんな低いわけないってことです!」
しずくは前のめりになって、語気を強める。
端正な顔が近くに迫り、俺はゴクリと生唾を飲んだ。
「し、しずく、ちょっと落ち着いて。店内だし」
「……はい、すみません」
軽く宥めると、しずくは素直に応じてソファに座り直した。
「先輩は女心ってものを何もわかってないです」
「そりゃ男なので……」
「今度の期末テストで、私が全教科平均点超えたら私とデートしてください」
「会話の流れがおかしくない?」
「一々ツッコまないでください。デートですデート。テスト頑張ったらご褒美にそういうのあってもいいと思うんです」
全教科平均点以上ならデート、か。
勉強を苦手としているしずくにとって、決して楽なハードルではない。
「それで勉強のやる気が出るならいいけど」
「ほんとですか。じゃあ約束です、約束っ」
しずくは途端に機嫌を直し、朗らかに口元を緩める。
右手の小指を差し出して、指切りを求めてきた。
「これでいいか」
「はい。指切りげんまん嘘ついたら先輩のお嫁さんにしてもらう、指切った」
「待て。俺が嘘ついたらどうすんだよ……」
「聞いてなかったんですか? 先輩は私をお嫁さんにもらう罰を受けるんです」
「罰になってないだろ」
「……っ。せ、先輩ってナチュラルにそういうとこありますよ」
「いや照れてる場合じゃなくて、罰は別のものに変えて」
「嫌です。困るなら嘘を吐かなければいいだけの話です」
「それはそうなんだけど」
何事にも絶対はないからな。
何かしらの理由で約束が守れないこともある。
「先輩と行きたいとこいっぱいあるので、どこにデート行くか決めかねちゃいますね」
「条件を満たしてないからな。あれこれ考える前にテスト勉強しないとだろ」
俺は参考書に視線を下げながら、首筋をポリポリと掻いた。
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